第39話 三度目の?

 夕方までお楽しみでしたね。


 そう言われてしまうほど濃密な時間を過ごし、夜。

 準備を済ませた俺たちは、あとから合流したオスカーさんたちと落ち合う。


「こんばんは、オスカーさん。先ほどぶりですね」


 俺が二メートル近い巨体に挨拶をすると、スキンヘッドの強面は、手に大きなパンを持ちながら挨拶を返す。


「もぐもぐもぐ……おぉ! こんばんは、ユークリウス様。そちらは大丈夫ですか? 体力とか」

「た、体力⁉」


 一瞬、オスカーさんは俺たちが何をしていたのか知ってる⁉ と思ったが、即座に違うことを悟る。

 これからまた夜通しの監視だ。その体力があるのかどうかの確認だと思われる。


「? どうかしましたか、ユークリウス様」


 俺の過剰反応にオスカーさんが首を傾げる。

 なんとか表情を取り繕い、俺は誤魔化す。


「い、いえ何も。オスカーさんたちのほうこそ大丈夫ですか? 普段の業務で疲れているでしょうに」

「なあに、心配には及びませんよ。むしろこういう息抜きのほうが楽しいくらいです。なぁ、お前ら!」


 オスカーさんは背後に並ぶ部下たちに、やたら大きな声で呼びかけた。

 すると、部下たちは全員がグッと力こぶを作って肯定する。


 元気な人たちだなぁ。


 正直に言うと、何時間もぶっ通しでいたしてたから、俺のほうは少し疲れている。朝方まで体がもつとは思えない。

 それはエルネスタも同じなのか、彼女にしては珍しく欠伸を漏らしている。昨日より早い。


「頼もしいですね、エルネスタ殿下」

「はい。彼らが何か面白い物でも見つけてくれるといいんですが」

「お任せください。一つくらい証拠を掴んでやりますとも」

「本当ですかい、ギルドマスター」

「ユークリウス様の前でカッコつけてるんじゃね? 前に、自分もまだまだ現役だとか言ってたぞ」

「ギルドマスターが現役だったのって、それこそユークリウス様が子供の頃だろ」

「生まれてすらねぇっての」

「あははは!」


 胸を張るギルドマスターの姿に、気さくな部下たちがからからと笑う。

 その話を聞いていたギルドマスター・オスカーさんは、きらきらのスキンヘッドに青筋を浮かべていた。


 鬼のような形相で部下たちを叱りつける。


「てめぇら! ぐちぐちとうるせぇぞ! 俺は今でも現役だっての! つうか、ユークリウス様が子供の頃から現役じゃぼけぇ!」

「うわっ! ギルドマスターが怒ったぞ! 逃げろ!」


 わー! とオスカーさんに追いかけられて、部下の付与師たちが一斉のどこかへ散らばる。

 これから仕事だというのに、本当に元気な人たちだ。

 楽しそうな彼らを見ていると、不思議と俺たちも元気をもらえる。


 背後に並ぶエルネスタが、騒がしいオスカーさんたちを見てくすりと笑った。


「ああいう雰囲気もいいですね」

「確かに。俺にはなかった青春だな」


 王国にいた頃でさえ、まともにはしゃげる友人はいなかった。

 少しだけ眩しいのかもしれない。


「今からでも遅くないですよ。どうせなら、混ざってくればよいのでは? 皆さん同じ付与師ですし」

「いやぁ……さすがにあの中に混ざるのは勇気がいるというかなんというか」


 見なよ、あれ。オスカーさんに捕まって首を締め上げられている。

 俺もよくエルネスタに喰らったが、意外と苦しい。オスカーさんほどの巨体にあんな真似されたら、俺の首の骨が折れてしまう。


 過剰なスキンシップは、俺には早いらしい。


「ふふっ。では、ユークリウス様にはわたくしが」


 ぴたりとエルネスタが俺に抱き付く。

 近くには付与師たちが沢山いるのに、ちょうど視線が切れているからと大胆な子だ。

 でも、それを嫌だと思わない俺もまた、同じ穴の貉か。


 俺たちは彼らの喧騒を聞きながら、静かに過ごす。

 やがて、ボロボロになった部下を連れてオスカーさんが戻ってくる。


 ……本当に、これから仕事をするんだよね?











「よーし、お前ら。魔法道具は持ったな?」


 しばらく休憩を挟み、深夜。

 頻繁に壊れる魔法道具の近くで、隠れるように俺たちは待機していた。


 後ろに並ぶ部下数名に、オスカーさんが声を抑えて問いかける。


 部下の付与師たちは、それぞれが魔力を探知するための魔法道具を片手に頷いた。

 これで準備完了だ。

 いつでも何が起きても対処できるはず。


「今日はどのくらいのタイミングで干渉が入るかな」

「一昨日は分かりませんが、昨日はこれくらいの時間でしたね。恐らくそろそろ——」


 エルネスタの言葉の途中、張り詰めた空気が流れた。

 それは、オスカーさんを始めとする付与師が持った魔法道具に、強烈な反応が見られたからだ。


 昨日、俺が見たように巨大な波紋が魔法道具の表面に描かれる。

 間違いなく、魔法道具に魔力が干渉している証だ。


 遅れて、干渉された魔法道具がバチバチと音を立てて点滅を始める。


「あれがユークリウス様の仰ってた……」


 現実に起きた現象と、魔法道具に映し出された魔力反応を見て、オスカーさんがごくりと喉を鳴らす。

 しかし、俺の時と違い、専門家のオスカーさんは何かに気づいた。


 じっと、魔法道具を見つけてから、すっと指を示す。

 オスカーさんが指した方向には、元々灯篭を置いていた柱しかない。


 それを示したまま、オスカーさんは告げた。


「あそこに……何かがありますね」

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