第36話 パワー系皇女
「なるほど……やはり、人為的なものでしたか」
翌日。
後宮を出た俺とエルネスタは、馬車で商業ギルドまで移動した。
そこでオスカーさんを呼び出し、昨日の件を伝える。
話を聞いたオスカーさんは、うんうんと首を捻りながら重苦しい声を発した。
「だとすると、皇族の皆さんの体が心配ですね」
「暗殺されるかもしれない、と?」
「可能性の話だけなら高いでしょう? なんせ、警備用の魔法道具もダメになってるんだ」
「そう、ですね……」
オスカーさんが言うとおり、後宮内で壊れた魔法道具の中には、警備用の物も含まれる。
というか、重点的に警備用の物が壊されていた。
これはもう何者かの悪意ある仕業だとしか思えない。その意見には俺も同意する。
「ちなみにですが、犯人の姿は見ていませんよね? それらしい姿でもいいんですが」
「いえ、壊れた魔法道具の近くには誰もいませんでした。他の場所に潜んでいた可能性はありますが」
答えたのはエルネスタ。
俺も頷き、オスカーさんはさらに顔色を変えた。難しいことを考えているっぽい。
「なるほど。広範囲の魔法道具を一度に破壊する方法……謎が深まりましたね」
「一応、人為的である可能性が高まったので一歩前進してはいますよ」
「確かに。このことは皇帝陛下に?」
「伝えてあります。ね、エルネスタ」
「はい。早速、本日から皇族の護衛を増やしました」
「だから後ろに仰々しい騎士が何人もいるのか」
ちらりとオスカーさんが俺たちの背後を見る。
ちょうど俺たちの背後には、五名ほどの騎士が並んでいた。
彼らは帝国でも有数の騎士たちだ。それが五人も揃えれば、まともに襲撃をかけられる者もいまい。
全員が騎士団団長を務められるほどの器でもあり、皇帝陛下のエルネスタに対する溺愛っぷりがよく分かる。
「ご容赦ください。彼らも仕事なので」
「いえいえ。第二皇女殿下を守るのは大事なこと。それは俺も分かっています」
オスカーさんは首を横に振り、恐縮した素振りでエルネスタに頭を下げた。
次いで、真剣な表情に変わる。
「それより……今夜、俺も後宮へ足を運んでも構いませんか? 複数の部下と一緒に調査をしたいと思います」
「ええ。そのために今日はここへ足を運んだと言っても過言ではありませんから」
偶発的なものでも専門家の知恵を借りようと思っていた。
それが人為的なものだと分かり、よりいっそうオスカーさんの助力が求められる。
昨日と今日とでは決定的に違う。今は時間が惜しいのだ。
「解決できるかどうかは置いて、尽力いたしましょう。準備を終わらせ次第、後宮へ向かいます」
「ありがとうございます。では我々は先に帰りますね。またあとで」
俺もエルネスタもオスカーさんにさよならを告げて部屋を出た。
商業ギルドを出て、外で馬車に乗る——前に。
ふと、俺の視界に小汚い男女の姿が映った。
何やら複数の男性たちと揉めているらしい。
彼らの声が聞こえてきて、俺は顔をしかめた。
「おい野良犬共! お前らみてぇのがどうしてこんな金持ってんだ!」
「いいだろ別に! 俺がしっかり稼いだ金だ!」
「いいわけねぇじゃん。お前、今まで盗みとかしてたくせに偉そうなんだよ!」
「この金はその補填に使わせてもらおうかな? ひひひ」
「はぁ⁉ その分はさっき返したじゃねぇか! 調子に——」
「うるせぇよ!」
ガツン、と男の蹴りが小汚い少年に当たる。
少年は無様にも地面に倒れ、痛みに悶える。その傍にもう一人の女性が近づいた。
「大丈夫⁉ ——なんでこんな真似!」
「あ? お前らみたいな薄汚い野良犬が、俺たちに盾突くからだろうが!」
「でもお前のほうは何かに使えるかもしれねぇな。ちょうどいい、金を返してほしかったら俺たちと一緒にきな」
「可愛がってやるぜ」
「きゃっ⁉」
女性のほうは腕を掴まれて無理やり引っ張られている。
これはさすがに事件だろ。そこまで見て、俺は動いた。
軽く走って男たちの下へ向かう。
「ユークリウス様?」
背後からエルネスタの声が聞こえたが、今の俺は止まれない。少しでも早く、男たちの進行方向を塞いだ。
「おい、お前ら。子供を甚振って楽しそうだな」
「誰だてめぇ! こいつらの知り合いか?」
「そうだ。大切な友人によくもまあ暴力を振るってくれたな」
「はっ、こいつらは自業自得だろうが!」
「金はちゃんと払ったんだろ? それなのに暴力を働くのはよくないな。それに、彼女を放せ。やりすぎだ」
「うるせぇよ!」
ぐわっ! と男の一人が殴りかかってきた。
俺は暴力が苦手だ。殴り合いには自信がない。多少の痛みは我慢するしかない——と腹をくくったが、俺が殴られるより先に、別の拳が飛んできた。男たちのほうに。
「何をしてるんですか!」
エルネスタだ。
彼女は、俺を殴ろうとした相手を逆に殴り飛ばし、数メートル先まで吹き飛ばした。
わおっ。なんという怪力。明らかに相手のほうがデカいのに、それを無視したパンチに俺は驚愕した。
遅れて騎士たちがやってくる。
男たちは囲まれ、顔色を真っ青にした。
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