第33話 魔力感知の魔法道具

「後宮の警備用魔法道具を無力化する……か」


 ごくり、と生唾を飲み込んでオスカーさんが額に汗を滲ませた。

 話を聞いていたエルネスタも、表情が暗い。


「可能性としてあるかもしれない、くらいのものですけどね」

「いや、俺もユークリウス様の意見に同意する。でなきゃ、後宮にある魔法道具を連続して故障させる理由はねぇよ。リスクがありすぎる」

「まあまあ。落ち着いてください、オスカーさん。まだ人の手による仕業かどうかも判明してませんし……」


 これが人為的なものならその可能性はかなり高い。

 オスカーさんが言ったように、普通の人間は後宮で実験したりなどしない。明らかにリスクとリターンが釣り合っていないのだ。


 けど、そもそもどうやって魔法道具を故障させているのか。それが分からないかぎり、人為的か偶然の産物かは判断がつかない。


「俺ぁ、何者かの仕業だと思うけどな。連続して魔法道具が壊れるかよ」

「ひとまず、今日も魔法道具の様子を見て確認します。仮に人為的だとして、遠隔からの干渉は気づきにくいですが」

「それなら面白い魔法道具があるぜ」

「面白い魔法道具?」


 なんだろう、と俺は首を傾げる。

 オスカーさんはにやりと笑って続けた。


「魔法道具っていうのは魔力を使って効果を発揮する。だから魔力そのものを感知する魔法道具を使えばいいんだ。きっと干渉するなら相手も魔力を使ってるはずだからな」

「……なるほど。そんな魔法道具があったんですね」

「一般には流通してない物だからな。知らなくても無理はない」


 そう言ったオスカーさんは、おもむろにソファから立ち上がった。


「ちょっくらその魔法道具を取ってくるぜ。待っててくだせぇ」

「分かりました」


 部屋から出ていったオスカーさんを見送り、俺はふぅとため息を吐く。


「オスカーさんが言う魔法道具で、今回の騒動の原因が分かればいいんだけど……」

「そうですね。何者かの仕業だとすると、今後、我々皇族はより強固に身を守らないといけません。第二皇女のわたくしも」

「魔法道具がでたらめに干渉されて壊されるなら、とにかく騎士たちを傍に付けるのが一番かもね」

「はい。ユークリウス様も気をつけてくださいね。相手の狙いがあなたである可能性もありますから」

「お、俺?」


 突拍子もないエルネスタの話に、ぱちくりと瞬きする。

 俺が不審者に捕まる理由もなければ、不審者が俺を狙う理由もなさそうに思えるが……。


「今やユークリウス様は、帝国の天才付与師として名高い存在です。ユークリウス様の作る物は希少価値が高く、解呪の魔法道具さえも作り出した手腕は驚異的ですらあります」

「うーん……でも、前半はともかく、後半の解呪の魔法道具については誰も知らないよ? 知ってるのは俺たちと、皇帝やメロウ小王国の王族くらいさ」

「意外と耳聡い者はいます。ですから、気をつけてくださいね。なんだか嫌な予感がします」

「い、嫌な予感……」


 そんなことを言われたら俺もしっかり警戒しないといけなくなる。

 だが、後宮に手を出してまで俺を攫うような連中がいるとは思えないけどな。

 だったら皇族の暗殺が目的——と言われたほうが納得できる。

 その場合、真っ先に狙われるのは皇帝陛下だ。皇女のエルネスタは優先順位は低いと思われる。


 一応、無力化されることを前提に防御用の魔法道具作りを行おう。さらに、エルネスタの身の周りを強固にせねば。


 オスカーさんが戻ってくるまでの間、ひたすら俺はそんなことを考えていた。











 十五分ほどでオスカーさんが戻ってきた。

 彼の手には、薄く小さな板がある。

 その板を俺に差し出すと、彼は言った。


「これが魔力を探知するための魔法道具です。魔力を籠めると、表面に魔力の波長を観測する絵が浮き上がります。面白いですよ」

「試してみていいですか?」

「もちろん」


 オスカーさんに許可をもらったので、俺は自分の魔力を板に流した。

 この魔法道具は、他の魔法道具と違って魔石を使わずに動く。

 それは、この魔法道具が設置タイプの物ではないからだ。


 設置型の魔法道具は、冷風機や冷蔵庫といった常に動かしておきたい魔法道具のこと。あれらは効果を維持するために魔石を事前にはめこんで使う。


 基本的に魔法道具は魔石があったほうがいい。どれであっても。しかし、この魔法道具には魔石はなかった。使用用途がかぎられるからかな?


 とにかく。

 俺が流した魔力に反応して、板の表面がわずかに光った。

 やがて表面には、全方位から青色の波のようなものが押し寄せてくる。それが中心に当たると消え、その繰り返し。


「この青い波みたいなものが魔力ですか?」

「ええ。ここはギルドだから大量の魔法道具が稼働している。だからいろんな波長がこの魔法道具に届くってわけですさぁ」

「なるほど」


 中央が自分ってことか。

 面白いけど、これだと結局魔力の特定に時間がかかる。

 何もないよりマシだが、本当にこれで魔法道具に干渉する何かを判別できるのだろうか?


 そう思ったが、ひとまずオスカーさんからこの魔法道具を借りることにした。

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