第30話 失言しました

「はいあーん」

「あーん」


 時刻は昼。

 ずっと魔法道具と睨めっこしていた俺を見かねて、エルネスタが城下に連れ出してくれた。

 両手に付いた鎖付きの手錠にも慣れたものだ。


 その状態でエルネスタが差し出したフォークの先にある肉を食べる。

 もぐもぐ。美味しい。


「どうですか、ユークリウス様。この店の料理は美味しいと有名なんですよ」

「うん、凄く美味しいよ、エルネスタ」

「それはよかった! ずっと魔法道具のことばかり考えていては、頭が固くなってしまいますからね」

「そのために俺をわざわざ城から出してくれたのかい?」

「ええ。ユークリウス様の体は帝国の宝。たまにはこうして息抜きしないと」

「いいのかなぁ。故障した魔法道具に関して何の手掛かりも見つけてないのに」


 俺はあの後、数時間にもおよび魔法道具同士を見比べてみた。

 しかし、どちらの魔法式にもこれといった違和感を見つけられず、直してはみたがまた壊れる可能性があった。


 不安は決して拭えていない。


「構わないでしょう。仮にあのまま壊れ続けても捨てればいいだけですから」

「捨てるって……割と高価な代物だよ?」

「王宮にはそれなりに魔法道具があります。今回壊れた物も、替えはいくらでも用意できますから」

「そうか皇族だもんね」


 エルネスタの財力は帝国一。それどころか、この辺りの大陸でも一番じゃなかろうか。


 大帝国の第二皇女様はそれだけ偉いし、帝国はそれだけ凄い。

 俺が心配しすぎただけかもね。あと、元々前世の記憶を持つがゆえに、考えが平民に偏っていた。お金を使う分には、経済が回って悪くない。


 嫌になるね、自分の貧乏性には。


「でも原因の解明はしなきゃ。魔法道具が壊れ続けると、さすがに出費がかさむ」

「そうですね。きっとユークリウス様なら解決できると信じています」

「期待が重いなぁ」


 やる気はあるけど期待されると緊張するものだ。


 まあ、エルネスタに頼られるのは嫌いじゃない。俺としても、魔法道具関係の問題はなるべく解決したかった。

 頑張らないとね。


「ユークリウス様に期待するな、というほうが難しいです。けど、無理はしないでくださいね? 今はわたくしとのデートが最優先ですよ」

「あはは……一人で出掛けたりはしないの?」

「それは、ユークリウス様も一人で出掛けたい、ということでしょうか?」

「まあね。たまには必要だと思うよ。自分の時間も」


 正確には、俺だって一人の時間くらいはある。

 エルネスタは皇帝の仕事の一部を担っているため、夜以外は割と部屋にいなかったりする。

 だから部屋限定ではあるが、俺の時間も充分に取れている。


 しかし、外に遊びに行くにはエルネスタの許可を取り、その上でエルネスタがいないとダメだ。

 そういう意味だと、あまり自由はないね。


「そんな……浮気したいってことですね⁉」

「どうしてそうなった⁉」


 俺のささやかな意見を聞いたエルネスタは、——ぐにゃり。手にしていた銀製のフォークを指の力だけで折り曲げ、不穏なオーラを放つ。


 ま、マジか。キレるかも、とは思っていたが、ここまで過剰な反応をされるとは思ってもいなかった。

 そもそも銀製のフォークって指で折り曲げられるのか?


 試しに俺もやってみるが、うんともすんとも言わなかった。

 さすが貴族が利用する店。食器などしっかり作られた物を使っている。


 それだけに、エルネスタの馬鹿力も強調させれていた。


「誤解だよ、エルネスタ。浮気なんてしない」

「ユークリウス様のことは信用しています。ですが、女はケダモノ。ユークリウス様を見て何をしでかすことか」

「女の子のほうがケダモノなんだ」


 普通は逆じゃない?

 完全にアリア殿下の影響を受けているな。


「お願いします、ユークリウス様。わたくしは、ユークリウス様を失ってしまったら……」

「ううん、俺こそごめんね。変なこと言って。ただの呟きだったし、個人的にも今の暮らしには魅力を感じているんだ。エルネスタがいて、楽できて、割と幸せだよ」


 そっと彼女の手を握り締める。

 そこでようやく彼女の不安は消え去った。

 俺の手を見つめながら、次いで、視線が顔に移る。


 お互いに見つめ合うと、同時に笑いあって食事を再開する。




 俺がエルネスタに言ったことは本心だ。ヒモみたいな暮らしも意外と悪くない。

 魔法道具をいろいろ自作してるから生活もどんどん向上してきているし、なんでも届けてくれるのは本当に便利だ。


 しいて言うなら、室内だと娯楽が少ないという点。

 だから俺は外に出たかった。

 魔法道具を作っていないと、俺は酷く空虚な人間だからな。


「——あ、そうだ。帰り、商業ギルドに寄ってもいいかな? ギルドマスターに今回の話と魔法道具に関して伝えたいことがあるんだ」

「商業ギルドですね。畏まりました。わたくしが一緒にいる時は、どこへでも行きますよ。なんでも言ってくださいね」

「娼館とか?」

「殺します」

「ごめんなさい」


 俺の口が余計なことを言った。

 ガチ笑顔の殺します発言が飛んできて、肝がおもいきり冷えた。


 もう二度と言わないようにしよう……。


———————————

今日は2話投稿できないかもぉ!

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