第28話 魔法道具の不具合

 メロウ小王国の王妃にかけられた呪いを解くために、一ヶ月もの間、俺は解呪の魔法道具作りに励んだ。

 その後、無事に王妃の呪いは解け、エルネスタと帝都に戻る。


 久しぶりに自室……と言えるのかは謎だが、部屋に入ると、不思議な居心地のよさを感じた。

 これでいつも通りの日常が帰ってくる。

 そう思っていたが……。











「い、忙しい……」


 目の前に積まれた幾つもの魔法道具を見て、俺はげっそりと表情を暗くする。


 時間にして数時間前のこと。

 約束通りエルネスタのために解呪の魔法道具を作った俺は、王様のために三つ目の解呪の魔法道具を作ろうと作業に取り組んだ。


 そこへ、エルネスタのメイドが大量の魔法道具を持ち運んできたのだ。


 何かあったのかと訊ねると、王宮にあった魔法道具の幾つかに不具合が発生したらしい。


 それなら他の付与師に見せればいいのでは? という俺の言葉に、エルネスタは視線を逸らして言った。


『それが……元々担当していた付与師でも原因が解らないらしいです。なので、天才付与師であるユークリウス様に原因を調査してほしくて……』


 最初はマジか、と思った。

 続いて壊れた魔法道具を見てすぐに「なるほど」と状況の深刻さを理解する。


 たしかに魔法道具は壊れていた。それも、まるで何かしらの干渉でも受けたかのように壊れている。


 内側からは魔力こそ魔石のおかげで感じるが、刻まれた魔法式のほうが乱れていた。

 これでは付与された魔法効果が発動しない。


 さらに魔法式を細かく調べてみると……急に式の一部が破損していた。

 ほんのわずかなノイズではあるが、繊細な魔法式が乱れると小さな傷でも不具合を起こす。


 原因自体は単純だが、そもそも何があってこんな事になったのか。

 魔法式は自然に壊れるようなものではない。


「申し訳ありません、ユークリウス様。魔法道具に関しては知識が少ないもので……」


 ひーひー言いながら魔法道具に刻まれた魔法式と睨めっこしている俺に、隣に座るエルネスタが謝罪する。

 俺は目を離さないまま返事を返した。


「いいよ。他の付与師でも解らなかったんだろ? 見れば一目瞭然だとは思うけど……原因までは俺も解らない」

「ベテラン付与師によると、特に違和感はないと仰られていましたよ」

「本当にベテランなの? その付与師」

「はい。代々王家に仕えている付与師ですから。その魔法道具を作ったのもその付与師ですよ」

「へぇ」


 それなら一応の信用はできそうだな。

 しかし、魔法式に傷があれば誰でも気づきそうなものではあるが……。


「第一、魔法式に傷があるなど初めて聞きました。よく解りましたね」

「よく見るとわずかに魔力の流れが乱れてる。式も削れてるだろ?」


 試しにエルネスタに壊れた魔法道具に刻まれた魔法式を見せる。

 が、彼女は頭上に『?』を浮かべて首を傾げた。


「私には全然解りませんね……どこにも傷はないように見えますよ? それに、魔力の流れとは?」

「んん? どういうことだ?」


 俺にはハッキリとダメな所が見えている。

 けど、他の付与師やエルネスタにはそれが見えない?


 もしかしておかしいのは俺のほうなのか?


 魔法道具から手を離し、やや考える。

 それっぽい答えは得られなかった。代わりに、エルネスタが答えをもたらしてくれた。


「そういえば……ごくごく稀に、魔力の流れなどを視ることができる人がいると聞いたことがあります」

「魔力を視る? 普通の人は見えないの?」


 俺、昔から魔力の流れくらいなら視えてたぞ。それが当たり前だと思っていた。


「視えませんよ。大きな魔力が動けばなんとなく肌で感じますが、色や形を伴って見えることはありません」

「嘘……」


 ここにきてユークリウスの特殊能力が発覚した。


 どうやらユークリウスは、世界的に見ても希少な目を持っているらしい。


「凄いですね、ユークリウス様は。通りで魔法道具作りが他の人より圧倒的に速いわけです。魔力が視えるなら、必要な手順も自ずと見えているようなもの。そうでしょう?」

「そ、そういうことになるね……」


 言われて気づいた。

 魔法道具作りにおいてこの能力? はとても大事だ。

 魔力の流れが解るから魔法式の構築も悩まないし、ミスもしない。魔力が視えるから、魔法式が正しいと一発で解る。


 なるほど。俺が優れている点はそこだったのか。


「新たな発見ができてよかったです。やはりユークリウス様は天才付与師ですね!」

「どうなんだろうね。目がいいってだけだと、付与師としての技術は普通ってわけだし」

「総合的に優れていればそれでいいんですよ」

「そうなの?」

「そうです」


 エルネスタは断固とした態度で頷いた。

 それならばと俺は特に気にせず作業に戻る。


 朝から初めて、全ての魔法道具の点検に夜までかかった。

 詳しい内容を調査し、最終的には原因不明ってことになる。


 果たして何があって魔法道具は壊れたのか。

 直った魔法道具をメイドが持ち運んでいくのを見送って、俺は密かに考える。

 俺が直した以上、もう壊れることはないだろうが……。




 ——そう思っていた。




 しかし、翌日。

 またしても魔法道具が壊れたという報告を聞くことになった。


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のんびりやってたら文字数が10万いかないので、本日から毎日2話更新!

一週間は続くかな?

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