第26話 帝国へ

 アリア殿下が余計な爆弾を落としてくれたせいで、エルネスタがヒートアップして滞在期間が一日伸びた。

 今も、俺の隣でエルネスタとアリア殿下が話し合っている。


「ですから、ユークリウス様にはもう一つ、解呪の魔法道具を作ってほしいのです」

「必要なのは解りますが、解呪の魔法道具が作れると判明した今、優先権はこちらにあります。しばしお待ちください、アリア殿下」

「うぅ……エルネスタ様の仰ることが正論なのは重々承知していますが、母に呪いをかけた相手がまた呪いをかけてこないとも限りませんので……」

「その際は最初に作った魔法道具をお使いください。あの魔法道具は解呪の道具。例えアリア殿下が呪いに侵されても、ペンダントを持てばたちまちのうちに治りますから」


「でもでも……」


「話は以上です。ユークリウス様のことを思うなら、早々に我らを国に帰すべきだと具申します」

「……はい。申し訳ありませんでした、エルネスタ殿下、ユークリウス様」


 エルネスタとの話し合いの末に、アリア殿下は深々と頭を下げた。


 ここ最近、彼女によく謝罪されるな。一応、王女なのに。


「アリア殿下のお気持ちも解りますから、頭を上げてください。それより、王妃殿下の具合は?」

「順調に回復しています。一週間もすればある程度の行動は可能になるかと」

「それはよかった。憂いなく祖国に帰れますね」


 ホッとエルネスタが胸を撫で下ろす。


 元々彼女の頼みでもあったからな。王妃殿下の呪いを解呪するのは。

 なんだかんだ言って、エルネスタも心配だったのだ。王妃殿下が。


「あ、そうでした。解呪のお礼を明日、こちらの部屋に届けさせます。荷物を一緒に持ち帰ることはできますか?」

「はい。馬車には余裕があります」


 なんせ俺とエルネスタ、メイドの三人が乗ってもなおスペースが余るくらいだからな。


 さすがに中には大きな絵画などは入らないが、括り付けるなりして持ち帰る方法はいくらでもある。

 エルネスタが頷き、アリア殿下はソファから立ち上がった。


「畏まりました。では、また明日。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 俺はぺこりと頭を下げてアリア殿下を見送る。


 彼女が扉を閉めていなくなると、エルネスタが俺の肩に自分の頭を乗せた。

 まったりムードである。


「ふぅ。もう一ヶ月も経つのですね、メロウ小王国に来て」

「そうだね。最初は単なるパーティーの出席だったのに、ずいぶんとことが大きくなったもんだ」

「ユークリウス様の有能さが、この国でも認められましたね」

「今後はもっと有名になるのかな」


「有名にしてみせますとも」


「ははっ。程々で構わないよ。……それより、帝都に帰ったら今度はエルネスタの分の魔法道具を作らないといけないね」

「私の分……ですか?」


 あれ?


「違った? さっき、優先権があるとか言ってたから、てっきり自分の分かと」

「ああ。違いますよ。あれはお父様——皇帝陛下への優先権です」

「なるほど。たしかに皇帝陛下の身は守らないといけないね」


 この国の王妃や国王と同じだ。

 エルネスタの父、現皇帝が呪いをかけられてしまうと、国中がパニックに陥る。

 大帝国の皇帝だし、さすがにいろいろな魔法道具で身を守ってるとは思うけどね。


 それでも万が一のことを考えると、今回、強力な呪いを解呪した俺の魔法道具が欲しくなるのも頷ける。

 だが、俺はきっぱりと言った。


「でも、先にエルネスタの分を作りたいな。大切な人を真っ先に守りたいんだ」

「ユークリウス様……好き」


 ぎゅっと腕を抱き締められる。

 彼女の豊かな二つの膨らみに挟まり、幸せな気分を味わった。


 当然、彼女の欲はそれだけでは済まない。

 ベッドに連行され、メロウ小王国滞在期間の最後の一日は……熱い夜を過ごした。











 翌日。

 アリア殿下は、約束通り報酬の絵画や骨董品、宝石などを持って俺たちの部屋を訪れた。


 あまりにも多い報酬に俺は目を回しそうになったが、エルネスタとアリア殿下は平然としていた。

 帰りの馬車でそのことを訊ねると、しごく当然と言った風に彼女は答える。


「今回ユークリウス様がお作りになった解呪の魔法道具は、性能の高さからして国宝レベルの逸品ですよ。むしろ少ないほうです」

「え、えぇ……今ならそんなに苦労せずに作れると思うけど……」

「それはユークリウス様が異常なだけであって、普通はありえません。まさに奇跡の産物、奇跡の才能と言えますね」

「そ、そんなに凄い物だったんだ……」


 自分で作っておいて全然自覚がない。

 話を聞いた今でも疑問符が付く。

 けどまあ、もらえる物はもらっておく主義だ。


「せっかくだし、防御用の魔法道具も作ればよかったかな?」

「やめたほうがいいでしょう」


 すっぱりとエルネスタに否定されてしまった。

 王族なら持っておいて損はないと思うけど……。


「ユークリウス様がもし高性能な魔法道具を作ってしまったら……それはどれだけの価値になることか。というより、王妃殿下の件は非常事態だったので特例です。我が国を優先してください」

「あー……たしかにその通りだね」


 俺ももう帝国の人間だ。帝国の利益を第一に考えないと。


 だとしたら、エルネスタのために防御用の魔法道具を作ろう。解呪のやつと一緒に渡せばきっと喜ぶはずだ。


 帰りの馬車の中、密かに俺は彼女へのサプライズを企画する。

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