第24話 亀裂が入る
アリア殿下の母、王妃殿下の呪いを解呪した。
まさか一発で成功するとは思っていなかったから驚きだ。
それでも、呪いがなくなって本当によかったと心の底から思っている。
アリア殿下たちが感動の対面をしている最中、俺とエルネスタは部屋に戻った。彼女たちの涙や会話に水を差すつもりはない。
「いやぁ……一時はどうなることかと思ったけど、無事に依頼を達成できてよかったね」
「お疲れ様でした、ユークリウス様。本当に……たった一ヶ月で解呪の魔法道具を作ってしまうなんて」
スッとエルネスタが俺の腕を抱き締める。肩に頭を置いて笑っていた。
「むしろ俺としては一ヶ月もかかったことに驚きだけどな」
「ユークリウス様はご存じないようだったので何も言いませんでしたが、解呪の魔法道具はベテランの付与師でも簡単には作れません。聞くところによると、アリア殿下が用意してくださった物でも年単位かかるとか」
「——え?」
ここにきて初めて聞く情報がもたらされた。俺の目が点になる。
「う、嘘だろ? たかが魔法道具一つ作るのに……一年以上?」
「それだけ解呪の魔法道具というのは難しい代物なんですよ。ユークリウス様はさらりとやってのけましたが、普通は細かい調整に時間をかけるものらしいです」
「嘘ぉ……」
俺はその辺り、結構感覚で進めていった。
なんとなくこうしたらできる——と。
それが一番重要だとは思わなかった。
どうりでエルネスタが何も言ってこないはずだ。普段は、傍で魔法道具作りをしてるといろいろな質問を飛ばしてくるのに。
今回はより集中させてくれたってことか。余計な情報は漏らさずに。
「ふふ。やはりユークリウス様は帝国が誇る最高の付与師ですね。呪いの解呪なんてまさに国宝級ですよ?」
「その国宝級の魔法道具を使い潰してもいいって言ったアリア殿下は一体……」
「それだけ王妃殿下を助けたかったのでしょう。今頃、国王陛下にも報告はいってるかと。報酬には期待できますね」
「下世話だけどそうだね。頑張ったし、少しくらい強請っても許されると思うんだ」
なんたって王妃を救ったからね、俺は。
エルネスタと一緒に何をお願いするのか、予め考えてみた。もちろん、国王側が決める場合もある。その時は素直に受け取る所存だ。
そうしてアリア殿下が落ち着き、彼女に呼ばれるのを待つ。
声をかけられたのは、数時間後の夜だった。
☆
「この度は……母を、王妃を救っていただき、誠にありがとうございます!」
大きな声でアリア殿下がお礼を言った。
目の前で深々と頭を下げる。
対面の席に座る俺は、
「あ、頭を上げてください、アリア殿下。感謝のお気持ちは充分に解りましたから」
と慌てて彼女を止めに入った。
どれだけ感謝の気持ちが溢れていても、王女が一介の付与師である俺に頭を下げるのはどうかと思う。
たしかに俺は皇女エルネスタの婚約者でもある。立場的には彼女と同じかそれ以上だ。
しかし、あくまで婚約者。エルネスタや皇帝の気分次第で変わる立場に他ならない。畏まられても困るのは俺だ。
「いいえ。恩人であるユークリウス様に頭すら下げられない恥知らずにはなりたくありません! 私は、心の底からユークリウス様に感謝しています! また、母と話すことができました」
彼女は泣いていた。部屋に入った時は目元が真っ赤に晴れ上がっていたが、涙は流していなかったのに。
そんなに泣くと泡のように溶けてしまいますよ——とは言えない。そこまでキザにはなれなかった。
渋々、彼女の感謝を受け入れる。
「本当なら母……王妃もユークリウス様にお礼を言いたかったそうですが、何分病み上がりなので休ませています」
ようやく顔を上げた彼女は、近況の報告から入った。
「気にしないでください。せっかく呪いを解呪できたのに、無理をして倒れられても困ってしまいますから」
「ありがとうございます。ですが、しっかりとお礼の品は用意します。国王陛下もこの件に関しては金に糸目はつけないそうです。なんでも仰ってくださいね」
「まあまあまあ! よかったですねぇ、ユークリウス様。自由に選べるそうですよ」
「一応考えてはいたんだけど……いざなんでもいいと言われると渋っちゃうね。迷いも出る」
「私にできることなら遠慮なく。芸術関係なら我が国はそれなりに珍しい物が出せますよ」
「そうですねぇ。じゃあ、エルネスタ殿下と決めたいくつかの品を譲っていただきたい」
「解りました。後ほど紙をお渡しします。そちらに欲しい物を書いてください」
「ありがとうございます」
「他には何かありますか? お金も融通できますよ」
「それは大丈夫です。金には困っていないので」
なんせ皇女のヒモだ。欲しい物は全て用意してくれる。
あくまで今回お願いするのは、帝国のためになる物。どうせ俺の願いはエルネスタが叶えてくれるからね。
「そうですか……あ! じゃあ、私からとっておきの提案が」
「とっておきの提案?」
なんだろう。面白い物でもくれるのかな?
帝国にない物はなんでも関係するよ。
そう思って彼女にオウム返しすると、アリア殿下は満面の笑みを浮かべて言った。
「はい! 私を側室にしてみませんか?」
——ピシリ。
空間にヒビが入る音が聞こえた、気がする。
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