第22話 完成
エルネスタと共に国王を祝う生誕祭のパーティーに参加した。
メロウ小王国は芸術の国と言われるだけあって、パーティーも豪華だ。
装飾などの美しさは帝国のそれを超える。
だが、それら装飾に囲まれた俺の耳に、あまり面白くない話が入ってきた。
「治安の悪化に、裏の組織……か」
話を教えてくれた貴族子息と別れた後、俺はぽつりとエルネスタの前で呟く。
彼女もまた同じことを考えていたのか、反応を示す。
「物騒な話ですよね。メロウ小王国は比較的平和な国だと聞いていましたが……いつの間に」
「むしろ平和だからこそつけ込みやすかったんだろうね」
隠れ蓑にも最適だ。
問題は、その犯罪者組織が魔法道具製作の件と関係しているのか。
王妃が呪いを受け、その上でメロウ小王国には怪しい陰がある。
治安の悪化も含めて俺はなんだか無性に気になった。
「エルネスタはどう思う? 呪いの件と関係しているかな?」
「どうでしょうね。今の時点ではなんとも。ただ、無関係とは思えません」
「だね。でも、俺たちにできることは何もない。関係あろうがなかろうが、魔法道具さえ作れれば解決するしね、こっちは」
「はい。ですから頑張ってくださいね? ふふ」
「はあい」
もちろん全力で取り込むよ。
仮にその裏の組織とやらが呪いの魔法道具を作ったとしても、解呪の魔法道具があれば今後も役に立つ。
俺が気にしているのは……その組織が何を企んでいるのかだ。
俺たちがメロウ小王国にいる間に、厄介なことにならなきゃいいけど。
そう思いながら、俺はエルネスタとパーティーを楽しんだ。
束の間の息抜きである。
☆
数時間にも及ぶパーティーが終わった。
俺は多くの貴族子息、令嬢たちと言葉を交わした。中には、魔法道具を作ってくれという注文をしてきた者も少なくない。
しかし、今は依頼が請けられないと丁寧に断った。
顔色を変えて舌打ちする者もいたが、さすがに王女様の依頼が最優先である。
ヘトヘトになりながら自室——エルネスタの部屋に戻る。ベッドに正装のまま寝転がった。
「あぁ……疲れた」
「服にシワが付きますよ、ユークリウス様」
「今は服より体調だよ……」
「ふふ。人気者でしたからね、ユークリウス様は」
「みんな魔法道具が好きだね。まさかあそこまで必死に頼まれるとは」
主に身を守る魔法道具の依頼が多かった。
付与師全体の数が少ないとはいえ、だ。いくらなんでも注文が多すぎる。
「貴族にはいろいろあるんですよ。元伯爵子息のアナタが知らないはずもないでしょ?」
「まあね」
答えて上体を起こした。
さすがに借り物の服を台無しにするわけにはいかない。ボタンを外して着替えを始める。
もはやエルネスタの前で服を脱ぐのに抵抗はなくなった。
「ところで、ユークリウス様はすぐにでも魔法道具の製作に取り掛かるんですか?」
「うん。別にやりたいこともないし。疲れてはいるけど、少しくらい手をつけておきたいんだ」
「まめですね。カッコいいです」
「ありがとう」
どこかカッコいいんだか。でも素直に嬉しかった。
ラフな格好に着替え終わると、テーブルの上に置いたままの材料やら途中まで手をつけた魔法道具に触れる。
また孤独な時間が始まろうとしていた。
「では私もユークリウス様を癒しながら見守っていますね」
エルネスタがそう言って俺の隣に腰を下ろす。
ぴたりとしだれかかってきた。
「……やりにくい」
「まあまあ。婚約者がこれほど密着しているというのに、出た言葉はそれですか? 酷いです」
「いや、魔法道具の製作があるから、俺には」
「今日くらい休んでも文句は言われませんよ」
「すぐに寝るよ。明日からは時間が沢山取れるしね」
「そんなこと言ってなかなか休まない人をわたくしは見てきました。誰のことか解りますか?」
「さあ、誰だろう」
適当にしらを切ってみる。
直後、俺の腕がつねられた。
「いたっ⁉」
「ふざけないでください。わたくしはユークリウス様の体調を考えているんです。無理をしたら元も子ともありません」
「ご、ごめんなさい……本当に少しだけ弄ったら寝るよ。最後に調整しておきたい部分があるんだ」
「解りました。見てますね」
「はあい」
どうやら俺の信用はあまりないらしい。
体を離し、メイドに紅茶を頼みながら本当にエルネスタはずっと俺の傍に居続けた。
彼女との間に流れる無言の間は、意外と嫌いじゃない。
☆
生誕祭のパーティーからさらに月日は過ぎる。
帝国に帰ることなくひたすら魔法道具作りに専念していた俺は、パーティーからおよそ一ヶ月もの時間をかけて……ようやく、一つの魔法道具を生み出した。
手元にある小さなペンダントを見つめ、ホッと息を吐く。
「できた……!」
やっとまともに完成と言える物ができた。
たった一つの魔法道具を作るのに一ヶ月。なんて長い道のりだったことか。
それでも性能は折り紙つき。かなりレベルの高い呪いだって解呪できるはずだ。
「おめでとうございます、ユークリウス様!」
隣に座っていたエルネスタが、感極まって俺に抱き付く。
俺もまた、嬉しさが溢れて彼女を抱き締め返す。
「まだ王妃の呪いが解けるかどうか解らないけど、ひとまず山場は超えたよ! これからもっと早く魔法道具を作れるようになると思う!」
一度やり方は覚えた。細かい調整も体に叩き込んだ。
二度目からはサクッと作り出せるだろう。
「ひとまずアリア殿下に報告しましょう。メイドに魔法道具が完成したと連絡させますね」
彼女の提案に俺はこくりと頷いた。
背中をソファに預け、アリア殿下が来るまでの間、のんびり気持ちを心を休める。
たった一つだけなのに、やけにやりきった感があるなぁ。
願わくば、今も苦しんでいる王妃の呪いが、これで解呪されることを祈る。
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