第18話 アリア殿下のお願い
エルネスタと共にメロウ小王国の王都にやって来た。
そこで俺たちは、メロウ小王国の国王ならびに王女と顔を合わせる。
不思議なことに、挨拶をした王女アリアは、やけに真剣な表情で俺を見つめていた。
なんだ? 魔法道具が欲しいとか付与師に興味があるとかそういう感じかな?
俺が内心で疑問を覚えていると、その間にもエルネスタと国王の話は進んでいた。
今後の予定を国王から聞いたエルネスタは、しばらく国内を見て回って楽しむと告げる。当然、そこには俺も含まれているのだろう。
特に俺が喋ることもなく謁見は終了。俺とエルネスタは王宮内の一室を借りてそこに滞在することになる。
前回のシオドアたちとは対応が違うって? 当たり前だ。
彼らは勝手に旅行に来ただけ。挨拶をするのは礼儀だが別に泊めてやる義理も必要もない。
それに、シオドアたちだって自分たちのプライベートを楽しみたいはずだ。それを邪魔するのは野暮ってもの。
しかし、今回の件はそんなシオドアたちとは異なる。メロウ小王国国王からの正式な招待だ。
厳密には招待されたというわけではないが、どちらにせよ立場はこちらのほうが上。
ゆえに、最高級のおもてなしをするのが礼儀とかなんとか。
俺もエルネスタに聞いたから詳しいことは何も知らない。不自由なく暮らせるならそれでいいと思っている。
先頭を歩くエルネスタに続いて、自分たちの部屋に到着する。
アルビジア帝国のように俺とエルネスタの部屋は別々だ。婚約者であっても分別は弁える。実に素晴らしい。
「エルネスタはどっちの部屋がいい?」
「どちらも同じだと思いますよ。というか二つも使いませんし」
「……え?」
彼女の言葉に俺は戦慄した。絶句する。阿鼻叫喚。
まさかとは思ったが、ここでも彼女と同じ部屋⁉
慌ててエルネスタを説得しにかかる。
「じょ、冗談だよな? 曲がりなりにもここは他国の王宮だぞ? 同じ部屋で王女と平民が生活するなんて……」
「ユークリウス様はわたくしの婚約者。何も不自然なことではありません」
「不自然だよ!」
どこからどう見ても聞いても喋っても不自然だ。逆にどう頑張って押し通そうとしたんだ?
相変わらずやりたい放題な彼女に、今回ばかりは苦言を呈す。
「相手のことを考えて、パーティーが終わるまでは部屋を分けよう。なに、たった二週間ほどさ」
「どうしてですか⁉ 浮気ですか⁉ どこの豚の骨とぺろぺろしゃぶしゃぶなんですか⁉」
「食べ物の話?」
「恋の話です!」
それもちょっと違う気がするけど余計なことを言ったら殴られそうだったので口を噤んだ。
けれど口を塞いでも俺は胸倉を掴まれる。女性にしては凄い力だ。ふわりと俺の足が床から離れた。
「ぐ、ぐるじい……落ち着いて、くれ、エルネスタ様……」
なんでこんな馬鹿力なんだ⁉ 明らかに俺よりパワーが強い。
引きこもりと皇女ではこうも力の差が出る……わけない! きっとベヒモス様あたりが原因な気がする。
「いけませんいけません! わたくしはユークリウス様と離れると不安で夜も眠れなくなります! 張り裂けそうなほど胸が苦しいのです!」
「張り裂けそうなのはむしろ俺……」
ぐぎぎ。そろそろ呼吸困難になりそう。
パンパン、と彼女の手を叩くと、俺の様子に気づいたエルネスタが床に下ろしてくれた。ホッとひと息吐く。
死ぬかと思った。
「ご、ごめんなさい、ユークリウス様。大丈夫ですか?」
「う、うん。怪我はないよ。俺こそごめんね、エルネスタの気持ちを無碍にして」
俺は別に当たり前のことしか言ってないが、基本的に謝っておけばなんとかなると聞いたことがある。
「いいえ! ユークリウス様がわかってくれるならわたくしは充分です」
「……ん?」
あれ? おかしいな。俺は別に彼女と同じ部屋でいいよ、とは一言も言ってない。
が、今のエルネスタの言葉のニュアンスは、まるで俺が彼女の提案を受け入れたかのようだ。
一応、間違いがあるかもしれないから訊いてみる。
「エルネスタ? 部屋は別々だよね?」
「? 一緒ですよ」
ダメだったー!
俺の希望はあっさりとエルネスタに砕かれた。
心底不思議そうに俺のことを見てる彼女に、「だから別の部屋にしようよ!」とは言えない。言ったら後が怖い。
「ささ、なるべく奥の部屋を選びますね。右側でどうでしょう」
「もうなんでもいいよ……」
俺は諦めて肩をすくめる。その肩をエルネスタに掴まれ、彼女が選んだ右の部屋へと連れていかれる。
護衛の騎士たちは何も言わない。どこか「ご愁傷様に」と顔が語っていた。
お前らは止めろよ。
内心でツッコむ。
☆
部屋に入ってしばらく、俺とエルネスタは適当に雑談しながら過ごした。
今日は外に出るつもりはない。だから明日以降の話を交わす。
そこへ、扉がノックされる音が響いた。
「はい」
ソファに座るエルネスタが答える。聞こえてきた声は入り口を守る騎士のものだった。
「エルネスタ殿下。アリア殿下がお越しになりました」
「アリア殿下が? 通してください」
許可を出すと扉を開けて紫髪の女性が入ってくる。メロウ小王国の第一王女アリア殿下だ。
彼女はぺこりと頭を下げて言った。
「こんにちは、エルネスタ殿下。ユークリウス様」
「こんにちはアリア殿下。何か御用でしょうか?」
「少々、そちらにいるユークリウス様とお話したいことがありまして」
「ユークリウス様と?」
どうやら彼女がこの部屋へ来たのは、俺に会うためだった?
俺もエルネスタも首を傾げる。
真面目な表情でアリアは続けた。
「どうか、私のお願いを聞いてくださいませんか?」
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