第17話 熱い視線
エーレンフェルト王国の王子とルシル男爵令嬢が後宮を後にした日。
皇帝陛下に呼び出しを喰らった俺たちは、そこでメロウ小王国が近々大規模なお祭り——国王の生誕祭を開くとの話を聞いた。
その生誕祭のパーティーに俺とエルネスタも加わることになる。
開催されるのは一ヶ月後。
一ヶ月なんてあっという間だ。
適当に次に作る予定の魔法道具でも想像しながら生活していたら、もう来月——生誕祭の二週間前になった。
二週間も前ではあるが、そろそろエルネスタと馬車に乗って移動する。
荷物は最低限に、俺は用意された馬車に乗り込んだ。
「メロウ小王国か……確か芸術が盛んな国だったよね」
「はい。よくご存じですね」
「授業でそんな内容を聞いた気がする」
本当は前世の知識だ。
メロウ小王国はゲームの中に少しだけ登場する。
その知識を引き出した結果、やはり俺には何か引っかかることがあった。
本当にささいなようで大きい何かが。
答えは出ない。ゆえに俺は気にしないことにした。
「ユークリウス様は勤勉ですね」
「そんなんでもないよ。成績は普通だったし」
「学生だった頃はあまり積極的に何かしてはいませんでしたね」
「これといった目標もなかったし、いろいろ忙しかったからね」
主に第一王子やルシル、その取り巻きのせいで。
同じことをエルネスタも想像したのだろう。わずかに表情が曇った。
しかし、それ以上は話す必要がないと判断したのか話題を変える。
「でしたね。それはそれとして、メロウ小王国に関してですが、ユークリウス様はどれくらい知っていますか?」
「全然。どんな国なのかくらいだよ」
「ではわたくしから補足しましょう。そもそもメロウ小王国を建国した初代国王は——」
馬車が王都を出る。
なだらかな道を進む中、穏やかな時間が流れた。
俺もエルネスタも雑談に花を咲かせる。改めて彼女は博識なんだと驚くことになった。
悪役でなければエルネスタ以上に素晴らしい女性もいないね。
監禁の件は除いて。
☆
アルビジア帝国、帝都を出て少し。
一つの街を超え、俺たちはメロウ小王国に足を踏み入れた。
芸術の都って言われるだけあって、土地は広くないが非常に美しいデザインだった。
外壁も基本的に白を基調とし、様々なデザインが刻まれている。
街を覆う外壁ですら彼らにとってはただのキャンバスにすぎないのだとわかった。
「おお……これまた鮮やかな街並みだね」
門をくぐって街中に入ると、一面びっしりと描かれた芸術作品が視界に広がる。
どこを見ても何か描いてあった。
住民たちの服装もオシャレだ。帝都では見かけないスタイルだね。
「流行の最先端を知りたいならまずはメロウ小王国へ行け——と帝国内では言われていますからね。大陸一のオシャレ国家です」
「徐々に帝国もああいうスタイルになるのかな」
見た感じ俺の世界の服装に最も近い。帝国よりは近い。
だからかな。少しだけ懐かしさを感じた。
「どうでしょうね。我が国がユークリウス様の作る魔法道具を独占しているように、メロウ小王国もまた自分たちの商売を独占する。商いとはそういうものかと」
「詳しいね」
「いえ、割と適当です」
「そ、そうなんだ」
不思議とエルネスタは詐欺師の才能があるように思えた。
俺も騙されないように注意しないと。
そんなこんなで馬車がさらに町中を進み、やがて大きな建造物が見えてきた。
「王宮が見えてきたね」
「はい。あの宮殿には音楽を司る精霊様がいるとか」
「そういえば精霊がいるんだっけ。エーレンフェルト王国みたいな」
「エーレンフェルト王国にいる光の精霊様に比べると、メロウ小王国の精霊様はあまり争い事に秀でているわけではありませんが」
「一度でいいから見てみたいね」
「チャンスがあれば、ですね」
馬車が正門の前で一度停車し、皇族だという証を見せてから敷地内に入る。
目の前に大きな出入り口があった。ここから先は徒歩での移動になる。
エルネスタを先頭に俺たちは煌びやかな王宮内部を進んでいく。
王宮とはいえウチの後宮より装飾が多いな。
まさに芸術の都か。金のかけようが尋常ではない。
その分、確かメロウ小王国はほぼ軍事力を持たない国だ。帝国に守ってもらうためにその支配下に下った。
正直英断ではあるね。守る価値がこの国にはある。
「——あ。雑談もここまでですね、ユークリウス様。この先の広間に国王陛下がいます」
「了解」
俺は思考を切り替える。
大きな扉が兵士たちによって開かれ、室内が見えた。
奥の玉座には、立派な髭を携えた老人と一人の女性がいる。
おそらくあれが国王陛下と王女殿下だな。
広間の中央まで進むエルネスタに続き、俺もまた中央へ移動する。
そこで一度足を止め、エルネスタはぺこりと頭を下げた。俺も倣って頭を下げる。
「ようこそエルネスタ殿下。久しぶりですな、殿下と顔を会わせるのは」
「はい。お久しぶりです、国王陛下」
「そちらに控えているのが件の天才付与師かな?」
「その通りです。彼の名前はユークリウス。わけあって家名は名乗れません」
「うむ。事前に聞いている。我が国には付与師はほとんどいない。貴殿とは会いたかったよ。なぁ、アリア」
話しかけられたのは紫髪の女性。俺が王女だと思っていた人物だ。
彼女はにこりと笑みを貼り付けて頷いた。
「ええ。本当に……会いたかったです」
彼女の視線が妙に鋭く俺に突き刺さった。
なんだ? 何か……凄く見られているな。
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