医薬品の手引き

 最近、島に偽薬が流通しています。


 島内で認可された正式な医薬品は砂噛さがみ医院ないし、毎月五日・二十五日に訪島する栗城くりき薬屋のみが扱っています。


 偽薬は廉価ですが、充分な効果が現れないどころか、健康を損ねる場合があります。

 恒常的に使用を続けた場合、体内に蓄積した偽薬の成分が死後も重大な影響を及ぼす事例もあります。



 例)

 ・砂噛 千代ちよ(齢七六)


 恥ずかしいことですが、夫は密かに偽薬を購入していたようです。


 肌が鱗のようにささくれ、目が死んだ魚のように白濁してきました。お医者様からもらった薬を飲んでいるか聞いても、飲んでいるの一点張りでした。

 亡くなった後、夫を寝かせている布団が奇妙に濡れていました。


 不審に思って布団を捲ると、遺体の爪先が泡のように溶けて水が滲んでいたのです。

 それから二時間後、目が開くようになりました。御見送りの手引きに基づき、枕の両側に鏡を置き、呼びかけを繰り返し、何とか事なきを得ました。


 もし、それ以上のことが起こっていたかと思うと今でも恐ろしいです。



 偽薬の販売を目撃した場合、すぐに砂噛医院までお報せください。



 砂噛医院

 砂噛 幸一こういち

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