第10話 気付いた事

 止まる事の無い、声。

 止まらない。



『この子なら、君の幸せを一番に考えた筈だ! 気持ちは有り難いが、もうやめなさい!』

『そんな! 私は……私……』


 これは……あの時の事。


《父さんありがとう。これで、これでいいんだ》



『圭一君のお父様、お母様、聞いてください!』

『終わった話だ、諦めなさい』


《……澪? どうして?》


『私達、約束したんです! お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても手を繋いでいようねって! お願いします! お願いします!』

『澪さん、頭を上げなさい!』

『女の子が土下座なんて……! さ、立って!』


《……くそっ! 体、動け! 声、出ろ! 一言くらい出せるだろ?! 父さんが! 母さんが! 澪が、こんなにも!》


『私に圭一君の可能性になれるチャンスをください! 圭一君と一緒に生きる未来へのチャンスをどうか、私に! このまま別れるなんて嫌です! 傍にいたいんです! どうか、どうか……!!』



『こ・ん・に・ち・は♪ お見舞い許してもらえた……嬉しいなあ、嬉しいなあ……。うちの親も何とな~くだけど、もう応援してくれてる! だから一安心なんだけど……ううう、私、重い?』


《嬉しい。嬉しい、けど……ダメだよ。澪の未来が、夢が……》



『卒業式終わったー! 先輩って呼んでもいいよ? ……みんなみんな、圭一君の事を心配してた。いつか二人でまた会いたいね』


《卒業おめでとう。……いつか君も、目覚めない僕からきっと、旅立っていく。それが正解なんだ。ごめんね? 幸せにできなくてごめんね》



『これがヘルパーさんの実力っ! すごい!』

『教えるから覚えてね♪ しっかし澪ちゃんも頑張るねえ。外国語の専門学校に介護の通信制だっけ? 愛の力ってすごいわねえ~』

『言葉になると、おおぅ、恥ずかしい……です』


《頑張ってくれる澪に、何もしてあげられない。ごめんね? 澪、こんな僕の為にごめん……》





 流れる。

 流れていく。


 私達の過ごした時間が、大切な思い出が。

 声に包まれて、流れていく。


 そして。


 気付いた事がある。


 これが、もし本当に貴方の声なら。


 私は。

 貴方の気持ちを、想いを。


 どれだけ、拾えていなかったのか。





『翻訳の依頼、増えてきたよ! とはいってもメインじゃなくて下訳なんだけどね。でも嬉しい! こうして家でできる仕事が増えてくれば、いつかきっと! おっとと、これはナ・イ・ショ♪』


《夢? 内緒? とうとう澪が……僕から離れていく日が近づいてきたのかも……嫌だなあ。やっぱり苦しいなあ……》



『見て! 私達の家の鍵! 看護師長さん達がね? ご近所ネットワークを使って見つけてくれたの! 病院まで歩いて二分、貴方の自宅滞在にも打ってつけ! 縁側のある平屋、とても素敵なの。私、こんなに良くしてもらっていいのかなあ……ずずっ。あ! だ、台所がぁ?!』


《な!! 何て事を……! 僕は君に何も返せないのに。澪……こんな僕の為に、ごめ………、いや……そうじゃない》


《……ありがとう》


《澪》


《いつだって、僕を大切にしてくれて……こんなにも愛してくれて……ありがとう》


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