第10話 気付いた事
止まる事の無い、声。
止まらない。
●
『この子なら、君の幸せを一番に考えた筈だ! 気持ちは有り難いが、もうやめなさい!』
『そんな! 私は……私……』
これは……あの時の事。
《父さんありがとう。これで、これでいいんだ》
●
『圭一君のお父様、お母様、聞いてください!』
『終わった話だ、諦めなさい』
《……澪? どうして?》
『私達、約束したんです! お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても手を繋いでいようねって! お願いします! お願いします!』
『澪さん、頭を上げなさい!』
『女の子が土下座なんて……! さ、立って!』
《……くそっ! 体、動け! 声、出ろ! 一言くらい出せるだろ?! 父さんが! 母さんが! 澪が、こんなにも!》
『私に圭一君の可能性になれるチャンスをください! 圭一君と一緒に生きる未来へのチャンスをどうか、私に! このまま別れるなんて嫌です! 傍にいたいんです! どうか、どうか……!!』
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『こ・ん・に・ち・は♪ お見舞い許してもらえた……嬉しいなあ、嬉しいなあ……。うちの親も何とな~くだけど、もう応援してくれてる! だから一安心なんだけど……ううう、私、重い?』
《嬉しい。嬉しい、けど……ダメだよ。澪の未来が、夢が……》
●
『卒業式終わったー! 先輩って呼んでもいいよ? ……みんなみんな、圭一君の事を心配してた。いつか二人でまた会いたいね』
《卒業おめでとう。……いつか君も、目覚めない僕からきっと、旅立っていく。それが正解なんだ。ごめんね? 幸せにできなくてごめんね》
●
『これがヘルパーさんの実力っ! すごい!』
『教えるから覚えてね♪ しっかし澪ちゃんも頑張るねえ。外国語の専門学校に介護の通信制だっけ? 愛の力ってすごいわねえ~』
『言葉になると、おおぅ、恥ずかしい……です』
《頑張ってくれる澪に、何もしてあげられない。ごめんね? 澪、こんな僕の為にごめん……》
●
流れる。
流れていく。
私達の過ごした時間が、大切な思い出が。
声に包まれて、流れていく。
そして。
気付いた事がある。
これが、もし本当に貴方の声なら。
私は。
貴方の気持ちを、想いを。
どれだけ、拾えていなかったのか。
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『翻訳の依頼、増えてきたよ! とはいってもメインじゃなくて下訳なんだけどね。でも嬉しい! こうして家でできる仕事が増えてくれば、いつかきっと! おっとと、これはナ・イ・ショ♪』
《夢? 内緒? とうとう澪が……僕から離れていく日が近づいてきたのかも……嫌だなあ。やっぱり苦しいなあ……》
●
『見て! 私達の家の鍵! 看護師長さん達がね? ご近所ネットワークを使って見つけてくれたの! 病院まで歩いて二分、貴方の自宅滞在にも打ってつけ! 縁側のある平屋、とても素敵なの。私、こんなに良くしてもらっていいのかなあ……ずずっ。あ! だ、台所がぁ?!』
《な!! 何て事を……! 僕は君に何も返せないのに。澪……こんな僕の為に、ごめ………、いや……そうじゃない》
《……ありがとう》
《澪》
《いつだって、僕を大切にしてくれて……こんなにも愛してくれて……ありがとう》
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