第4話 “初めて”の終わり

 そしてデートの時間はあっという間に過ぎていく。

 旧イギリス領事館や旧函館区公会堂、元町教会群といった観光スポットを散策しながら見学したり、公園でのんびりと過ごしてみたり、休憩に愛水さんが行きたがっていたカフェに立ち寄って豪華なパンケーキに舌鼓を打ったりした。愛水さんはすごく喜んで教会風の店内やパンケーキの写真を撮ったり、感想をメモったりしていた。

 一緒に話をしているだけでもすぐに時間は過ぎていって、カフェを出たときにはもう辺りは暗くなり始めていた。


「ツリーも見に行きたいけど、やっぱりこっちが先決だよね! とゆーわけで百瀬くん、急ご急ごっ!」

「あ、うん!」


 二人で坂道を上り、そのままロープウェイ乗り場へ。やっぱりここもカップルと観光客で溢れかえっていたため、列に並びながら順番を待つ。壁掛けモニターの映像や雪ミクのポスターなんかが冬らしさを演出してくれている。


 スマホに何かを入力しながら、愛水さんが口を開く。


「私ね、こういう時間も結構好きなんだ。ほら、じっくり話す時間がとれるし!」

「わかるわかる。遊園地とかでも、友達と並んで話してるときとか楽しいもんね」

「そうそう~! 百瀬くん結構私と合うかも! なんか嬉しいな♪」


 そのため待ち時間もまったく苦になるようなことはなく、気付いたらすぐにロープウェイに乗れていた。

 わずか数分の空中散歩中には、もう函館の街はその100万ドルの夜景を露わにしており、みんなロープウェイの中から夜景を堪能していた。愛水さんも「綺麗だね~!」と目を輝かせており、俺もテンションもぐいぐい上がる。


 そのまますぐに函館山の頂上──展望台までやってきた俺たち。

 冬の展望台はさすがに結構冷えると思ったが、人が多いこともあるのか意外とそうでもなく、むしろ熱気を感じる。


「わ~~~! やっぱり何度来てもすごいよね! テンション上がるな~!」

「うん、ホントだね」


 しばらくの間、二人で展望台から函館の街を一望する。

 海に挟まれた独特な街の地形は光でいっぱいに包まれており、絶景の一言だ。写真やライブカメラなんかでいくらでも観られる有名な光景だけど、こうして実際に目の前にするとやっぱり感動の度合いは違う。だから観光客の人たちが絶えない場所なんだろうと思う。


 それに──


「同級生の男の子と来るのなんて初めてだから、なんかちょっと、ドキドキするね」

「え?」

「デートって、やっぱりこういう感じなのかなぁ? どうしよ。ちょと照れるかも」


 隣ではにかむ愛水さんに、また胸を打たれる俺。

 同じことを考えていたから。

 小さな頃に家族と来たことはあるけど、こうやってデートで来たことなんて初めてだった。だからなのか夜景もいつもより綺麗に見えたし、ずっと胸はドキドキしている。

 何より、愛水さんの「初めて」という言葉がちょっとだけ嬉しかった。


「ねぇ百瀬くん。ちょっと下に行かない? ほら、あそこなら座って話せる場所もあるから」

「あ、うんそうだね。それにここは人も多くて落ち着かないし」

「うん! じゃあ行こっ!」



 そのまま愛水さんと展望台を降り、下の階へと向かう俺たち。こっちにも同じく夜景を見渡せるベンチ付きの野外スポットやカフェなんかがあるのだが、上に比べれば意外と空いているので穴場だったりする。


 カフェで暖かい飲み物をテイクアウトした俺たちは、幸運にも外のベンチを確保出来たためそこで夜景を前に一息つく。手袋を外した愛水さんは「ふぁ~」と緩んだ声を上げながら手を温め、カップに口を付けた。


「──はぁ~おいし~~~♪」


 その声に癒やされる俺。一緒に飲んだカフェラテはいつもより美味しく感じた。

 愛水さんはそこで軽くスマホをパパパッといじると、それをポケットにしまって俺の方を見た。


「ねっ、百瀬くん。今日のクリスマスデートどうだった? 私はすっごい楽しかったよ!」

「あ、俺もすごく楽しかったよ! ただ、最初はデートだからってなんか緊張しまくってたけどさ」

「あははやっぱり? 私もだけど! だから変な感じにならないように~っていっぱいこっちから話しちゃってごめんね?」

「いやそんな全然! むしろ愛水さんがよく話しかけてくれたから俺も少しずつ慣れていった感じで、ホント全部愛水さんのおかげっていうか!」

「ふふっ、ありがと♪ 今日でよく分かったけど、百瀬くんやっぱり優しいね♪」

「い、いやいやそんな」


 好きな子にそう言われるとさすがに照れてしまい、恥ずかしくなって目をそらす俺。愛水さんはくすくすと笑っていた。


「俺の方こそ、今日はいろいろありがとう。朝から本当にずっと楽しかったよ。なんか、ちょっと夢みたいでさ」

「夢?」

「うん。ずっと愛水さんとこういうこと出来たらなって思ってたし、それが叶って。テストの話しながら歩いたり、いろんなお店を覗きに行ったり、一緒にご飯食べたり、観光名所を巡ったり、カフェでデザートも食べてさ。なんか、すごい普通のデートで、でもそれがすごく嬉しかった」

「……うん。そっか」

「それに、最後にこんなところにも来られたし。今日のこと、俺、きっと一生忘れないよ」


 少し恥ずかしかったけど、それは俺の正直な気持ちだった。


「そうそう。愛水さん覚えてるかな? 俺さ、入学後すぐにいきなり教科書忘れて、そのとき愛水さんが見せてくれたんだよ。もしかしたら、あのときから愛水さんのこと気になってたのかも。たまたま学食で隣同士になったときとか、体育祭で同じチームになったり、あと夏休みに湯の川の方でさ──」


 話しているうちに、あれもこれもと頭の中で愛水さんとの思い出がたくさん溢れてきてしまった。


 愛水さんは、そんな俺をしばらくぼうっと見つめた後で──


「百瀬くん」

「あっ、ごめん急に喋りすぎだよね」


 にこっと、とても優しく微笑んだ。



「やっぱり──お付き合いするのはやめておこっか」


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