第2話

「何ニヤニヤしてんの?」

「ちょっと思い出してたんだぁ」

「なに……を?」

「小学校の修学旅行の時の〜」

「言わなくていい」

「えっ、美緒は忘れちゃったの?」

「うん、すっかり」

 嘘だけど。

「同じシュチュエーションだから思い出すでしょ、普通」

「5年も前のことなんて忘れる」

「よーし、思い出させてあげよう」

 嘘、本当に入ってきた! 私の布団に。

「ちょっ、まじ?」

「やっぱり狭いね」

「そりゃ、お互い成長したもんね」

 小学生と高校生の体格では大きな差があるでしょーよ。

「中学の修学旅行、行けなくて残念だったね」

「あの時は、ごめん」

「なんで美緒が謝るのさ」

「だって私がおたふく風邪なんかになったから」

 私が行けないのは当然だけど、純ちゃんも行かなかったのだ。後で親に聞いた話では『私が美緒の看病をする』って言い張ったらしい。そうして2週間後に純ちゃんのほっぺも見事に腫れ上がったというね。

「美緒と一緒じゃなきゃ意味ないもん」

「またそんな、調子いいこと言って」


 私と純ちゃんは、小学生の頃からずっと仲良しだ。私はと言えば、修学旅行で告白した通りずっと好きだ。一緒の高校へ通いたくて猛勉強した程に。

 だから同じクラスになって修学旅行の日を迎えた今日は、天にも登る気持ちなのだった。


「ねぇ、覚えてる?」

「だから忘れたって」

「え、もう私のこと好きじゃないの?」

「えっ、それは……好きだけど」

「ふふ、だよね。私もだよ」

「え、えぇ」

「ちょっと美緒、声大きい」

 あっ、周りにクラスメイトがいるのを忘れていた。忘れるほど驚いたのだ。

「だって純ちゃん、そんなこと一度も言わなかったじゃない、5年間ずっと一緒にいて」

「5年間一緒にいて気づかなかったの? 美緒は鈍感だなぁ」


 純ちゃんは優しかった、いつもそばにいて私が困っていると助けてくれたり、嬉しいことがあったら自分の事のように喜んでくれたり、何にもなくてもニコニコと笑いかけてくれた。そうなの? 好きだったの?


「いつから?」

「あの時からかなぁ、だって、好きって言われて意識するなって方が無理があるでしょ」

 私が思わず好きと言った日から意識し始めたらしい。なんだか気が抜けた。

「あれ、また熱ある?」

 純ちゃんはおでこをくっつけてきた。子供みたいに。

「え、純ちゃんだって熱くない?」

「そりゃあね」

 そう言うなり、チュッとキスをした。

「えっ、えっ、なに?」

 一瞬すぎて味わえなかったよぉ。

 それでも、気持ちが通じ合った幸せを噛み締めた修学旅行の夜。

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