第31話

フレデリカが支援している孤児院の中へ入ると、小さめの病院に似た雰囲気の内装だった。


掃除などの手入れはされているようだが、幾分の古さも窺える。



「こっちよ」



そう言うフレデリカに目を向けると、彼女はすぐ傍の受付の横にあったドアを開けて奥へ声をかけていた。


財政状況的に、受付へ人を常駐させる余裕はないんだろう。



「誰かいるーっ?」



その少し大きめの声は奥に居た人へ届いたようで、



「はーい」



という返事と共に足音が近づいてきた。



パタパタパタ……


「ああ、いらっしゃいませフレデリカ様。今日は何の御用で?」



聞こえてきた声からすると比較的若い女性だと思うのだが、フレデリカがドアの前にいるので外まで出てきておらず、その姿は俺の位置からまだ見えていない。


そんな相手とフレデリカの話が進む。



「ちょっと仕事を紹介しにきたのよ」


「あら、どんなお仕事でしょう?」


「魔石の仕分け。ちゃんとやれれば継続して任されることになるかもしれないわ」


「それはありがたいことですが……魔石ということはその、お相手は冒険者の方ですよね?」


「ええ、そうね」


「その場合、納期の方は大丈夫でしょうか?仕事が遅れたからとその、埋め合わせとして子供達をと言われますと……」


「そんな事言う奴の仕事を紹介するわけないでしょ。ねぇ?」



と、不意にこちらへ話を振ってくるフレデリカ。


同時に身体をずらして奥の人に手で外へ出るように促し、それに従ってここの職員?が出てきて俺達の前に姿を現わす。


声から予想した通り20歳前後の若い女性で、茶髪のロングヘアを後ろでまとめたなかなかの美人さんだった。


まぁ……それよりも目立つ、"なかなか"程度の表現では収まらない大きさの胸に目が行くが。


おそらく動きやすさを重視してだとは思うが、ワンピースの腰部分を絞っているのでそれがより強調されていた。


そんな彼女だが……かなり気まずそうな表情になっている。



「あ、あら、ご一緒でいらっしゃったんですね。えっと……」



先程の話で、納期の遅れを理由に子供を使と要求されるかもしれない、という懸念点を挙げたことに俺が気を悪くすると思ったのだろう。


普通、悪さするつもりもないのに疑われたら気を悪くするのは当然だからな。


まぁ……疑う側にも警戒せざるを得ない事情がある場合もあるので、疑われる側としては仕方ないとも思うが。


さて、俺は声をあまり知られたくないのだが、イリスはこの件について俺に任せるようだし、相手はフレデリカが懇意にしている人なら大丈夫かな。


というわけで……



「お気になさらず。警戒するのは子供達のためだと理解しておりますので」


「は、はい。失礼しました」



"モーズ"としての厳つい格好で紳士的な言葉が出てきたからか、幾分ホッとした表情でそう言って頭を下げる女性だが……



ゆさっ



と揺れる胸に目が引き寄せられたので、元からそのつもりはなかったが自分が紳士などではないことを再確認する。


顔は魔鎧で隠れているが、この大きさならよく見られているだろうし視線で見ているのがバレそうだと思って視線をずらすと……その先に居たフレデリカが軽くため息をつく。



「ハァ、とりあえず奥で詳しい話をするわよ」



そう言うと彼女は我が物顔で奥の部屋に入っていき、



「……あっ。ど、どうぞ」



と職員の女性に促されて俺達もそれに続いた。




奥の部屋に入ると3つの机が身を寄せているように置かれており、壁側にいくつかの本棚などが並んでいた。


事務処理を行う部屋のようでその内の1つに物を使っていた形跡があったことから、今俺達を応対している女性はそこで仕事をしていたのだろう。



ガチャ


「こちらへ」



と更に奥の部屋に通じるドアを開いた職員女性に促され、再びフレデリカを先頭にその部屋へ入る。


この部屋には低いテーブルとソファが2つ向かい合わせに置いてあったので、応接室として使われているのだろう。



「ほら、座んなさいよ」



そう言ってソファへ座るフレデリカに習い、俺とイリスが並んで座ると……事務所の方から職員の女性が遅れて入ってくる。



コトッ



どうやら水を用意してきたようで、それを配ると空いていたフレデリカの隣に彼女は座った。



「えっと、じゃあ……とりあえず名乗りあったら?」



フレデリカの言葉に、職員の女性が慌てて起立し名乗ってきた。



「あっ、失礼しました!私はここの代表でモノカと言います!よろしくお願いします!」


ぶるんっ、ゆさっ



仕事を貰う立場だからか、勢いよく立ったり頭を下げたりで胸の揺れが非常に目立つ。


下着自体はあるはずだが、タンクトップの裾を短くしたような物だから揺れはあまり抑えられないのかな。


そんな彼女が着席したので、続いて俺達も名乗ることにする。



「俺はモーズで、こっちがイリスです」



こことの取引はこの格好で行うつもりなので"モーズ"と名乗るが……フレデリカがそこに言及しないので問題はないな。


そのフレデリカが本題について話し始める。



「で、魔石の仕分けを任せるって話なんだけど……モーズ、魔石の量を見せてあげて」


「ああ」



彼女の言葉に俺は傍に置いていた鞄を引き寄せると、その中から鞄とほぼ同じ大きさに膨らんだ袋を引き抜いてみせた。


テーブルには置けない大きさなので、その横に置いてモノカさんに差し出す。



「えっと……他の戦利品も混ざった状態から、ということでしょうか?」



その大きさから、魔石以外の戦利品も混じっていて、それらと魔石を分けるのも仕事の内かとモノカさんは聞いてくるが……それにはフレデリカが答えた。



「全部魔石よ、それ。中を見てみなさい」


「え?……あの、よろしいでしょうか?」



フレデリカの説明に疑問の表情を浮かべるモノカさん。


そんな彼女がこちらへ中を見てもいいかと聞いてきたので頷いて答えると……それに応じて袋の中を見たモノカは固まった。



「……」


「ね、多いでしょ?ギルドより少ない手数料にするとしても、これだけあるんなら十分な稼ぎになるはずよ」


「それはそうかもしれませんが……」


「ん?何か問題あるの?」



そう聞くフレデリカに、モノカさんは言いづらそうな表情で答える。



「簡単に言いますと納期の問題が……補償として私がするだけならいいのですが、小さい子をお望みになられますと……」



ああ、最初にそんな事を言ってたな。


過去にそういった条件を出されたケースがあったのか、何らかの形でここの子供を要求されることをモノカさんは警戒しているようだ。


もちろん俺にそんな趣味はないので彼女にそれを伝える。



「いや、大丈夫です。ある程度大きくないとそういう目では見れませんので」


「は、はあ……」



そう返した俺に幾分安心したようなモノカさんだったが、そこにフレデリカが余計なことを言う。



「そうね。私のをちょこちょこ見てたし、あなたが揺らす度にを見てたでしょうからね」


「へっ!?」



自身の胸を指差して言うフレデリカに、モノカさんは自分の胸も俺に見られていると思ったのか手で隠そうとして……その手を下ろした。



「ま、まぁ……目立ってますので見られるぐらいでしたら……いつものことですし」



日常的に注目されているのか、苦笑いで答えるモノカさんだが……それがストレスになってないわけがない。


見る側としては、自分には無い不自然な動きをする物に目が行っているという部分もあるにはあるが、そのまま見続けるのは性的な要素によるものだろう。


自らアピールされない限りは見続けないようにしないとなぁ、と反省しつつもフレデリカには一言物申す。



「おい、余計なこと言うなよ。仕事が頼みづらくなるだろう」


「納期を気にしてるんだから、ちょっと融通利かせてあげればこのぐらい気にしないでくれるわよ。ねぇ?」



あ、コイツ……俺がモノカさんに対して引け目を感じるように仕向けて、納期に余裕を持たせようとしたのか?


ねぇ?と話を振られたモノカさんは、フレデリカの視線もあってそれに気づいたのか頷いて応える。



「え、ええ!余程の無理がない納期でしたらご覧になるぐらいは!」


ゆさゆさ……



両手で揺らされる胸に目が行くが、これは自分からやって見せているので見続けても文句を言われる筋合いはない。


ただ……これで納期の譲歩をしたと思われれば、今後何らかの交渉をする際に同じ手段を使われそうだ。


それによって仕事で手を抜かれたりしては困るので……俺は納期についてある提案をした。



「いえ、納期は決めません」


「決めない?いつでもいいってこと?」



そう聞いてくるフレデリカに俺は答える。



「いつでもいいってわけじゃなく、受け取りに来た日までに分けられたぶんに合わせて報酬を支払うってことにする。それなら仕事が遅れても追加で何かを要求されることはない」


「ああ、熟した量の分だけ支払うのね。納期がないのはいいんだけど……どう?」



聞かれたモノカさんが俺の機嫌を気にしてか、恐る恐るそれに答えた。



「こちらとしては安心して仕事ができますが、できた分だけということはギルドでの査定を見せていただけませんと……」


「誤魔化される可能性はあるわね。その辺はどう?」


「なら、ここの誰かが査定についてくればいい。お前が査定して、その場で確認させればいいんだからな」


「「……」」



俺がそう答えると2人は目を見合わせ、少しホッとした様子を見せる。


そうしてフレデリカが話を進めた。



「じゃあ、報酬の確認はそれでいいとして……支払いのペースは?」


「査定したその日の内に払うつもりだが」


「あら、いいの?」


「別に。宿代と食事代に、ダンジョンで使う物を買うぐらいだしな」


「ふーん……じゃあ、そういうことでこの話は決まりね。こっちでの報酬の配分は任せるわよ、モノカ」


「あ、はい。その、がんばりますのでっ!よろしくお願いしますっ!」


サッ、バッ!


ぶるんっ、ゆさっ



再び立って頭を下げるモノカさんだが……サービスのつもりか、左右から若干寄せられた胸を強調する体勢は先程よりも長かった。

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