23 神のみぞ知る(side:???)

 この世界は、エファランのように竜と平和に共存する国ばかりではない。竜は人の姿をしていない。よって人間ではないと、差別する国もある。

 差別だけなら、まだいい。

 竜がおとなしいことを良いことに、その巨体を利用しようと考える人間たちもいる。

 スーナのいた国では、人為的に竜を造り出す実験をしていた。下層民をあえて生存競争にさらし、竜に覚醒させる。運悪く竜になった者の血肉は、さまざまな用途に使われることになる。竜は大きな体を持っている。一頭から多量の薬が得られ、各種運搬をはじめとする重労働をこなせる。手間暇かけても、竜を造り出すメリットはあった。

 実験動物扱いされる下層民の暮らしぶりはひどいが、上層民は見てみぬふりをする。自分たちが生きるためには、誰かを犠牲にするしかないからだ。

 殺し合いが日常茶飯事の世界に、ある日、神様が現れた。

 手のひらに乗る金属の塊で、細い八本の脚を生やした、小さな神様だ。


『ワタシ二、シタガイナサイ。サスレバ、オマエタチ二、クニヲ、アタエヨウ』

 

 機械の欠片に宿った神様は、預言をくだした。

 スーナ達は、機械の神様に従い、上層民に反旗をひるがえした。

 その国は壊滅し、スーナ達は自由を得た。都市は、機械を産み出す工場に改造され、スーナ達の一部メンバーは新しい国の支配権を与えられた。


『ワレラハ、アマノイワトヲアケルカギヲ、サガシテイル』

「アマノイワト?」

『オマエタチヲ、ドラゴン二カエ、チカラヲアタエルモノ』


 他の都市にアマノイワトの手掛かりがあるかもしれない。

 神様に命じられるまま、スーナ達は、いくつかの都市を滅ぼした。滅んでいくのは、難民を受け入れる優しい都市ばかりだ。馬鹿だなぁ、とスーナは思う。この世界は、奪われる前に奪わなければ生き残れない。

 

「神様、どうですか? 目的のものは、ありました?」

『エファランハ、ソーサリーノ、ナレッジガアル。キョウミブカイ。ホカノトシハ、コレホドノデータガナカッタ』

 

 スーナは、神様と一緒に、大礼拝堂アヤソフィアに侵入した。

 エファランの生命樹ハオマと都市を覆う巨大なシャボン玉状の結界は、アヤソフィア地下にある装置で開閉している。

 その事をスーナが知ったのは、つい最近だった。

 アヤソフィアは入場制限されており、用が無ければ入れない。王族のほかは軍部高官と魔術師協会幹部しか、制御装置の在処ありかを知らなかった。

 しかし、もう準備は整っていた。

 作戦実行したいというスーナの提言を受け、神様は奇跡の力でアヤソフィアを封鎖し、暗闇の中に閉じ込めた。

 エファランの人々は、まだ気付いていないだろう。

 生命樹ハオマの根っこを、機械の生産工場に造り変えるプロセスが進んでいる。量産された侵略機械アグレッサーが、夜明けと共に都市中に解放される。そうなれば、もう為すすべもない。

 

「美味しいものも、たくさんあったんですが、これで終わりですかねぇ。もっと食べておけば良かった」

 

 湖水から作られたジュースや酒、アイスクリーム。竜が狩ってくる大蜥蜴肉のステーキや、独特の味付けの肉が挟んだビックバンバーガー。新鮮なトマトや豆を使った煮込み料理。


「神様、食べ物を作る南区は残してもらえないですかね~。ねぇ、神様」

『……』

 

 スーナは、しゃがみこんで、神様の返答を待つ。

 明日のエファランがどうなっているか、まさしく神のみぞ知る、だ。

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