記憶の欠片 霧雨
次の日の朝9時半ごろ。
朝食はもちろん食べていない。朝起きてすぐ解散し、ふらふらと歩きながらやっと家にたどり着いた。
お風呂は昨日入ったしいいかな。着替えも面倒くさい。
私はそのまま自室に移動した。
昨日あの後普通にシた。
けど覚えていることはほんの少し。
「ええ!美玖どうしちゃったの!?ガリッガリじゃん!」
彼が私の体を見て言い放った言葉。
私は全く興奮できずに、ただされるがままに好きなようにさせていた。
覚えていることはそれくらい。
彼の言葉がぐるぐる頭を泳いでいる。
「うあああ!もう!」
急にイライラしてきた私は部屋にあった人形をベッドに投げつける。
少し人形が可哀想になってきてしまうが、チラッと見るだけで決して慰めには行かない。
今は罪悪感を溜め込みたい気分だった。
「ふー。」
深呼吸をして一旦息を整える
昨日はやけに彼の言葉に腹が立った。そう、それだけのはずである。それ以外の何物でもない。彼が悪かったんだ。光瑠が悪かった。
ベットに座り目を瞑ると、目をグッと押されたかのような痛みが、頭の中全体に侵食していく。
あんなホテルで、あんなことして、こんな気持ちで、しっかり睡眠が取れているはずがない。
私はそのまま体を倒してベッドに横になる。そういえば光瑠に誘われた時もこんな感じだったな、とデジャブに感じて昨日のことをまた思い出した。
ボーリングのボール、中学生でも投げれるボールが持てないくらい、私の体は貧弱になった。でも食欲が湧かずにご飯が食べられない。光瑠は理解してくれなかった。体が痩せていることを気付かれた。思う存分楽しめなかった。怖かった。ウザかった。不安だった。
感情と共に上半身に嫌な熱がこもっていく。こっちが悪いとかあっちが悪いとか、原因は色々あるけど、もう全部嫌だった。
嫌なことを考えると頭は痛くなるし、心がズキっとするし。良いことなんて何もないのは分かってるから考えないようにするけど、そう思えば思うほど考えてしまう。
「はぁー。」
ため息をつく。まだコートを羽織ったままの体でうつ伏せになっていたが、私はそのまま眠りについた。もう全てどうなでもなれ、と言う気持ちで。
ドン、ドン、ドン。
テンポよく地響きがする。
半分寝ている状態だったが、その音は明確に聞こえていた。
ドン、ドン、ドン。
だんだん強くなってきて私はそれが何か察したが、あえて何もすることなくその場に留まる。
ドン、ドン、、ドン
テンポが揺らぐ。
コンコン!
ドアを叩かれて刺々しい音が部屋全体に響いた。
そして、ドアが開く。
「お母さん。」
「美玖、、」
お母さんは絞るようにして声を出した。
「今日、病院行くわよ。」
「え?」
母は決意したように息を飲み込み、続けた。
「精神科。受診しなさい。」
沈黙だった。意外だったが納得はできる。
母はこの決断をするのにどれだけ悩み苦しんだのだろう。
いや、どれだけ私がお母さんを苦しめたのだろう。そんな気持ちが私の口に蓋をし、声、息すらもできなかった。
私だけがこの部屋にいる時よりも静かな空気が部屋いっぱいに詰まっている気がした。
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