記憶の欠片 contrast 4

『でもさーそれって気持ちの問題じゃん?同じ胃袋ついてんのに、一口で終わるわけないっしょー。』


彼の何気ない言葉。

きっと何も考えずに発した言葉だったんだろう。

でもこの言葉は私に大きな傷をつくった。

その傷はずっとチクチク痛んでいて、事あるごとにズキっと大きな痛みに変わる。


私が普通でいることを強要されたような…。もう普通には戻れないのに。


私はもう食べる気にはなれず、複雑な気持ちで全く話す気にもなれない。

彼も寿司に無我夢中で話かけてくることはない。

自ずと会話は起きなかった。

15皿目を平らげた後、ようやく彼が口を開く。

「クァーー食った食った。俺はもういらないわ。ギブギブ。」

怒る気にもなれない。ただひたすらに、、彼の全てに呆れてしまう。

なんでこんなにも私のことを考えてくれないんだろう。

今までは彼の良いところだと思っていた、『気を使う必要がない、こいつ自体も気を使わないという性格』。それが突然牙を剥き、私は戸惑っていた。


彼なら。優馬なら絶対こんなこと言わずに気にしてくれるのに。なんなら自分の分お持ち帰りで頼んで店を出てくれるかもしれない。それくらい彼は優しい。

優馬だったら。優馬だったらよかったのに。


「あ。」

私は何を考えているのだろう。

優馬といる時には光瑠光瑠。光瑠といる時は優馬優馬。

人にとよかく言ってる私が1番クズじゃん。

またこれだ。自嘲の笑みが湧いてくる。

腐ってるなー私は。ほんとなんなんだろう、こんな人間死ねばいいのに。


「美玖どうしたの?ニッコニコじゃん!」


はっ!!

視界が開けた。私は今、コレ寿司にいて、。

そうか、光瑠と食事中だったのか。

「ああ、ちょっと思い出し笑いー。」

「何思い出したのー?見たことない笑顔だったよー!」

そんな変な顔してたのかな。私は顔を両手でリセットするように覆った。

同時に、歪んだ心も。

「もう出る?」

「出よっか。」

そうして私たちはコレ寿司を後にした。


この街には背の高い建物が隣接している。

その中でも妙にレトロな雰囲気を醸し出す一つの建物に、私たちは引き寄せられるように歩いていた。

結局これが楽しみ。それが当たり前だと思っていたが、今日は調子が乗ってない。

とりあえず行こうかな、と彼に足を合わせる。


ホテルの前に着いた。

彼は顔をニヤつかせて私の方を向き、行こっかと言って私の手を引いた。

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