記憶の欠片 contrast 3

空は暗く染まっており、街の色とりどりな明かりが映えている。

その中でやや不安定な足取りで歩く私と、ヘラヘラ笑っている光瑠は少し浮いていた。


痛い。。

ボールを持ちながら地面に叩きつけられた手も、一緒に打った頭も、倒れた体も、全部痛い。

それはまるで、お前みたいなやつは楽しくゲームをする資格などないと言われているようだった。

正直若干フラつきそうになるが、1番痛いのは手でそれ以外は普通に機能するのでなんとか歩くことができる。

「いやー!いいズッコケだったよー!!」

「うるさいし!声もデカくてうるさいわ!」

私も笑いながら突っ込んだが、内心かなりウザかった。それが彼だから理解できるけど。

「んでーー、今夜何食べたい?」

彼が問いかけて来た。私は実は策を用意してある。

自分の好きな量だけ食べられるチェーン店、回転寿司だ。

「お寿司!あそこにある『コレ寿司』!」

「あーー、いいね。寿司。」

よし!釣れた。生き生きとした新鮮なネタだ。何も考えてないから私の思った通りに食いついてくる。それが彼のいいところだ。

幸いコレ寿司も近くにあるし、食いつきやすかったのだろう。

私たちはコレ寿司に向かって歩き出した。



いきなり気持ち悪くなって吐いたりしないかという不安は取り巻くものの、席に着くまで発作が起こることはなく、ただいつもより早い心拍が煽るように私の身体を揺さぶった。

光瑠はさっそく一皿目を注文していた。

「コレ寿司はこの注文から届くまでの速さが売りだよなーー。」

確かにコレ寿司、注文してから届くまでは他の寿司屋に劣らず早い。

「じゃ、私も頼むかー!」

無理矢理楽しみそうな声を出したが、わざとらしさが滲む声だ。

注文用のタブレットを手に取り、一皿目は食欲が湧く高級なものを食べようと高値な大トロをタッチする。

「お、大トロー!リッチだなー。」

スマホを見ながら言う光瑠の言葉には全く真心を感じなかった。

「光瑠は一皿目何頼んだのー?」

私から全然話題をふっていなかったので、ここから会話を始めようと一歩歩み出した。

「えー?俺?」

彼は、勿体ぶるような顔をして言った。

「なんでしょう?」

「うっぜぇな!」

本当にうざいと思ったわけではないが、つい地声すぎる地声が出る。

そう、彼はこうなのだ。

「んーーーーー。」

私は可愛く悩む。

「サーモン!」

「ぶっぶー!かっぱ巻きでしたー!」

いや難しいな!

まぁ確かに一皿目からコッテリだと後々キツくなってくるかもしれない。失敗したなと思った。

『ご注文の品が届きました。』

可愛い音楽と共に私の大トロとかっぱまきが届く。驚く早さだ。

だが、ネタを見た途端胃が少し熱くなった。


んーーー。


私は寿司を3秒ほど凝視してから口に一気に入れ込む。

噛めば噛むほどに食欲が湧くはずが、噛めば噛むほどにもう食べたくないな、と思った。

脂が乗っている分余計不快感が口を遅い、酸っぱさも感じる。

「んーーー。」

やっぱり美味いわかっぱ巻き、と言っている彼の前で静かに唸る。そして正直に言うことにした。

「私もう食べなくて良いかも、、。」

「え?なんで?」

彼は不思議そうながらも、目は残りのかっぱ巻に囚われていた。

「なんか、食欲が最近なくて、あんまり食べれてないんだよねー。」

「えー!そんなことあんの!?」

彼は少し興味を示すようにして言ったが、その後思いにもよらないことを口にした。


「でもさーそれって気持ちの問題じゃん?同じ胃袋ついてんのに、一口で終わるわけないっしょー。」


ズキっと心臓が痛んだ。

え?今なんて?

気持ちの問題だから、食べ続けろってこと?

普通の子でいて欲しいってこと?

ってか、このまま食べ続けるの、超辛いんだけど、、。


胃が一気に熱くなり、吐き気がする。

胃が絞られている感覚だ。


普通の子。そうか、私はもう普通じゃないもんね。

浮気してるんだもんね。

なんでだろう、色々あって忘れてたよ。

光瑠ならきっとそんなの気にしないで話してくれると思ってた。

けどもうすでに私は普通の子じゃない。知られたら、私捨てられるのかな。


嫌だ。どうしたらいいの?


「ご…。ごめん。」

私は息を絞るように声を出す。

「今日は本当に、もう食べれない。」

彼は、そっか無理しない方が良いよっと一言言い放ち注文パッドを手に取っていた。


頭痛、目眩、胃痛で苦しむ私のことなんて気にせずに…。

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