記憶の欠片 that night

「はぁー。」

帰ってきてすぐシャワーを浴びた。シャワーを浴びれば気持ちも回復するかなと思ったが全くそんなことはなく、逆に自分が今まで通りの自分ではないことを確信させられた。

「私、これどうにかなるのかな。」

この調子が回復するには浮気をしているという事実を破棄するか解決するしかない。

優馬に浮気の事実を伝えれば、彼は何をしだすかわからない。光瑠に浮気のことを伝えたら、彼なら浮気でも良いよと言いかねないが、それでは私の心は癒えない。

浮気の事実を伝えずに振る、と言うのは本末転倒だ。

それは解決と言えるの?

っていうかそれって結局幸せ?

シャワーの水を止めると、風呂の空気が私の体を冷ます。

ポツポツと風呂中についた水滴がテンポ良く落ち、静粛を絶やしていた。

「あーあ。」

この繰り返しだ。

シャワーを浴びて、止めて、ため息をついて、また水を出す。

この時間は私に何も産まないと何回目かのサークルで気づき、ついに風呂のドアを開ける。

タオルを体に巻き付けると、じわじわと体温を感じた。

乱雑に髪の毛を拭き、ある程度拭いてから体の水滴をとる。

髪の毛を乾かすのがいつもより鬱だったが、風邪をひくよりマシかと思い、ドライヤーに手を伸ばした。


髪の毛を乾かした後リビングに行くと夕飯の匂いと共に

「早めの夕飯にする?」

という母の声が聞こえたが、私は全く食欲がなかったので

「いらない、食べたくない。」

と言葉を吐き捨てそのまま自室へ歩いて行った。もうすでに私の分の夕飯は作ってあるのだろう。だけど、それすら無駄にしたい、誰かを不快にしたい。そう思うほどに私の心は闇に蝕まれていた。

ドアを開けると、ベッドと勉強机、少し大きめのぬいぐるみが置いてあるだけの素朴な部屋が私を招く。

眠気は全くない。勉強なんて、学生じゃあるまいし。

私はぬいぐるみを抱いてベッドに座るが、腰に負担がかかるのが不愉快で、結局体を倒した。

山道を5時間走った後のような酔った感覚に近い。私は目を閉じてゆっくり息をした。

そのまま眠ろうと思ったその時、ピコン!とスマホが鳴る。

『そろそろ会いたくね?』

んーーーーー。なんでこんな時に限って光瑠から連絡が来るんだろう。

『そうだね!』

送信ボタンを押してすぐに電源を切ったが、結局すぐに通知が来てスマホを手に取る。

『いつ会えそ??』

あー、これ近頃会いたいやつね。今一番嫌だなーこのアプローチ。

まあでも私も会いたくないわけじゃないし、会ってあげるか。

『明後日とかなら!』

そしてまたすぐに電源を切る。

すぐに通知が来たが、今度は無視した。

そのまま目を瞑る。


「光瑠。優馬。」


二人の名前が口から溢れた。


「私は悪魔だね。」


そう呟くと、自然と笑みが浮かんだ。

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