第79話 化け物
地獄剣山に足を踏み入れた俺達は、深い霧の中を歩いていた。
「これだけ霧が深いと何処を歩いているのかさっぱりわかりません。
フミヤ様?
祠に近づいているのでしょうか?
同じ所を歩いているように感じるのですが。」
(まあ、霧で視界を遮られているからな。
リリィがそう思っても仕方ないかな。
でも霧が晴れたとて、この棘山は厄介だな。
山と山の間を歩いているけど山の直径自体が小さい上に密集している。
それも不規則に。
それが迷路のようになっているからな。
でも、大丈夫だ。たまに【鷹の目】で確認しながら進んでいるからな。
着実に近づいているのは間違いないから。
それより、出てくる魔物の攻撃のほうが厄介だな。
霧に紛れて突然攻撃してくる。
俺は、問題ないが皆は大丈夫か?)
すると、ウルが答える。
「フミヤ様。僕がなんとかウルの盾で抑えているから大丈夫だよ。
攻撃さえ抑えれば、あとはララさんやアル、コリー隊長、春麗さんが叩きのめしているから。」
(そうか。戦闘に集中しすぎて、はぐれないようにしてくれよ。
いい?ララさん。)
「フミヤ様!なんではぐれるのがララと特定しているのです?!
ララは、こう見えてアル、ウル、姫より大人のレディなのです!
お子ちゃまではないのですよ!
迷子になるのは、お子ちゃまの姫が一番怪しいのです!」
(いやいや、姫はアルとウルが意識してるだろ。だから迷子にはならないよ。
ララさんは突っ走るから。)
「じゃあ、フミヤ様がララを意識してくれていたらいいのです!
たまには、ララにも意識を向けたらいいのです!
リリィさんばっかりだと飽きると思うのです!」
(…………飽きるって…。
一応皆も意識の中には入れてるよ。
まあ、いいや。進もう!)
ララさんに翻弄されながら俺は先を急いだ。
地獄剣山。なかなか厄介な場所だったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔王ゾルドは、アイテムボックスから槍を取り出した。
槍先から紫のオーラがたちのぼる。
なかなかの業物の槍だ。
飛びかかってくる堕天使カシエラを槍で抑えつける。
そして、右手をチェンに翳しスキルを発動する。
【重力増】
チェンは、いきなり体が重くなり動きがにぶくなる。
「……スキルですかぁ。
これは、なかなか面倒ですねえ。
思うように動けませんね。
何をしているのですか!堕天使カシエラ!
暴れなさい!」
チェンの言葉が堕天使カシエラに響き渡る。
その瞬間、堕天使カシエラの目が赤く光る。
体を抑えていた槍を掴み自らの力で自由になる。
するとカシエラの手の爪がぐーんと伸びた。
手から血を垂らしながら。
その爪を魔王ゾルドに向けて振る。
カシエラの血液が振りまかれる。
その血液が地面に触れた瞬間、ジュっという音がして、地面の石を溶かしていく。
魔王ゾルドはそれを見て、厳しい表情を見せる。
「……くっ。本当に化け物だな。
血液が強力な酸になっているだと。
チェン!貴様!なんてものを作りだしているんだ!」
チェンが口元を上げニヤリと笑いながら答える。
「ふふふッハッハ。なんてもの?
物ではありませんよ。魔王ゾルド。
堕天使カシエラですよ。
ふふふッハッハ。
可愛いでしょう。ふふふッハッハ。
可愛いだけではありませんよ。
これで中々、夜の相手としても最高なのですよ。
逆らわない。従順な私の可愛い堕天使カシエラです。」
「……化け物とまぐわうか。
落ちるとこまで落ちたな。チェン!
訂正させてもらう。
本当の化け物はお前だ!チェン!」
「!!きっ貴様〜!
穢れた血の魔族の癖に、誰に化け物と言っている!
ゆるしませんよ!」
魔王ゾルドのスキルによって動きを鈍くさせられているチェンは怒りをぶつけるようにスキルを発動した。
【蛇手千手観音】
チェンの両掌から恐ろしい数の蛇が溢れ出す。
その蛇が魔王ゾルドに一斉に襲い掛かる。
魔王ゾルドは、華麗な槍捌きで蛇達の攻撃を捌いていく。
蛇達とともに攻撃を仕掛けるのが堕天使カシエラ。
伸ばした爪をまるで剣のように振るう。
それを避ける魔王ゾルド。
しかし、堕天使カシエラの爪の先が魔王ゾルドの顔を掠める。
魔王ゾルドの顔から流れる血。
堕天使カシエラは、自身の爪についた魔王ゾルドの血液を恍惚の表情で舐め上げた。
すると、堕天使カシエラは体が一瞬輝く。
それを見たチェンは歓喜の声をあげた。
「ふふふッハッハ!
やはり!やはり!そうだ!
魔王ゾルドの血でカシエラが堕天使から神になるのだ!
まだ量が足りない!
ふふふッハッハ!堕天使カシエラ魔王ゾルドの血液をたらふく取り込むのだ!」
そう言うとチェンは、更に蛇を両掌から出す。
そして、堕天使カシエラはさらに、爪を振り回しはじめるのだった。
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