第74話 カグラ

翌日の朝。


サンダ人民国王都の大通りは騒然となっていた。


今まで大通りの突き当たりにドンッとあった5剣神ブルスリの屋敷が灰になっていたからだ。


死体もすべて燃えて灰となっていた。


街の者達は野次馬のように午前中、集まっていたが午後には何事もなかったようにいつもの暮らしが始まっていたのだった。


そんな午後、春麗の部下で奴隷商に潜入していた男が、ある屋敷に入って行った。


そしてその屋敷の主人と会っていた。

その主人は、歳の頃は20代半ばあたり。

黒髪で長い髪を後ろに束ねている男。

切長の目に鼻筋の通ったなかなかの美青年。

男なのにも関わらず色気を感じさすそんな男だった。


「ブルスリや奴隷商人達は、一夜のうちに綺麗に始末されたか。

………お前もご苦労だったな。

長い間、潜入して。

春麗の指示とはいえ、奴隷商人になりきり、そこで認められ、元締めまで上り詰めた。

お前の努力には、頭が下がる。」


春麗の部下は、その屋敷の主人に頭を下げて言う。


「お言葉に恐縮するあるね。

ベコベア様。

私の努力など、しれたものあるね。」


「しかし、あのブルスリと奴隷商人達を始末した者達は、恐ろしく腕が立つようだな。

短時間で制圧したと監視させていた者から聞いている。

特に表玄関から攻めた者は、異次元の力だったと報告が上がったが。」


「私は、表玄関は見ていないあるね。

裏の状況は、隠れて見ていたあるね。

春麗様の強さはいつも通り。

後の二人の強さは、又春麗様に匹敵する強さだったあるね。

一人は拳士。あれは、恐らく小人族の姫。

凄いパンチだったあるね。

パンチで頭がグチャと潰れるのを見て、恐ろしかったあるね。

もう一人は、剣士。

剣のキレが凄まじかったあるね。

後、戦闘には参加しなかった、奴隷を救出した四人もなかなかの手練れと判断したあるね。

表玄関の奴を見れなかったのは悔やまれますがね。」


「そうか。表玄関で戦闘した者は、数多くのスキルを所持しているようだ。

戦闘も一方的。

ブルスリとの会話で、三つの手数では永遠に自分は倒せないと言っていたと聞いた。

それに逃げたブルスリを追うこともせず、どうするのかと思っていたら、自分の影に手を入れてそこからブルスリを引き抜いたという。

こんなことができるなんてな。

恐らく特級スキルなんだろうが‥…

ブルスリをマグマで溶かしたと言う。

恐らくこれも、特級スキル。

奴隷商人達を斬り刻み、雷で黒焦げにしたのも、特級スキルだろうとのことだ。

特級スキルの複数持ち………恐ろしいな。

最初の隕石の雨は、闇属性魔法極だと言うし、青い炎は火属性魔法極だと聞く。

極魔法も複数持っている。

間違いなく、強者なのは間違いない。」


「ベコベア様。

ガオシュンが討たれ、ブルスリも昨日討たれたあるね。

春麗様のことです。

ベコベア様の情報を奴らに与えているのは確実。

恐らく、順番的に5剣神の長チェンより先にベコベア様を討つように動くあるね。

春麗様は、街の民達のアベコベな姿を嘆いていらっしゃる。

民達にそのような術を掛けた貴方様を憎んでおられる。

あの者達に貴方様を倒してくれと恐らく頼んでいるあるね。

…………春麗様の意識はどこまで………?」


ベコベアは、綺麗な顔を崩さない。

顎に手を当て考える。

そして言う。


「……………。

あの者達と話をする必要があるようだ。

お前には、苦労を掛けるが春麗の目を盗んで場を設けることはできないか?

お前は、春麗の部下だとあの者達に認識されている。

お前なら受け入れてもらえそうだ。

なんとか場を作ってくれ。

あの者達との戦いは、さけたいのだ。

苦労を掛けるが頼まれてはくれまいか?」


「……………。

勿体ないお言葉あるね。

ベコベア様。

待ってて欲しいあるね。

今日中に場を作るあるね。」


「そうか。

すまぬな。頼む。」


春麗の部下の男が屋敷を後にする。

ベコベアは、大きく溜息を吐き窓の外を見つめるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


コリー隊長とララは、春麗の私邸で解放した奴隷と話をしていた。


残りのフミヤ達は宿屋で昨日の疲れを癒やしていた。


(リリィ達も昨日は上手く奴隷解放できたようで良かったよ!

上手く事が運んで良かった。)


「フミヤ様が表玄関で大暴れしたおかげですよ!

いきなりメテオレインはビックリしました。」


「凄い〜音でしたわ〜。

戦争の時より轟音でした〜。

辺りが静かだったから〜余計に響いたのでしょうね〜」


「あれでかなり奴隷商人がバラけたと思うんだ。僕らも救出作業がとてもやりやすかった。」


「本当、表玄関は凄いことになってましたわよ。

塀や門は崩れて大きな穴が空いていましたし、屋敷は、青い炎でつつまれているし。

地獄とはああいうものだと思いましたわ。」


(……まあ、すこしやり過ぎたかもな。)


フミヤがそう言った時、部屋の扉をノックする音がした。


フミヤが扉を開ける。


すると、男が立っていた。

フミヤは警戒する。

しかし、リリィとセシル姫、アル、ウルが警戒しなくて大丈夫とフミヤに告げる。


「春麗さんの部下の方ですわ。」


すると、男が頭を下げて口を開く。


「お休みのところ恐縮あるね。

私は、昨日春麗様の指示で屋敷の裏口から手引きした部下のカグラというあるね。

実は、皆さんに会わせたい人がいるあるね。」


(誰に?春麗から聞いてないぞ。)


「春麗様は知らないあるね。

知ったら貴方様達に必ず会わせないあるね。

私は、春麗様の部下。

間違いなく、春麗様の幸せを望んでいるもの。

春麗様の幸せの為に、会わせたい人がいるあるね。」


(ちょっと待て。お前、自分がおかしなことを言っている自覚があるか。

春麗が俺達に必ず会わせない奴を春麗が知らない間に俺達に会わせるというのか?

それがなんで春麗の幸せに繋がるんだよ!)


「おかしなことを言ってると思われるのは、百も承知あるね。

しかし、何回も言うあるね。

私は、春麗様の部下。春麗様が幼き頃より仕えている者。

春麗様の幸せを誰よりもずっと望んでいる者と自負しているあるね。

だから、信じてもらうしかないあるね。

これは、本当に春麗様が幸せになる為に必要なことあるね。

………頼むあるね!頼むあるね!」


カグラと名乗った男は床に頭を付けて懇願する。


(…………誰に会うんだ?)


「今は、言えないあるね!

しかし、春麗様の幸せに繋がる人なのは間違いないあるね!

…………信用してもらえないあるか?

なら、私の腕を今から落とすあるね。

それで信用して欲しいあるね!

春麗様の為なら、腕は惜しくないあるね!」


そう言うなり、カグラは自分の剣で左腕をスパッと斬り落とした。


「うっ!ぐぐぐぐっ!

頼むあるね!頼むあるね!」


(なっ何てことを!

リリィ!)


リリィがカグラの腕をくっつける為に、大聖女の癒しで治療をする。


「頼むあるね!頼むあるね!」


カグラは、治療されながらもずっと頭を下げ続ける。


俺は、リリィ、アル、ウルを見て三人が頷くのを確認して言う。


「わかった。それだけ言うなら会おう。

そのかわり、少しでもおかしいと思ったら斬るぞ!」


「それで構わない!私は、命を掛けて春麗様を幸せにすると誓ったあるね!」


カグラの気合いに押され、会う決断をしたのだった。


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