第69話 アベコベ

アキノー氏が連れて来た女性。

背中まである黒髪を後ろに束ねた所謂ポニーテールの表情はどこか冷たい印象を与えるが、目鼻立ちは整った綺麗な女性だった。

服装は、俺の世界のチャイナドレスと呼ばれる物だ。深いスリットが入っており、正直そちらに意識をもっていかれそうなほど、とても魅惑的な容姿をしていた。


年齢は俺と同じくらいか、年上か。

女性は見た目で判断すると、痛い目に合うので、あくまで見た目の話だ。


女性は、ジッと俺を見ている。

何かを探るような目つきだ。

俺は、目を逸らさずにいた。

所謂メンチぎりだ。


そのメンチぎりも、アキノー氏の声で終わりをつげる。


「チュンリ姫様。こちらが、先程お話したガーランド王国のセシル王女殿下一行の皆様です。

5剣神の長と因縁があり、討つ為にサンダ人民国に入国したのです。

まさしく、チュンリ姫様と思惑が一致すると思いこの場を用意させて頂きました。」


すると、チュンリ姫様と呼ばれた女性が口を開く。


「………因縁とはどのようなものなのだ?

見た感じ全員強者だと理解はした。

特にそこの男性は、今まで見たことのないオーラを感じる。

セシル王女殿下一行というのは建前で、このパーティのリーダーは、この男性なんだろう?」


アキノー氏が答える。


「流石!チュンリ姫様。

ご慧眼恐れ入りました。

フミヤ様は、ルシア帝国とガーランド王国の戦争で、あの勇者と怪僧を倒された猛者です。

ルシア帝国では、真の勇者と噂されている人物でございます。

人柄も私が保証いたしますよ。」


一瞬、チュンリ姫様の表情が変わるがすぐに元に戻り言う。


「真の勇者………。

アキノー。もう其方が語らなくてよい。

私は、直接彼らと話をしてみたい。」


アキノー氏が頭を下げて、それから俺にも頭を下げて部屋を出ていった。


俺はチュンリに席に座るように手で促す。


チュンリは席についた。そして、口を開く。


「で、チェンとの因縁とはどのようなものなのだ?」


この姫様、結構忙しない。

そう思いながら俺は口を開く。


(取り敢えず自己紹介をさせてもらう。

このパーティのリーダーのフミヤだ。

そして、こっちが大聖女マリアンの娘のリリィ。その横がセシル王女殿下。そして、その横が小人族の姫、ララさん。

そして、エルフの戦士のアルとウル。その横にいるのが獣人国近衛騎士隊長のコリーさんだ。よろしく頼む。)


「私は、春麗(しゅんれい)。

この国の王女だ。

アキノーが言っていたチュンリというのは、5剣神での呼び名。

今この場では、春麗と名乗ろう。

其方達には、あくまでこの国の王女として関わりたい。

よろしく頼む。」


俺は、因縁について説明することにした。


(春麗王女は、チェンが聖教国で教皇をしていたのは知っているか?)


「春麗で良い。

チェンが聖教国で教皇?

いや知らない。奴は、私が生まれる前から国に留まらず、たまにしか国に帰ってこない奴だった。

私もそういう奴だと思っていたのだが、聖教国で教皇をしていたのか!」


(ああ。そこで教皇をしながら、邪神を作ろうとしていた。

聖女カシエラを傀儡にして、怪僧と黒魔女の血液を飲ませて心を折り、勇者の血液を飲ませてカシエラの能力をアップさせた。

残りは、ここにいる大聖女マリアンの娘、聖リリアン・ドロテアの血液を飲ませば邪神は完成となる状態だった。

幸いにも一滴しか、カシエラは口にできず邪神とはならなかったが堕天使となり、チェンを連れて飛び立ってしまった。

チェンを野放しにしているとこの世界が滅ぼされるかも知れない。

その前に堕天使などこの世界の毒にしかならない!

だから、俺達はチェンと堕天使カシエラを倒す為、ここに訪れた。

そしてコリーさんは、黒魔女ダビエラの妹。

チェンによって殺された姉の仇を討ちたいという思いがある。

これが因縁だ。

それとは、別に獣人や小人族がここの奴隷商に攫われている。

それの解放もしたいと思っている!)


「……邪神……あの男は!

其方達は、チェンを討ち、傀儡の堕天使カシエラも討つ。

そして、奴隷商から奴隷となっている小人族と獣人を解放すると。

となると、私以外の5剣神と戦うことになるぞ。

奴隷商がこのサンダ人民国で大きな顔をしているのは、後ろに5剣神のガオシュンとブルスリがいるからだ。」


(5剣神のガオシュンとかいう奴は、チェンとの因縁の時に、もうすでに倒した。

遺体は、ガーランド王国が処理したと思うが。)


「なっなんと!

ガオシュンを既に亡きものにしたと!

こっこれは………。

……私から其方達にお願いをしなければならないな。

私と共に5剣神を倒してくれ!」


春麗は頭を下げて言う。


(頭を上げてくれ。

頼まれなくても俺達は自然とそいつらと戦うことになる。

春麗が5剣神なのに他の5剣神を討ちたい理由を良かったら聞かせてくれ。)


春麗は、淡々と語り出すのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「この国は、王族は力を持っていない。

今や5剣神がこの国の王のようなものだ。

私の父も母も兄も5剣神の操り人形にすぎん。

私が5剣神になったのも、他の四人の剣神に対抗する為なのだ。

何から話を始めようか。

其方達は、王都の様子を見てどう思った?」


ララさんが真っ先に答える。


「嘘つきばかりなのです!

皆んな平気で嘘をつくのです!」


春麗は、苦笑しながら頷く。


「そうだ。嘘と言えば嘘になるかな。

けれど、嘘ではなく奴らはアベコベのことを言っているに過ぎないんだ。

高いは、安い。甘いは、辛い。

辛いは、甘い。広いは、狭い。

まだこれは序の口だ。

低ランクのボアの肉と言いながら、高ランクのグレートビッグボアの肉。

高ランクの不死鳥の焼き鳥と言いながら、低ランクの火鳥の焼き鳥。

自分は農家だと言いながら、実は王城の騎士。

色んなアベコベで溢れているのだ。

それを嘘と捉えられるのだがな。」


(なんでこんなことに?)


「全ては、5剣神が崇める神から……いや、5剣神が、崇める邪神から得たスキルの影響なのだ。」


すると、リリィがそれに反応した。


「あっ!チェンが言ってました!

確か、サンダ人民国には複数崇める対象があるとか。

チェンは、確か大蛇を崇めているとか。

たしか、チェンはサンダ人民国の国民全てが生まれた時に崇める対象を決めると言ってました。」


「おお!そうだ。

まさしくその通りだ。

サンダ人民国国民は、それによりスキルを得ると言い伝えられている。

しかし、それは、デマだ。

ただの固有スキルなのだ。邪神が与えた物ではない。

邪神の像に血を捧げた者のみが特殊なスキルを得ることが出来るのだ。

それが、5剣神だ。」


(特殊なスキル?【特級スキル】のことか?)


「おお!【特級スキル】を知っているのか?!」


(ああ!知ってるも何も【特級スキル】を俺は複数所持している。)


そう言った瞬間、春麗は驚愕の表情で言う。


「なっなんて?………

【特級スキル】を複数所持だと!

…………なっ成程!

貴殿のその途轍もないオーラは、そういうことなのだな。ハッハッハ!

納得した!納得したぞ!」


クールな印象だった春麗が表情を崩して笑う。


(で、5剣神の特級スキルと、あの嘘?いやアベコベか。関係あるのか?)


「ふふふっ。ああ。

あの国中がアベコベになっているのは、5剣神の一人、ベコベアの【特級スキル】のせいだ。

その前に、5剣神が血を捧げた邪神の像について話そうか。

邪神の像があるのは、地獄剣山と呼ばれる場所。

普通の人間は、行こうと思わないような場所だ。勾配のキツイまるで棘のような山が連なる場所だ。

地獄剣山という名を想像すればわかるだろう?

5剣神は、そこにある邪神の像まで辿り着き、血を捧げた。そこにある像は、五体。

まずチェンが捧げたのは、8本首の大蛇の像。

そして、アイツが得た【特級スキル】は、【蛇縛り】対象の心を縛り、支配するのだ。

そして、フミヤ殿にすでに倒されたが、

ガオシュンが捧げたのは、6本腕の猿王の像。

アイツが得た【特級スキル】は【攻守3倍】。

一太刀で3回の攻撃、守りも一度で3回の守り。

あの守りと攻撃を撃破ったフミヤ殿は、どのように倒したのかとても興味がある。」


俺は答える。


(成程な。俺のスピードとパワーにやたら対応するなとは思っていたけど、ようは、腕が6本あるように、3本の腕で攻撃し、3本の守りで防いでいたということか。

でも、雷を纏っていたから水属性魔法で感電させて動きを止めたから、楽勝だったぞ。)


「ほう!水で感電させて動きを止めたか!

ふふふっ。なかなか、フミヤ殿は戦闘に頭も使っている。

強者は、力に溺れ力押しになるというのに。

これは、感服した。

おっ!続きを言わねばな。

ブルスリが捧げたのは、3頭の虎王の像。

名の通り三つの頭を持つ虎だ。

得た【特級スキル】は、【剣拳魔】だ。

剣と拳、そして魔法を同時に使えるスキルだ。

剣を一振りしたかと思えば、剣と拳、そして魔法が飛んでくる。

そして、ベコベアが捧げたのが、両面邪鬼の像だ。

前と後ろに顔がある鬼の像だ。

得た【特級スキル】が【天邪鬼】。

コイツがとても厄介なスキルなのだ。」


(ただの愉快なスキルではなくて?)


「王都の者達を見れば、ただの嘘つきというか、アベコベになっているだけと思うだろうが、あれを発動されると仮に"お前強いな"と言われると能力が一気に下がり弱くなってしまう。"お前速いな"と言われると遅くなるんだよ。

ある意味とても凶悪なスキルと言っていいかもな。」


(………怪僧の"言葉の凶器"の上位版って感じか。………まあ厄介だな。

でも、何か戦いようはあるだろうな。)


「……頼もしいな。

私は、ずっと討ちたくても動けずにいたのだ。

この四人を討って国を、国をまともにしたいとずっと、ずっと思っていた。

しかし、一人ではなかなか思いは叶わず。

光を灯す者、真の勇者を待っていたのだ。

あっ!私のスキルも言った方が良いな!」


(別に言わなくても良いぞ。普通は、スキルは隠しておくものだ。)


「いや、其方達には伝えておこう。

共に戦う者の礼儀としてな。

私が捧げたのは、風神雷神の像だ。

一番まともな像に捧げたのだ。

【特級スキル】は【迅雷風烈】。

激しい攻撃力と烈風のように吹き抜けるスピード。

私は、拳と円月刀で戦うスタイルでな。

私の戦闘スタイルにはとても合っているスキルと自負しているのだが、他の奴らと比べると特異性はないかもしれぬな。

………其方達の目的には、必ず5剣神が出てくる。

私の目的は奴らを討ち国をまともにすること。

アキノーが言うように其方達と思惑が一致する。

共闘しては、もらえぬだろうか。」


春麗は、頭を下げるのだった。


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