第66話 親のつとめ

次の日の朝、朝食を食べて俺はコリーを連れて空間転移で聖教国に飛んだ。

リリィにも顔繋ぎとして同行してもらった。

その他は獣人国で待機だ。


「あらあら!リリアン様!どうしましたか!?」


ミーナ大司教の私邸に飛んだ俺達。

庭でミーナ大司教と会う。

何やら前と比べて静かだと思えば、子供達が居ない。

いつも庭でキャッキャと遊んでいた子供達がいなかった。


(ミーナ大司教。子供達は?)


ミーナ大司教は微笑みながら答える。


「皆、家で過ごしているのです。

親に昼の仕事をそれぞれ用意しましたので夜は、親子水入らずで過ごせるようになったのです。いずれしっかりした家も建ててやりたいと教会は動いています。

ただ今は、聖教国自体の金が不足しているのでまだまだ先になりますが、亜人の方々も今は希望に満ち溢れています。

これも、全て皆様のおかげです。

ありがとうございます。」


(金か。リリィ!あれを一つミーナ大司教に渡したらいいんじゃないか?)


「そうですね!私も今、フミヤ様と同じことを考えてました。あれ一つで解決できますね。」


リリィはそう言うとアイテムボックスからオリハルコンの鉱石を一つ取り出す。


「ミーナおばさま。

これを差し上げます。これを売れば亜人の方々の家を建てる資金は楽に用意できます。

オリハルコン鉱石です。」


「えっ!まあ!これは凄い!

えっ!でもよろしいんですの?!

こんな貴重なものを!」


リリィは微笑みながら俺を見る。


(ミーナ大司教がリリィを自由にしてくれたお礼だと考えてくれ。

俺もリリィもミーナ大司教には感謝しているんだ。ありがとう。)


俺とリリィは頭を下げる。


「まあまあ!リリアン様に頭を下げさすなんて!やめてくださいませ!

こちらのオリハルコン鉱石、ありがたく頂戴いたします。

亜人達の為に使わせていただきます。

………えっと、この為に来られた訳ではないですよね?

何か御用があるんですよね?」


俺はコリーさんをミーナに紹介する。


(こちら、獣人国のコリーさん。

あの黒魔女ダビエラの妹さんなんだ。

黒魔女ダビエラが亡くなっていることを教えたら、遺体を引き取りたいと言われて。

だから、こうして連れて来たと言う訳だ。)


「そうなのですね。

では、早速ご案内します。

以前人族用の大聖堂だった所の地下に霊安室があるのです。

そこで、腐らないよう温度調節して保管しています。

さあ、行きましょう。」


ミーナ大司教の後に付いていく。


人族用の大聖堂に着いた。中に入ると亜人達が一つの像の前で跪き、祈りを捧げていた。


(あれは、大聖女マリアンの像。

移動させたのか?!)


ミーナ大司教が答える。


「はい。私が管理していた大聖堂は、もうあちこちがダメになっていましたので、人族優先主義を撤廃したのですから、この人族用と言われていた大聖堂を亜人達にも開放することが、一番にすべきことと判断しました。

そして、亜人達はあのマリアン様の像に愛着を感じているので、皆でここに運びいれたのです。」


以前見た時は、亜人達はマリアン像に縋りついて涙をこぼしていたが、今は祈りを捧げ、笑顔でマリアン像の体を撫でていた。


(かなり、心境の変化があったようだ。

良かった。

ミーナ大司教。逆に人族はどんな様子だ?)


ミーナは、清々しい表情で答える。


「撤廃した日、人族優先主義者達を捕らえました。

その者達は、解放しほとんどがサンダ人民国へと居を変えていきました。

なので、今いる人族は元々差別主義者ではありませんから、すぐに亜人達を受け入れ、色んな仕事を斡旋してくれて。

我々も非常に助かっているのですよ。

本当に良い国、良い聖地へと変わっていこうとしているのです。

ローザもケイン司教も一生懸命、体制作りに奔走してくれています。

さあ、こちらです。」


奧のドアを開けて、地下へ降りる階段を降りていく。


少し室温が下がったように感じた。

ひんやりとした部屋。

そこに三つ棺桶が置かれていた。


「真ん中が黒魔女ダビエラです。

どうぞご確認ください。」


コリーが棺桶に近づく。

ミーナ大司教が言う。


「かなり汚れていたので、私どもで清めておきました。」


「……感謝いたします。」


コリーは棺桶を覗きこむ。そして、棺桶に縋るように体を寄せる。


「姉様………!うっうっうっ……わぁ〜ん」


俺達は、その場所からそっと離れるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


30分ほど待ったのだろうか。

コリーは、霊安室から俺達が待つ上階へとやってきた。


目は泣き腫らしているが、表情はスッキリとした表情だった。


(連れて帰るか。

ミーナ大司教、棺桶ごと良いか?)


「はい。大丈夫です。」


俺は、アイテムボックスに入れることをコリーに告げアイテムボックスに棺桶を保管した。


そして、空間転移で獣人国へと又飛んだのだった。


獣人国の王城に飛んだ俺とリリィ、そしてコリー。


コリーは、獣王と王太子にダビエラで間違いなかったと告げた。

そして、獣王と王太子が手を合わせたいというので、アイテムボックスから棺桶を出した。


獣王と王太子はダビエラの遺体に手を合わす。

そして、獣王が語りだす。


「………ダビエラよ。

其方が勇者パーティに入ることを許さねば、このようなことにならずに済んだかも知れぬ。我のせいだ。

我が国から、勇者パーティの一員が出るという誇り高き事柄に我も、そこに利が生まれると思ってしまった。許せ!

……王太子よ。我は、ダビエラの国葬を行うべきだと思うがお前は、どのように思う。」


「父上。民もまた、ダビエラを誇りに思っています。

国葬をするべきだと考えます。

コリーよ。良いか?」



「獣王様と王太子様の御心のままに。」


今、ダビエラの国葬が行われることが決まったのだった。


その時であった。文官が慌てた様子でこちらにやってくる。


そして、口を開く。


「獣王様!王太子様!ご報告いたします!

ザラ第二王子が兵を挙げ城に進軍してきました。その数、1000。

第二王子の派閥の者達かと思われます。

打倒王太子様政権と謳っています。」


「なっなんだと!謀反か!

父上!ここは、私が兵を率いて!対処します!」


獣王が王太子を止める。


「待て!良い!

お前が動くでない!頼む!

我が止めてくれようぞ!

あんな馬鹿でも我の子よ。

馬鹿が馬鹿な行動を取った時、その責任をとるのは親のつとめぞ!

行ってくる!」


駆け出す獣王ガネーシャ。


(王太子様!俺達も助太刀するぞ!)


「いや。よい。

父上があそこまで言ったのだ。

親のつとめと。」


俺達は、王太子と城の塀の上から見ることになったのだ。


城を囲むようにザラ第二王子の兵が並ぶ。


その最前列にザラ第二王子が槍を手にしていた。


王城の門が開き、獣王ガネーシャが姿を現す。


ザラ第二王子が驚愕の表情で叫ぶ。


「ちっ父上!父上が何故!床に臥せっていた

のではないのか!?

こっこれでは話が変わってくるではないか!」


すると、獣王ガネーシャは全速力で駆け出し、ザラ第二王子の前まで行きそのままの勢いで、ザラ第二王子を殴り飛ばした。


" グギャ!"


音がここまで響く。


そして、獣王ガネーシャの声が地響きのように響き渡る。


「" この馬鹿息子がぁ!

何、血迷って戦争ごっこをしとるんだ!

幼子でもあるまいし!

遊びでしたですまんのだぞ!

この馬鹿タレが!

王太子が出て来る前に、兵を引かんか!

第二王子を支持しとる者達よ!

本当にザラのワガママに付き合わせて悪かった!

我が今からザラ第二王子の根性を叩き直す!

お前達は今すぐ武器を捨て領地に帰るのだ!

すまなかったな!"」


獣王ガネーシャの迫力ある声に、兵達は武器を捨てる。


獣王ガネーシャは、ズカズカとザラ第二王子の元に行き、倒れているザラ王子に馬乗りになって、殴る。


そして、獣王の目から涙が流れていた。


「この馬鹿タレが!

この馬鹿タレが!

サンダ人民国の者を手引きし、民を攫わせておったな!

この馬鹿タレが!この売国奴が!

この大馬鹿もんが!

お前をぶち殺さねば、民に民に申し訳が立たぬわ!

この馬鹿タレが!馬鹿タレが!

うっうっうっ!」


「がっは!ゴホゴホ!ち…ち……う……え。

お……ゆ…る……し……を……」


獣王ガネーシャの元に王太子が行く。


獣王が最後に振り上げた拳を王太子は、止めた。


「………父上。いや、獣王ガネーシャ様。

もうそのへんで。

親のつとめは、これで十分です。

後は、国が裁きます。

獣王ガネーシャ様。……父上、弟を裁く私をお許しください。

民に示しが………。」


獣王ガネーシャは、王太子を見上げて微笑む。


「ふっ。当たり前だ。

すまぬな。お前に辛い役をさせる。

こんな馬鹿でも、最後は王族らしく潔くいくだろうよ。

頼んだ。」


王太子の後ろから近衛騎士隊長コリーと近衛騎士が現れる。


王太子が叫ぶ。


「……国家反逆罪でザラ第二王子を捕らえよ!そして、牢屋に放り込め!」


コリー近衛騎士隊長と近衛騎士が一斉に動く。



気を失っているザラ第二王子は引きずられるようにして連れていかれる。


それを見つめる獣王ガネーシャと王太子の目には涙が流れていたのだった。


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