第64話 獣王ガネーシャ

獣王ガネーシャ様を診察したリリィ。

リリィの表情が変わる。


「どうしてこんなことになっているのですか………。

王太子様、獣王ガネーシャ様は誰かと戦闘でもされたのですか?」


「いや、何もしていないと思うが…。

訓練もここ数年する暇がないくらい公務も忙しいご様子だったからな。」


「………えっ。だったらなんで肋骨がボキボキに折れているのですか!?

そのうちの一本が肺に刺さっていますよ。

これでは、呼吸もままならないと思いますよ。

というか、生きていらっしゃるのが不思議なくらいです。

今も平気な感じでイビキをかいて寝ていらっしゃいますし。

普通ここまでなっていたら激痛で寝るなんてこと出来ません。」


「……………そっそうなのか?!

まっまあ父上は、豪快な方だからな。

ハッハッハッ!」


「……笑い事ではありません!

普通に骨が折れている箇所は、"大聖女の癒し"で完璧に治せます。

しかし、肺に刺さっている骨をまず抜かない限り、体調の改善は見込めませんよ!

骨さえ抜ければ傷ついた肺も"大聖女の癒し"で治せるのに……。」


リリィが困った顔で考え込んでいると、アルとウルがリリィに声を掛ける。


「リリィさん。肺に刺さっている骨を抜けば良いのですわね!私とウルならなんとかできるかも知れませんわ。ねえウル。」


「どういうことですか?アルさん!ウルさん!」


「僕らエルフは、よく木から落ちて肋骨を折ることがあるんだよ。

そして、肺に折れた骨が刺さる事もよくあることなんだ。

僕達は、それをナイフで切って手で抜く。

体内に溢れた血液を抜き取る方法もちゃんとあるんだよ。だから、骨を抜くのは任せて!」


「では、やりましょうか。ウル。

王太子様。お湯と綺麗な手拭いの用意をお願いしますわ。

それと、このベッドのシーツは血で汚れると思いますが、ご了承を。

後、獣王様が治療中に暴れたらやりにくいので手足をロープで固定しますわ。

ロープを用意してください。」


ウルが腰につけていたナイフを抜く。


それを蝋燭の炎で炙る。


そうしている間に、アルが獣王の服を脱がして患部を探る。


「ここね。リリィさん、ここで間違いないですわね。」


「そっそうですね!そこです。その他の骨は折れていますが肺には刺さって居ないと思います。」


王太子がお湯と綺麗な手拭いをその間に用意してきた。


ウルのナイフが赤く色を変えていた。


「よし!ロープで固定もできたね。

王太子様。獣王様がどれだけ叫んでも大丈夫だからね。

僕らもこれをする時、痛さで叫ぶんだ!

でも、叫んでいる間に終わるから、痛さは一瞬だよ!だから心配しないで。」


そう言うとウルは、赤く色を変えたナイフの刀身を獣王の患部にスッと縦に約10センチほど斬る。


「……うっ!ぎゃあ〜なんだ!ぎゃあ〜いっ痛い!痛い痛い!何をしとるんじゃ!

やっやめんか!いっ痛い!」


獣王の体から血液が噴き出す。


それを躊躇することなく、ウルは斬り口にスポッと手を入れる。アルは、獣王の体の斬り口を横に引っ張りウルの手が入るように補助していた。


「うぐぐぐぐがががががが!

やっやめてくれ!いっ痛い!」


獣王がアルとウルによってまるで蹂躙されているかのような地獄の光景に王太子だけではなく、俺達も唖然としていた。


「ヨシ!掴んだよ。抜くよ!

アル!スポンジヒルの用意!」


アルがウルの呼び掛けで背負い袋から、何やら取り出す。


そして、干からびたような、そして干し葡萄のような物を大量に取り出す。


「アル!行くよ!……抜けた!

入れて!」


ウルの手が獣王の体から抜けた瞬間大量の血が体から溢れ出てくる。


そして、すかさずアルが干し葡萄のような物を獣王の体に入れる。


すると、一瞬だった。

溢れ出ていた血液が止まった。


その代わりに、傷口からポロポロと苺くらいの大きさの物が出てくる。

何やら動いている。

とても気色の悪い光景だった。

その出てきた苺のような物をアルとウルは、お湯の中に掘り込んでいく。


すると、その苺のようなものから、これは獣王の血液と思われるものが噴き出し苺のようなものがまた干し葡萄のように縮こまったのだった。


「ヨシ!スポンジヒルが全部出てきたね!

さあ!後は、リリィさんの"大聖女の癒し"の出番だよ!僕らの役目は終わり!」


「はっはい!そっそれではいきます!

"大聖女の癒し"!」


リリィの体から光が抜け出し、光が獣王を包み込む。

そして、その光は部屋中を明るく照らす。


まずウルが斬りさいた傷口がスゥッと綺麗に塞がっていく。


おそらく、肺の傷も同様に塞がったのだろう。


そして、まだ光が包みこんでいるのは、肋骨の再生だろう。


痛みで苦悶の表情をしていた獣王の表情が穏やかな表情に変わっていく。


そして、緩やかに光が収束していくのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「これで大丈夫です。

血液を大量に失っているので、肉をしっかりと食べてください!」


すると、獣王がベッドからムクッとおきあがり、体を確かめるように動かし始めた。


「おお!あれだけ、胸の痛みがあったのが嘘のようだ!全然痛くないのだ!

ハッハッハッ!

………しかし、治療の時は死ぬかと思ったぞ!ハッハッハッ!まあ!良い!

完璧な治療だ!

オイ!王太子よ!この医者達にしっかりと褒美をとらせろ!良いな!」


「父上!まだそんなに動いてはダメです!

血液が足りてないと言われたでしょ!

それと、こちらは、医者ではありませんよ!

ガーランド王国のセシル王女殿下一行の聖女、いや大聖女リリアン様とエルフの森の戦士のアル殿とウル殿です!」


「ほう!そうか!ガーランド王国の王女殿下とな!

王女殿下!助かったぞ!

流石王女殿下!良い従者をお持ちだ!

感謝する!」


すると、セシル姫が言う。


「獣王ガネーシャ様〜お言葉ですが〜

アルとウルに関しては私の従者ですが〜

大聖女リリアン・ドロテア様が私の従者などと、畏れ多い。

私も目をずっと患っていて〜大聖女リリアン・ドロテア様に治していただいたのです。

目が治って世界を〜見て周りたくて〜リリアン様とフミヤ様の旅に無理やり同行させて頂いているのです〜。

便宜上〜ガーランド王国王女一行としたほうが何かと都合が〜良いのでそう名乗っておりますが〜パーティリーダーは〜フミヤ様ですわ〜。」


「おお!そうであったか!

それは、失敬!

フミヤ殿!リリアン殿!

助かった!感謝する!」


すると、リリィが獣王ガネーシャに言う。


「獣王様。何故肋骨がボキボキに折れていたのですか?

折れていた本数が半端ではない数だったのです!何があったのです?」


「ガハハハハ!

そんなに折れておったか!

いつだったか?!

森に狩りに行った時に、グレートビッグボアと遭遇してな!

いつもどおり、受け止めたんだ!

その折りにな!なんか胸が痛いと思いだしたのだ。

それで筋でも違えたかと思っての!

素手で体を殴ったら治るかと思ったんじゃ!

最初、それで効果があったからの!

だから次は、そこにある鉄の棒で殴っておった!

ガハハハハハ!

これは、ただ痛いだけだったの!」


「…………獣王様。

それが原因です。

なんでそんなことするのですか!

治るはずがないでしょう!

肺に骨が刺さっていたのですよ!

息がしにくかったはずです!」


「そうなんだ………。

日に日に苦しくなっての。

流石にヤバいと思って、公務を王太子に任せてベッドで横になっていたんだ!

そうか!肺に骨が刺さっておったか!

ガハハハハハハ!」


リリィは呆れた顔をしていた。


獣王は、脳筋だと俺は認識した。


獣王が言う。


「王太子よ!

皆の部屋の準備をせい!

恩人を城でもてなすのだ!」


「父上!それは、もう準備済みです。

この方達には、私の娘達をサンダ人民国の奴隷商人から助けてもらっています!」


「……なっなんだと!

ワシの可愛い孫娘がサンダ人民国の奴隷商人が何をしようとしたのだ!」


「父上!奴隷商人なのですから、することは一つ。攫って奴隷落ちにするしかないでしょうが!

それを助けてくださったのです!

最近の行方不明者も奴隷商人達の仕業かと考えています!

黒魔女ダビエラは、違いますよ!

ダビエラは……サンダ人民国5剣神の一人、チェンという者に殺されたとのことです。

聖教国がその遺体を管理してくれているということで、明日コリーが引き取りに行きます。その際も、フミヤ殿が空間転移というスキルで連れて行ってくれるそうです。」


「なっなんだと!ダビエラが!

…………コリーよ!

気を落とすでないぞ。

うぐぐぐぐ!

どれもこれも、サンダ人民国か!

ゆっ許さん!許さんぞ!

………ザラは何処におる!

あやつは、サンダ人民国と繋がっておるとぬかしておったな!

奴隷商人の件、5剣神の件!

アイツが手引きしたのではないだろうな!

あの馬鹿息子が!

馬鹿も愛してやらねばと考えておったが、ワシの可愛い孫娘とダビエラが被害にあったとなれば、ワシがザラに鉄拳制裁を加えてやらんといかん!

すぐに連れてまいれ!」


「父上!少し落ち着いて!

血が足りてないと言われているでしょうが!

私もザラを許すつもりはございません!

しかし、何処にも姿がないのです!

今探させていますから!

少し落ち着いてください!

……まずは、父上!

皆さんを歓待の宴にお誘いするのが先です!」


「うん?あっ。そうだな。

そうであった!

流石!ワシが見込んだ息子よ!

頭が良いな!その通りだ!

皆さん!今日は!宴を開催するのでな!

楽しむのだ!ガハハハハハ!」


なんとも、豪快な王様だ。


俺達は、獣王ガネーシャの豪快な性格に唖然とするのだった。


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