第62話 マルス
俺達は、マルスの話を聞くことにした。
「一年前まで、一応若いもんもおったと。
20人くらいは若いもんおったけん。
その頃は、皆で協力して魔物を狩って暮らしとったと。
でも、この一年で一人出て行きと言うのが続いて今は、ジジババ達しか残っとらん。
俺一人では魔物を狩ることもできんたい!
もう、食い物も底をついとるけん!
このままだと餓死してしまうったい!
だから、エルフの森の集落に保護して貰いたか。」
(取り敢えず、そのジジババ達に何か食べさすか。お前、昨日ララさんの金でたらふく食っていたな。そのジジババ達に悪いと思わなかったのか?)
「俺も腹減ってたけん!
仕方なか!
仕方なかったい!」
なんか、族長の癖に集落の者のことを考えず自分優先の奴だなと思ったが、取り敢えず集落へ案内させることにしたのだった。
集落は、マルスと出会った王都前の山道を逸れたところにあった。
草木をかき分け、進むこと5分。
少し開けた場所に集落はあった。
集落はあったが、もう廃村といったような見た目の集落だった。
家は崩れかけ、柵などは潰れたら潰れたまま。
酷い有様だった。
(なんだこれは……。本当に人が住んでいるのか……)
ララは、悲しそうな目で集落を見ていた。
ガーランド王国のエルフの森の集落は俺も訪れたから知っている。基本木造建築だったが、エルフの森の集落は、しっかりと整備されていた。
アースドラゴン騒動の際にも目にしたが、おそらく何事に対してもララが先頭に立って、小人族の男達を叱咤激励して手入れしていたのだろう。
それに比べて、ここは全く手を入れていない。それも、ここ一年のことではないのは見てわかる。
草木は伸び放題。道の整備も手付かず。
潰れたら潰れたまま。酷い有様だった。
ララは、家の扉を開けて中に入る。
俺達は、そのララの行動を止めずに見守っていた。
「ここには、だれも居ないのです!
マルス!ジジババ達は何処にいるのですか!?」
(えっ!えっえっと〜。多分あっちじゃなかかと。)
マルスの指指す方へララは駆けて行く。
そして、ララは又潰れそうな家に入っていく。
「居ないですよ!どうなっているのです!
何故、族長の貴方がジジババ達の家がわからないのですか!」
「そっそれは………」
言葉に詰まるマルス。
すると、家と家の間から年老いた小人族が出てきた。
それを見たマルスが年老いた小人族に声を掛ける。
「おう!おった!おったけん!ララ様!
おい!お前、皆を集めるったい!
ガーランド王国エルフの森集落のララ姫が来てくれたけん!
俺が、保護してくれるよう頼んでやったけん!俺に感謝するったい!」
年老いた小人族の男は、痩せこけていた。
マルスの言葉を無視して、ララの元にフラフラしながら歩いて行き、ララの前で跪く。
そして、口を開く。
「……こっこれはこれは、ララ姫様。
よく来てくれましたったい。
こんな廃れた集落に、なんの御用でおいでなさったと?
もう、ここはジジババだけの死にいく集落ったい。姫様が来られるようなとこじゃなか。
ここの族長もこの集落を捨てたけん。
あとは、ジジババが死んでいくだけ。」
「……爺様。そんなこと言わないでほしいのです!爺様まだまだ生きれる歳なのです!
エルフの森に保護するのです!」
「……保護ですか。
ありがたい話ったい。しかし、残っとるジジババ達は、ワシ同様……エルフの森まで行く体力など残っとらんったい。
……最後に姫様のお顔を拝めただけでよかたい。
もう、なんの未練もなか。」
ララの頬をつたう涙。
ララは、振り絞るように言う。
「諦めるのは早いのです!
ララがここに来た限り、皆保護するのです!
ご飯を食べたら、すぐ元気になるのです!
そして、未練もないと言ったことを笑い話にできるのです!
体力なくても大丈夫!
ララと一緒に来たフミヤ様のスキルで一瞬でエルフの森に行けるのです。」
爺様は、ララを眩しそうに見て言う。
「若いもんがおったころは、この集落も賑やかやったと。生活が苦しゅうとも、皆が協力して魔物を狩って、分け与えて暮らしていたと。
若いもんが、ある頃から一人消え、一人消えしていったと。
ある時、それが人攫いじゃと気づいたと。
サンダ人民国の奴隷商に若いもんを売っとったんじゃ。族長が。
族長は、その金で王都で豪遊しとったったい。
若いもんは、みんなサンダ人民国に売り飛ばされたったい。」
「!!!!!!」
ララの厳しい視線がマルスを射抜く。
マルスは狼狽えながら口を開く。
「なっなん!なんを言うとると?!
ぼっボケたんちゃう?
そのジジ、年老いてボケたったい!
ララ様!
そんなジジの言うこと信じたらダメったい!」
ララは無表情でマルスの元まで行き、平手で頬を打った。
「自分が何をしたのかわかっているのですか!」
マルスが立ち上がり口を開く。
「………あっ痛か。
しょうがないと!
サンダ人民国の奴らは凶暴ったい!
逆らうと皆殺しになるけん!
そのおかげで、ジジババ達は助かったろうもん!」
「それで若い人達は奴隷落ちしたのですよ!
それで、貴方はその金で豪遊したのですか!
何故、こんな酷いことをして平気な顔していれるのですか!
何を考えている?何を企んでる?
今日ここにララ達を呼んだのも、ジジババ達を助ける為ではないでしょう!」
するとマルスが豹変する。
「……チッ!仕方なか。もう仕方なか。
お〜い!ちょっと早かやけど、もうきんしゃい。」
マルスの呼び掛けで、出てくる悪人顔の人族の男達。
「へへへ!小人族の姫様だけじゃなく。
エルフもいるじゃねえか。それと、人族?か。綺麗な姉ちゃんだ。」
「上物ったい!金上乗せするったい!おい!聞いとると?」
マルスは、ララさんとうちの仲間を奴隷商に売り飛ばす目的で、一芝居をうちここに俺達を連れてきたのだった。
ララが爺様を連れて、俺達の元に来る。
「フミヤ様。爺様を守ってもらって良いですか!
この悪人は、ララがやっつけるのです!
サンダ人民国の奴隷商人なのです!」
(一人でいけるか?)
「フミヤ様!余裕なのです!ララは拳聖なのですよ!」
ララは、"魔素纏い"剛力"を発動する。
そして、駆けていく。
テケテケテケテ〜、"ブン"、"ドゴォ〜ン"
ララさん。まるで昔見た、アニメのDr.○ラ○プの○ラレちゃんみたいだ。
走るのは早くないので、キィィィ〜ンではなく、テケテケテケテ〜。
パンチを繰り出すと"ブン"と風切り音。
そして、"ドゴォ〜ン"と敵が吹っ飛ぶ。
ヤバい。ララさんと"剛力"の相性が凄く良すぎる。
素手組手なら、俺普通に負けそう。
あっという間に制圧してしまうララさん。
それを見てマルスは唖然。
すぐに正気を取り戻す。
「金は貰ったったい!
逃げるったい!」
そそくさと逃げ出すマルス。
俺は、"疾駆"でマルスの逃げ道を塞ぐ。
「ゲッ!なんでおると!」
すると、ララさんがテケテケテケテ〜とやってきた。
「トゥ!」"ドゴォ〜ン"
ララさんのドロップキックがマルスを捉えて、マルスが吹っ飛び家を突き破って家が崩れる。
「フミヤ様!助かったのです。逃げられるところだったのです!」
(……いっいや。全然だよ。
とっ取り敢えず拘束するか。)
「はい!なのです!」
仲間達とともに、奴隷商人、そしてマルスを拘束する。
俺は奴隷商人に言う。
(お前らが手を出したのは、小人族だけか?
正直に言え。
獣人も攫ったんじゃないか?)
「…………」
俺は、"覇気"を発動する。
【おい!あんまり舐めんなよ!
正直に言え!
獣人も攫ったんじゃないのか?!】
「くっ!……山道抜けた……ところに荷馬車をおいている……。
そこに乗ってる……」
【獣人を攫ったんだな!今までどれくらいだ!】
「わっわからん!俺達以外にもいる!
俺達は、獣人を攫うのは、今回が初めてだ!」
ララが来て言う。
「ここの小人族は、どこにやったのです!
答えないともう一度ぶん殴るのです!」
「……小人族はサンダ人民国の奴隷小屋でオークションに掛けている。」
その瞬間、ララが奴隷商人をぶん殴る。
男は、答えたのに……といいながら、気絶した。
(ララさん!取り敢えずこいつら、明日獣王に突き出そう!
獣人も攫ってる!獣人国にも関わってもらうほうがいい。
取り敢えず、今はジジババ達の保護が優先だ!)
俺達は、ジジババ達の保護を始めるのだった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「えっ!これで今日終わりなの?
僕、一言も喋ってないんだけど。」
「ウル……私もですわ。」
「ウル〜アル〜言葉だけじゃなく〜居るのかもわからないレベルでした〜私達。」
「おっおかしいです!この物語の第一ヒロインは、私なのに!ララさんに奪われた?
この前ララさんは、2番目でいいって言ってたのに!作者に抗議しないと!」
などと、騒ぐ四人でした。
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