第六章 獣人国編

第57話 情報

聖教国から歩いて獣人国に入る。

聖教国から北へ約半日歩いたところで国境が見えてきた。


国境には獣人の衛兵がいて、一人一人入国の審査を行われていた。


聖教国側から来たのは、俺達だけ。

並んでいるのは、王国や帝国の商人が大半だった。

意外と冒険者は獣人国には行かないのか、冒険者の姿は見えなかった。


俺達は列に並ぶ。


すると、俺達の前に並んでいた商人が喋りかけてきた。


「これはこれは、セシル王女殿下ではございませんか!

あっそれと、新しい勇者のフミヤ様と大聖女リリアン様。

それとエルフの女戦士と小人族の姫ですな。

こんなところでお会いできるとは、感激でございます!

私は、ルシア帝国で商会をやっているアキノーと申します。」


セシル姫が口を開く。


「まあ〜アキノーといえば、ルシア帝国一番の商会ではありませんか〜!

アーシェお姉様に何度かお話しを聞いたことがありますわ〜。

アキノー商会に言えば〜揃わない物はないと〜。なかなか会頭には〜お会いすることが出来ないと聞いていましたのに〜こんなところで〜お会いできるなんて!ビックリしましたわ〜」


セシル姫はアキノーという名を知っていたのだ。


(アキノーさん。さっき聞き間違いじゃなかったら、新しい勇者?大聖女?って言った?)


アキノーは、頷いて言う。


「はい。

帝国では、フミヤ様を新しい勇者だと。

リリアン様を大聖女だと広まっておりますぞ。

帝国の兵士達があの戦争で、勇者を倒されたフミヤ様の戦う様とリリアン様の魔法で死んだ者が生き返ったのを見て、国に帰ってから皆に伝えて回っていますからね。

リリアン様にいたっては、天使様、女神様などと言っている者もいますから。」


俺とリリィはお互い顔を見合わせて苦笑いだ。


「皆さんは獣人国には、どういった用件で?」


(地の精霊ノーム様に会いにいこうかと。)


「さようですか。

………ということは、失われた大地に行かれるのですね。

失われた大地はご存知ですかな?」


(いや、全く知らない。獣人国の冒険者ギルドで調べてから行くつもりなんだ。)


「……恐らく冒険者ギルドで調べても、わかるのは場所だけでしょうな。

失われた大地に降り立つ方法は、誰も知らないでしょう。

今まで、降り立った者などいませんからね。

あの死んだ勇者達もオリハルコン欲しさに挑みましたが、結局何も出来ずに引き返したと言いますし。

行けばわかりますが、失われた大地というのは、言葉の通りポッカリ大穴が大地に空いているんです。

森の中です。

ロープで降りようとした者もおったようですが、降りる途中で魔物にやられて死んだと聞きます。

あの辺はグリフォンの生息地なのですよ。

ロープで降りようとする冒険者を一飲みで食ってしまうとのことです。

地の精霊がいるのは、恐らくその穴の下なんでしょうな。」


(オリハルコンがあるのか?)


「そう言い伝えられていますね。

まあ、地の精霊ノーム様がいるのですから、オリハルコン、アダマンタイト……

鉱石がそこにあっても不思議はありませんな。

それくらいに深いとても深い穴なんです。

底など見えないほどに。」


(一つ聞きたい。そのグリフォンは、かなりの数がいるのか?)


「そうですね。グリフォンをおびやかす魔物なんてそうそういませんから。

かなり居ると聞きます。

群れをつくっているという話ですね。」


(群れか………ということは、群れの長がいるということか。

何とかなるかな。)


ここでリリィが口を挟む。


「フミヤ様?どうやるのです?

グリフォンってとても凶暴なのでしょ?

鷲の上半身で下半身はライオンのようだという魔物ですよね。確かSランク以上の魔物だと聞きますよ。」


俺は、リリィに微笑みながら言う。


「オークキングと同じように行くんじゃないかなと思ってさ。

群れの長を俺が憑依で抑えてしまえば、他のグリフォンは手を出してこないんじゃ無いかなと思ってさ。

そして、皆んなを乗せて下に降りる。

いけるんじゃないかな?」


「なるほど………。フミヤ様?グリフォンの長をどうやって見極めるのです?」


(えっ?!コイツかなって感じで。

ダメかな?)


ララさんが口を挟む。


「フミヤ様?ハズレ引くかもなのです!

確実ではないのです!」


すると、アキノーが言う。


「フミヤ様。長がわかれば、どうにかなるのですか?

群れの長ならわかりますぞ。

群れの長は、オスです。

長は、群れの長になる時全てのオスを殺してしまいます。

なのでオスが長なのですよ。

見極めは、下半身を見ればわかりますよね。」


(………なるほど。)


女性陣が赤くなる。


アキノーが興奮した様子で言う。


「もし、失われた大地に降り立つことができるなら、フミヤ様!

必要のない鉱石は、是非アキノー商会に売って下さいませ!

しっかりとした値付けで買い取らせて頂きますから!」


(本当にあるのだったらな。良いぞ!

失われた大地に降りる貴重な情報をもらったからな。)


「ありますとも!あの辺りは昔から貴重な鉱石が埋まっていると言われていた場所ですから!

あっ!それともう一つ情報を。

これは、大きな声では言えません。

フミヤ様達は、黒魔女ダビエラの行方を知りませんか?

獣人国に一度帰ってきたらしいのですが、すぐに行方がわからなくなったらしいのです。

彼女は、獣人国の英雄でしてな。

獣人国の王族も探しておるようです。

獣人国に入ると黒魔女について色々聞かれるかもしれません。

…………フミヤ様達は、もしかしたら知っているのではないですか?」


(聖教国の教皇だった奴の仕業だ。

俺達は、関係していない。

もう黒魔女は死んでる。

教皇は、サンダ人民国の5剣神の長だった。

俺達は、そいつを追っているんだ。)


「そうですか。

……どちらにしても獣人国で聞かれても知らぬ存ぜぬで通されたほうが良いです。

それくらい、獣人国では黒魔女の人気は高いので。」


(わかったよ。助かった。)


「いえいえ、取引を楽しみにしておりますよ。

私は、色んなところを旅して商売をしておりますが、帝国の店舗には息子がいます。

息子に言っておきますので、是非是非取引をお願いします。」


そう言ってアキノーは、自身の番がやってきたので獣人の衛兵の元に行ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



獣人の衛兵による入国審査は、ガーランド王国王女のセシルが居ることもあって、すんなりと許可が出た。


獣人国に入国して、ここから1時間歩いた所に王都があるとのこと。

獣人国に入るとそこは、山の中だった。


辺りは、木々が茂り、苔の青臭い匂いが広がる正に山の中という景色が広がっていた。


緩やかな下り坂を進んでいく。

道中、何度も獣人とすれ違うが必ず聞いてくる。

黒魔女ダビエラを何処かで見かけなかったか?と。

その度に俺達は、知らないと答える。

すると獣人達は、"突然話かけて悪かったな"と言って笑顔を見せた。


アキノーの情報が役に立っていた。

アキノーに聞いていなければ、素直に答えていたかもしれない。

"もう死んでるよ"と言えば、いったい彼らはどのような対応になるのか?

間違いなく、俺達がやったことでは無いのに、襲いかかってくるのが目に浮かぶ。


アキノーに聞いていて良かったと思う。

襲いかかられても負けることはないだろうが、落ち着いて獣人国に居られなくなるのは、目に見えている。


商人の情報力の高さなのか、アキノーが優秀なのか。

恐らく、後者なのだろうな。

商人で名を馳せるには、情報を仕入れていかにして情報を使うのかということが大切なのだろう。

アキノーは、情報を俺達に与えて、俺達との繋がりを得た。

これがアキノーの商会にとって、プラスになると踏んだのだろう。


俺は、アキノー商会と長い付き合いになりそうだと思いながら、山道を下っていたのだった。


山を下り切るかと言う所で声をかけられる。

俺達にではなく、ララさん個人にだった。

その男は、木から半分顔を出して言う。


「ララと違うと?

やっぱりララたい!

やっと!やっと!俺の嫁になる気になったと?」


「げっ!マルスなのです!

にっ逃げるのです!」


ララさんはそう言うと俺の背中に隠れる。


「むっ!お前!なんばしよっとね!

ララは、俺の女ったい!

俺の女を取る気なら、ぶん殴るったい!」


俺は背後に隠れているララさんに声をかける。


(……ララさん。これ、どう言う状況?

この小人族の男、ララさんの恋人?)


「違うのです!マルスは、この獣人国にある集落の族長なのです!

昔に族長会議でララの集落に来たのです!

その時からずっとしつこいのです!

ストーカーなのです!」


「ストーカーと呼んでくれるったい!

俺は、ララのストーカーったい!

フフフッなんか気持ちよか。

よか気持ちったい。

流石は、ララ。よか女ったい!」


ストーカーと呼ばれて喜んでるよ!

獣人国王都に行く前に、変態の小人族に絡まれたのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


応援ありがとうございます!

本日から第六章のはじまりです!

商人のアキノー、変態ストーカー小人族のマルス新しいキャラが早速出てきました。

これからもよろしくお願いします!

まだフォローしてないよと言う方、是非是非フォローをよろしくお願いします!

☆♡をポチッとよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る