第55話 逃走
リリィは、聖剣ホワイトローズを教皇に向かって振るう。
"聖剣技"によって洗練された剣筋。
普通の相手ならリリィの聖剣の切っ先は教皇を貫いていただろう。
しかし、教皇は笑みを浮かべながらリリィの聖剣ホワイトローズを打ち流す。
リリィは、止まらず剣を振るい続けた。
しかし、教皇は全てを打ち流す。
「フフフっ。なかなか良い剣筋です。
しかしパワーがありませんね。
いくら頑張っても、それでは私には届きませんよ。
フフフッ。それっ!」
教皇は受け止めた聖剣ホワイトローズの刃の上を滑らすように自分の剣を突いてきたのだ。
それによりリリィは右肩を剣で突き斬られた。
「うっ!……。」
リリィは、距離を取ろうとするが、教皇は逆に華麗な足さばきで、距離を詰めてくる。
「フフフッ。私はこれでも5剣神の一人で長ですからね。
貴方くらいいつでも、斬り刻めるのですよ。」
そう言うと、教皇はスッと間合いに入り上手く体を裁いてリリィを抱き抱える。
そして、右肩に剣を振り下ろそうとした。
しかし、その剣を振り下ろすことは無かった。
その時、教皇の右肩を矢が撃ち抜いたのだ。
「うっ!ぐぐぐ!
誰かと思えば!セシル王女か!
あのまま気絶しておれば、死なずにすんだものを!」
部屋の外から魔眼を使ってセシル王女が銀翼の弓で矢を放ったのだった。
教皇がセシル王女に向かって動こうとした時リリィの影から、フミヤが現れた。
「フミヤ様!教皇が、姫を襲おうとしています!」
フミヤがリリィの声を聞いて、リリィを抱き抱え教皇の前に回り込んだのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は、ガーランド王国に敵の男と"空間転移"する前に、リリィに向けて【影使い】を発動していた。
リリィに先に行けと言ったのも、【影使い】なら対象が移動してもその場所戻ることができるから。リリィの影から出ることができるからだった。
あの場面では、"空間転移"で戻るより【影使い】が有効と判断したのだった。
リリィの元に戻った瞬間、リリィの声が耳に入る。
「フミヤ様!教皇が、姫を襲おうとしています!」
俺は一瞬で思考を巡らせた。
目の前に教皇の背中が見えた。剣を振り上げている。
その先にはセシル姫が魔眼を発動し、弓を引き終わった後の姿が目に入る。
そして、横にはリリィ。右肩から出血。
状況的に教皇が悪。
そう判断し、リリィを抱き抱え、"疾駆"で教皇の前に回り込む。
そして、リリィを下ろして言う。
(リリィ!ごめん!遅くなった。
姫のところに!行け!教皇は俺がやる!)
「フミヤ様!教皇が!全ての元凶です!
聖女カシエラを傀儡にして、邪神を作ろうとしています!」
教皇は、俺が現れた瞬間にバックステップで下がっていた。
俺は部屋の真ん中で虚な目で立っている聖女カシエラの姿を確認した。
「くっクソが!ガオシュンを倒してきたと言うのですか!お前は!
化け物か!
ガオシュンは5剣神の一人だぞ。」
(一対一に持ち込めば、そんな強くはなかったぞ!
勇者の方が攻めが多彩な分、面倒だったぞ!
教皇!やっぱりお前は、リリィの感じていた通り悪者だったようだな!)
「本当に苛立つ人ですね。貴方は。
私の計画をことごとく潰していく。
ガオシュンを倒したとなると、ここは一旦引くのが得策ですね。
カシエラは………まだ不完全ですか。
堕天使といったところですね。
まあ、良いでしょう。
リリアンの血液は少しでも取り入れました。
次の手を打ちましょうか。
【カシエラ!意識を覚醒させろ!
私を連れて飛ぶのだ!】」
すると、カシエラが背中の黒い翼を羽ばたかせる。
そして、教皇を抱き抱え飛んだ。
神殿の屋根をカシエラは、爆破して屋根から飛び立った。
俺とリリィとセシル姫は急いで神殿を出る。
そして、セシル姫が追撃の矢を放つ。
矢はカシエラの黒い翼に当たるが、当たった瞬間に矢が腐る。
「フフフッハッハッハッ!
サンダ人民国に帰るぞ!
カシエラ!
フフフッハッハッハッ!」
堕天使カシエラと教皇は、あっという間に見えなくなったのだった。
向こう岸でララ、アル、ウルが叫んでいた。
俺は、ステージを向こう岸に押してみる。
すると、ステージが向こう岸に向けて動いた。
あっという間にステージが向こう岸に着いた。
ステージに乗り込む仲間とミーナ大司教達。
そして、こちら側にやってくるのだった。
「フミヤ様!なんで居るのです?!
ビックリなのです!
姫!大丈夫なのです!?
リリィさんも大丈夫なのです?」
(ララさん!俺にも大丈夫なのか聞かないのかよ?)
「フミヤ様は聞かなくても大丈夫なのは、見たらわかるのです!
それより、突然リリィさん側に居るのがビックリなのです!」
(【影使い】だよ。空間転移使う前に、発動しといた。俺の影とリリィの影を繋げておいたんだよ。)
「そうなのです!?
流石なのです!
ララ達は、教皇の裏切りで取り残されたのです!大ピンチだったのです!
あっ!リリィさんと姫がピンチだったのです!」
「そうだよ!僕、姫が倒れた時、どうしようかと思ったよ!
その後、少しして立ち上がったと思ったら神殿のほうにいっちゃうし!
姫!無理したら駄目だよ!」
すると、リリィが言う。
「でも、姫が教皇に矢を放ってくれたおかげで私は、腕を斬り落とされずにすみました。
姫!ありがとうございます!」
「それでもです!姫!リリィさんを助けたのは大手柄ですけど、このステージを押してくれたら、こうやって私達も行けたじゃないですか!
姫、無茶は駄目ですよ!」
セシル姫が言う。
「あの時〜リリィさんが〜心配で心配で。
それどころじゃなかったんですもの〜」
アルとウルに怒られてショボンとする姫。
そんな姫を抱きしめて頭をなでるリリィ。
「姫。ありがとうございます。間違いなく、私は姫に助けて頂きました。」
「リリィさん〜!」
姫とリリィが抱きしめ合っている中、ミーナ大司教が言う。
「結局、教皇に私達は騙されていたということなのですね。」
(あいつが、邪神を復活させようとしている首謀者だと言うことは間違いないな。)
「チラッとしか見えませんでしたが、聖女カシエラを使っていたということですか。」
ここでリリィが口を開く。
「聖女カシエラを傀儡にして、邪神そのものにしようとしています。
その為に、聖女カシエラだけでなく、勇者、怪僧、黒魔女を邪に染めていたのは教皇です。
そして、聖女カシエラに勇者の血液を飲ませ、能力をアップさせ、怪僧、黒魔女の血液を飲ませて、心を折った。
そして、最後私の血液で完成だったようです。
現に、私の少しの血液を口にしたカシエラは、黒い翼が生えて、堕天使のような姿になりました。
………教皇の計画は、母マリアンと父ゾルドの出会いから始まっていました。
私は、教皇によって作られた物だと。」
ここでミーナ大司教が怒ったように言う。
「リリアン様!
それは違います!
何が教皇によって作られた物ですか!
マリアン様とゾルド様に叱られますよ!
リリアン様!貴方は、お二人の愛の結晶なのです!
そこは、私が保証します!」
(リリィ、教皇の言葉よりミーナ大司教の言葉のほうが重いだろ?ミーナ大司教は、側で見ていたんだから。
あんな奴の言葉に惑わされるなよ。)
「ふふふっ。そうですね。フミヤ様。
ミーナおばさま、ありがとうございます。」
神殿前でそんなことを話していると、神殿から声がした。
【そんなとこで、しゃべってないで、早く来なさいよね!失礼しちゃうわ!】
どうやら俺達は、海の神殿に来た目的を忘れていたようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は、海の神殿に又入った。
すると、あのカシエラが居た部屋に、先程は居なかったのに、青い髪の女性、恐らく水の精霊ウンディーネなんだろう精霊が居た。
見えているのは、俺と魔眼を使っているセシル姫だけだろう。
(精霊ウンディーネ様だよな?
さっきまで、何処にいたんだ?)
【あんな、邪悪な者と一緒になんていれないわよ!
ここのところずっと外でいたんだから!
プンプン!
やっと出て行ったと思ったら私の神殿の屋根潰しているし!
許さないんだから!
それと、そこの死体も片付けといてよね!
プンプン!】
俺は、精霊ウンディーネの言う通りに勇者の死体と怪僧ゲルの死体、黒魔女ダビエラの死体を一気に神殿の外に出す。
【…まだ邪悪な気が残ってるわ!
もう!嫌!嫌!嫌!
ちょっとそこの貴方、大聖女でしょ!
浄化で清めなさい!
邪悪な気を全てよ!
早くしてよね!プンプン!】
「えっ!えっと〜フミヤ様?
この声は、精霊ウンディーネ様でいいのですよね?!」
【ウダウダ言ってないで!早くして!
プンプン!】
「あっ!はっはい!」
リリィは焦って、浄化を発動するのだった。
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