第51話 狂った思想

ミーナ大司教の私邸に入る。

木造の家だった。

大きさはかなりの大きさだが、豪華さはない。

子供達も中に入ってきた。


「親を無くした子供達を保護しています。

親がいる子供達も夜は親が、住処を離れるのでこちらで寝泊まりして、朝、住処に帰るのです。」


すると、一人の男性がやってきた。


そして、リリィに挨拶する。


「聖リリアン・ドロテア様。

ケインと申します。

ミーナ大司教を支持している司教でございます。

よろしくお願いします。」


「あっはい!よろしくお願いします。」


「ミーナ大司教様、無事リリアン様と会うことができたのですね!

教皇と枢機卿の邪魔が入るのを心配していましたよ。」


「ケイン司教。それが、私達の認識を改める必要があるようなのです。

教皇は枢機卿側と私達側との緩衝材となっていてくれたようなのです。

現実、教皇は賊からリリアン様を守る為に、ご自分の片腕を犠牲にされました。

私もこの目で見たのです。

…………私達は弱き者を守る為、枢機卿側に対抗していましたが、よくよく考えると枢機卿側がここの者達を生かしているのは、教皇が緩衝材として動いてくれているのが大きいのだと私は気付きました。

枢機卿側と私達側がぶつかると、まず枢機卿側はここの者達を消し去ろうとするのが流れでしょう。

そのようなことが起きぬように立ち回ってくれていたと考えます。」


ケイン司教は、厳しい表情で聞いていた。

そして、言う。


「ミーナ大司教様がそう判断されたのですね。

なら、私はそれに従います。

しかし、私は直に教皇の行ったことを見ておりませんので、正直信じることはできません。

なので、警戒を解くことはいたしません。

ミーナ大司教様を、そしてリリアン様を出来る限り危険から遠ざけるのが私の役目だと考えておりますので。

ローザ隊長、貴方も信じきるのはどうかと思いますよ。

貴方は、ミーナ大司教様の盾となる人なんですから。」


「承知してます!ケイン司教。

私は、警戒を緩めることはしない。

大丈夫です!

さあ、そろそろ夕食の準備ですね。

ケイン司教、子供達から聞きましたよ。

スープを焦がしたって。」


「あたたたたっ。

子供達には内緒と言ったのになぁ。

ハッハッハッ!

すみません。

食材を切るだけしか今までやってませんでした。

料理は、まだ私には敷居が高すぎました。

ローザ隊長!

ご教授よろしくお願いします!」


「ふふふっ。

仕方ないですねぇ。

いつも見ているのに、何を見ていたのですかね。

ふふふっ。ではケイン司教。

お手伝いをお願いしますよ。」


「はい!喜んで!」


二人は、キッチンへと消えて行ったのだった。


(なんか良い雰囲気だな。)


ミーナ大司教は微笑んでいた。


それを見て、リリィが騒ぎだす。


「えっ!えっ!ミーナおばさま!

ローザさん!えっ!そうなんですか!

えっ〜!」


「まあまあ、リリアン様。

ローザも大人の女性ですよ。

リリアン様も素敵な方がいらっしゃるではありませんか。

リリアン様のほうが私からすればビックリです。」


「えっ!うわぁ!わっ私ですか!

はっはい。

素敵な方です。………。」


真っ赤になるリリィ。


ララ、姫、アル、ウルが笑う。


「リリアン様がこんなにお仲間に囲まれていて安心いたしました。

人生のパートナーまで。

薬指の指輪、素敵です。

しかし、改めて凄い冒険者パーティですわね。

ガーランド王国のセシル王女にエルフの戦士のお二方。そして、小人族の姫とも言えるララ様ですか。

ここの者も喜ぶと思います。

是非会ってやってくださいませ。」


ミーナ大司教はそう言うと優しく微笑んだのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕食を子供達と共に頂き、夜になる。


俺は、夜の聖教国が気になっていた。

聖教国の裏の部分。

胸の奧でグッチャグッチャになった感情がどうも晴れない。


リリィも皆もそうだったようだ。


すると、ミーナ大司教が口を開いた。


「………夜風にあたりにいきますか。

しかし、これだけは守ってください。

何を見ても抑えてください。

良いですか?」


俺達は、ミーナ大司教の後に付いて夜の聖教国を見て歩くことになった。

ローザ隊長も護衛という形で同行してくれたのだ。


亜人達の住処を通り抜ける。

皆、働きに出ているのかシーンとしていた。


そして、人族の為の教会が見えてくる。

煌びやかな明かりが段々と視覚に入ってくる。


すると、次第に喧騒とした聖教国の姿が露わになる。


エルフの女性を抱きながら歩く人族の男の姿。男の手は服の下に入っている。


掃除をしているドワーフの男を笑いながら複数で蹴る人族の男。


ドワーフとエルフの男同士を無理矢理殴り合わせて、どっちが勝つか賭け事をする人族の男達。


酷いものだった。


特に酷かったのは、広場でオークションのように裸にされた、エルフや獣人、小人族の女性を沢山の男がセリ合っている姿。

どいつも首からロザリオを掛けている。


ララが余りの仕打ちに我慢できずに、動こうとした時、ミーナ大司教が大声で止めた。


「抑えて!抑えてください!」


「なっ何故なのです!こんなのあんまりです!」


「では、言いますが!貴方が今、手を出して救ったとして、この先あの人達のことをずっと支援していただけるのですか?!

一時の優しさは、ここでは死ねと言ってるのと一緒なのです!

あの方達は、あれで生計を立てているのです。」


「でっでも……酷すぎるのです!」


「………そうですね。酷いのはわかっていますが、今は何も出来ないのが現状なのです。

根本的な所から変えてしまわないと。」


(根本的とは?)


「人族優先主義の撤廃。

人族優先主義者の排除。

エルフやドワーフ、小人族、獣人族からの教会指導者の擁立。」


(貴方達は、それをする為枢機卿側と争っているのか。)


「大聖女マリアン様の教えは、平等の社会。

種族関係なく平等。

神は、それぞれの心に居るのだと。

私達は、マリアン様の教えこそ教会のあるべき姿だと考えています。」


ミーナ大司教がそう言ったとき、ララがいきなり人族の酔っ払った男に絡まれる。


アルもウルもだ。


(ミーナ大司教!これは、抵抗させてもらうぞ!ララさん!アル、ウル!殺さない程度にやれ!)


「はいなのです!半殺しにするです!」

「同じくですわ!同族の恨みもこめて!」

「僕!殺さない自信がないよ!」


ララ達に絡んだ人族の男達は、あっという間に3人に叩きのめされる。


それを見ていた他の人族がこちらに沢山向かってくる。

恐らく亜人が何してくれてんだってことだろう。


俺は"覇気"を発動する。


【"おい!全員跪け!それ以上動いたら、跡形もなく消すぞ!

何が人族優先主義だ!】


男達が跪く。


「お前も人族だろが!

人族優先主義!素晴らしいことだろ!」


【あっ?今言ったの誰だ?!

死にたいらしいな。】


俺は、そいつの頭を掴み"剛力"を発動して投げ飛ばす。


【おい!これ以上なんか言ったらマジでお前ら許さんからな!

それでなくても苛立ってんだからな!

聖教国がクソだと言うことが良くわかった!

人族優先主義もクソだ!】


すると、ミーナ大司教とローザ隊長がいきなり身構える。


ゾロゾロと現れたのは、祭服を着た者達とその中央に枢機卿だった。

そして、それを守るように聖騎士を30人ほど引き連れていたのだった。


枢機卿はニヤリと笑って言う。


「ミーナ大司教!これは一体どう言うことですかな?

これは、明らかに敵対行為だと思うが!?」


ミーナ大司教は厳しい表情で言う。

「何を言いますか!

こちらは、ガーランド王国のセシル王女殿下のお仲間です。

そのお仲間に絡んだのは、その人族の信者達です!

返り討ちにされても仕方ないことです!

それとも、ルシア帝国のようにガーランド王国と戦争なさるおつもりですか!

聖教国の思想はどこで、そんな物騒な武力行使をする思想になったのですか!」


「フフフッハッハッハッ!

ガーランド王国セシル王女!

笑かすな。

所詮、エルフと人の混血ではないか!

おお!そうだ!

そこに居るのは、聖リリアン・ドロテアであろう?!

魔族と人の混血!穢れた血!

穢れた血でも今の聖教国には、利用価値がある!

フフフッハッハッハッ!

良い女に育ったものだ!

これなら、良い種をつければ聖女を増産できるであろうな!

なんなら、私の種を付けてやろうぞ!

フフフッハッハッハッ!

人族こそ最上の種族!

その他の種族は、人族の捌け口となれば良いのだ!

それで、浄化できるのだ!

いずれ穢れた血が薄まり、優秀な人族の血のみが残るのだよ!」


「何を傲慢な妄想を!

リリアン様になんて無礼な言い草!

マリアン様に貴方は、顔向けできるのですか!」


「ふん!死んだ者をいつまで崇めるのだ?!

馬鹿ではないのか!

まあ!良い!つまらん話をしていても時間の無駄だ。

リリアン!こっちにこい!

貴様が来れば、他の者達は大目に見てやろうではないか!

こっちにこい!そして、今晩は我の相手をたっぷりとするのだ!

フフフッハッハッハッ!」


(ミーナ大司教!

悪いがもう、この馬鹿ぶっ殺すぞ!

禁句をどれだけ吐きやがるんだ!)


「フフフッハッハッハッ!

貴様!勇者を倒したからといって、調子に乗るなよ!

聖騎士よ!女どもをまず取り押さえろ!」


一斉に枢機卿の連れてきた聖騎士が襲いかかるのだった。


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