第50話 表と裏

俺達は、その後ミーナ大司教の連れて来た聖騎士達に守られながら聖教国に向かったのだた。


道中、襲われることもなく聖教国に辿り着いたが、教皇がミーナ大司教のところで滞在してもらうのが、一番安全だろうということで聖教国に入る前に教皇とは別行動になった。

3日後、海の神殿へ案内すると言うことを言い残して教皇は、ミーナ大司教にリリィを預けたのだった。


俺達は、教皇に警戒していたことを詫びたのだった。

教皇は、笑顔で"3日後又会いましょう"と言って先に聖教国に戻って行ったのだった。


そして、入国した聖教国。


街並みは、白をベースとした街並みでとても清潔感が見てとれた。

民も、首からロザリオを掛けている者達ばかりで、教会信者とわかる。


人族ばかりで、パッと見たところ亜人を見る事は無かった。


(ミーナ大司教。聖教国は綺麗なところですね。やはり、教会信者の国だからモラルも高いのかな?

街がとても綺麗だ。

それと人族しか居ないみたいですね。)


俺は、感じたことをそのままミーナ大司教にぶつけた。


すると、ミーナ大司教の表情が曇る。

そして、口を開く。


「………街が綺麗ですか。モラルが高い……

そう思われるのは、まやかしですね。

私からすれば、こんな低モラルな国など他に無いと思っていますよ。

大聖女マリアン様が見たら嘆かれると思います。

夜になれば、最低な国だと言うことがわかって頂けると思います。

夕方までは、まやかしの国です。

私の私邸は、大聖堂の隣にありますが、私邸に着けば色々わかって頂けると思います。」


ミーナ大司教の辛辣な国に対しての言葉に、俺とリリィは思わず口を噤んだ。


沈黙の中馬車は進む。


すると、大きな教会が見えてきた。

それは、とても煌びやかで立派だった。

恐らくあれが大聖堂だと思い、俺とリリィは窓から見る。


するとミーナ大司教が口を開く。


「恐らくあれが大聖堂だと思われているのでしょう。

あれは、枢機卿が管理する人族の為の、為だけの教会です。」


俺とリリィは顔を見合わせた。


すると、この煌びやかな教会を境に、景色が一変した。


今までしっかりと舗装されていた道がいきなり砂利道へと変わり、建物も今までは白い石造りの立派なものから、ボロボロの木造の建物に変わる。

木造と言えば聞こえは良いが、それは薄い板を継ぎ合わせた物で、強風で倒れるのではないかと思う作りだった。


その住民なのであろう者たちが、見えた。


獣人やエルフ、ドワーフ、小人族。

いわゆる亜人と呼ばれる者達だった。


その者達の首にもロザリオが見える。

しかし、先程見た人族のロザリオは金属製だったがこの者達のロザリオは木製だった。


どの者達も服はボロボロ。

そして、汚れていた。


ミーナ大司教が口を開く。

「わかってもらえましたか。

先程までの国の姿がまやかしだということが。」


(なっ何故?こんなことに……?)


「全ては、枢機卿の打ち出した人族優先主義のせいです。

私は、昨日まで教皇もそれに加担していると思っていました。

しかし教皇が私達と枢機卿の緩衝材になっていたということを聞くと、納得はできるのです。

棲み分けは行ったが、亜人達を国から追い出すことをしなかった教皇は、私達側と枢機卿側とのぶつかり合いを、教会内での争いをおさめていたと考えられます。

もし争いになれば、真っ先にこの亜人達は枢機卿側の虐殺の対象となるのですから。

教皇は、それを間に入り防いでくれていたのですね。

………私は反省しないといけません。

正しいと主張を強めるだけでは駄目だということを。

守るべき者達を窮地に追いやることになるのだと。」


(スラムみたいなものか。

………表と裏だな。

夜になると、ここの人が表に出て何をするんだ?)


「掃除や、ゴミの排除。

それは、まだ良いほうです。

その仕事さえ与えて貰えないものは……

女は、路頭に立ち身を売ることでしか……

聖教国は最低な国です!

何が!人族優先主義ですか!

教会を信じて集まった信者なのですよ!

大聖女マリアン様が!マリアン様が!

嘆かれます!

皆、辛い生活でも………ここに居続けるのはマリアン様を今も心のよりどころとして、思い続けているから。

私は、その心のよりどころを守る為に、大聖堂を開けるのです。」


俺とリリィは、言葉が出なかった。

窓から見える人達を見て、胸が痛くなる。

でも、皆希望を失った目はしていない。

明るい笑顔も見える。

これは、大聖女マリアンを心のよりどころとして保たれてる微かな心の安寧なんだと思うと胸が痛くてしょうがなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


聖教国の一番奧に大聖堂はあった。


人族の為の教会と違い、豪華さは一切ない。

古びた田舎の教会という印象。


中に入ると正面に女性の像があった。


リリィが口を開く。


「……母様……。

これは、母様です。フミヤ様。」


(リリィの母様……大聖女マリアン……)


像は、何故か足の部分だけ磨かれたように色が違っていた。


その理由はすぐにわかった。


祈っていたエルフの女性が祈りを捧げた後、像の足に縋り付いて泣いたのだ。


ひとしきり泣いた後、エルフの女性は、又祈り、一言 " 死んだ時は、是非マリアン様のお側に……"

そう言葉を残して、エルフの女性は出て行ったのだ。


大聖女マリアンを心のよりどころとして、必死に生きる姿を目にした。


俺は、唇を噛み締める。

そして、リリィを見るとリリィは涙を流していた。


ララも姫もアルもウルも唇を噛み締めていた。


ミーナ大司教は、言った。


「ここの者達は、この像に毎日心を洗われて、生きる希望を見出すのです。

なので毎日ここを開放しないとならないのです。」


俺達は、ミーナ大司教に促されて大聖堂の裏口から外に出る。


そこは、ミーナ大司教の私邸の庭に繋がっていた。

そして、その庭には沢山の子供達がいた。

人族の子ではない。

エルフやドワーフ、獣人、小人族の子だ。


木で作られた滑り台や、ブランコで遊んでいた。


ミーナ大司教が姿を現すなり、子供達が駆け寄ってくる。


「大司教様〜!何処行っていたの〜?」


「今日ケイン様が〜スープを作ってくれたけど〜失敗して〜少し焦がしていたの〜!」


「この人達〜だあれ?」


子供達がミーナ大司教に口々に言う。


「ふふふっ。皆んないっぺんに言うから、何を言っているかわかりませんよ。

さあ、皆さん注目してください!

この方を見て!」


ミーナ大司教が、リリィの両肩に手を置いて子供達の前にリリィを連れていく。


子供達の視線がリリィに集まる。


「まっマリアン様だ!」


「本当だ!マリアン様だ!大聖女様だ!」


「なんで?なんでマリアン様?なんか若くなったの?」


「父ちゃん母ちゃんに言わなきゃ!

マリアン様がマリアン様が来てくれたよって!」


子供達が騒ぎだす。


リリィは困惑していた。


ミーナ大司教が言う。


「ふふふっ。皆んな、この方はマリアン様の御息女。……

わからないか。

マリアン様の子供のリリアン様ですよ。

皆さんお母さんいるでしょ。

この方のお母さんがマリアン様なのですよ。」


「うわぁ!だからマリアン様に似てるんだぁ!」


「名前も似てる〜!」


そこでリリィが子供達に目線を合わせて言う。


「ふふふっ。大聖女マリアンの子供の、聖リリアン・ドロテアです。

皆んな仲良くしてくださいね。」


「「「「いいよ!」」」」


リリィが一人のドワーフの男の子に近づいて手を翳す。


よく見るとコケたのかひざを擦りむいて血が出ていた。


リリィは、"聖女の癒し"を発動した。


あっという間に傷が癒える。


子供達は、皆口々に"凄い"とはしゃぐ。


リリィが言う。


「ふふふっ。元気にいっぱい遊んで、怪我したら私が治してあげるからね。

皆んなよろしく。」


ミーナ大司教の私邸の庭に、子供達の笑顔が溢れる。

まるで、庭を彩る花のように。


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