第49話 芝居
教皇は、王都の高級宿に戻ってきた。
部屋に入るなり、頭のミトラを床に投げつける。
「くっクソが!
生意気な!いくら、媚びても警戒を解きやがらん!クソが!」
そこに、スッと現れるサンダ人民国、5剣神の一人ガオシュン。
「荒れておるあるね。
チェン様。
演技などするからあるね。
贄の大聖女など有無も言わさず攫ってしまうが良いあるね。」
「それでは駄目なのだよ。
聖教国は、利用価値があるのだから。
攫って、私がサンダ人民国の人間だと悟られることは、避けんといかん。
その為に数十年窮屈な教皇を演じておるのだからな。
しかし、思った以上にリリアンとリリアンの同行者の警戒が強い。
ここは、もう一芝居うたねばならんな。」
「さっき、枢機卿から連絡があったあるね。
ミーナ大司教が動いたあるね。
聖騎士を引き連れて、ガーランド王国を目指しているあるね。
贄の保護に動いているあるね。」
教皇は、それを聞いて表情を変えた。
ニヤリと笑い言う。
「ほほう!それはいい!
どっちにしろ、リリアン達は明日私と共に来るだろう。
警戒を解く一芝居を打ちましょうか!
ミーナ大司教達と合流する少し前に、ガオシュンさん。貴方が部下を率いて私達の馬車を襲うのです。
そして、貴方の芝居が重要ですよ。
ミーナ大司教が見ている前でリリアンを庇う私の腕を斬るのです。
そして、追い込まれたように撤退する。
良いですか。」
「チェン様の腕を斬るあるね?!
それは、後でチェン様は怒らないあるか?
チェン様怒ったら怖いあるね。」
「スパッといってください。
中途半端は、余計に痛いですからね。」
「………何故そこまでするあるね。」
「全ては、邪神様復活の為!
邪神様が復活すれば、サンダ人民国だけでなく世界が手に入るのです。
贄を信用させたほうが事はスムーズに動きます。
贄の周りの人間もそうです。
私は、リリアンの味方だとアピールするのがその後、スムーズに事が運ぶのです。
そう思いませんか?
海の神殿に行く際に、又貴方が襲撃する。
その時、リリアンの側にいる男はどう動く?
私が信じられていたら、"リリアンは教皇と先に行け!"となるでしょう?
フフフっ。分断できるでしょう。
貴方があの男を抑えている内に、贄にしてしまうのですよ。フフフッハッハッハッ!」
「じゃあ、本当に腕斬り落とすあるね。
腕なくなると不便あるね。」
「腕など、"大聖女の癒し"でリリアンがすぐに治してくださいますよ。
なんせ、"味方"なんですから。
フフフッ!
あの男は強いですよ。
ミーナ大司教達が来るまでに、全滅しないよう貴方の部下はそれなりの数を用意しなさい。良いですね。」
「私の部下、数減るあるね。」
「そんなのすぐに補充すれば良いでしょう!
失敗は許しませんよ!
私の腕を斬るのです。私も一時痛い思いをするのです。
失敗したら、本当に許しませんから。
よくよく繰り返しシミュレーションしときなさいよ。良いですね。」
教皇の悪巧みが手下のガオシュンと共有されたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミーナ大司教は、聖騎士とともにガーランド王国に向けて聖教国を出発した。
「ミーナ大司教。
遅くても明日の昼ごろにはガーランド王国に着けると思います。」
「そうですか。
しかし、途中で教皇の馬車とすれ違う可能性もあります。
その時は、リリアン様を救う為に戦闘になるかもしれません。
私も戦いますが、ローザ。
貴方には、苦労をお掛けします。」
「ミーナ大司教!何をおっしゃるのです!
ここにいる者、既に覚悟を決めています!
大聖女マリアン様の御息女を教会の良いようにはさせません!
神の御心のままに、我ら聖騎士は命をかけましょうぞ!」
「ローザ………。
ありがとう。
とても心強いです。大聖女マリアン様も、貴方の今の働きを見れば、驚くでしょうね。
泣いてばかりだった泣き虫ローザが、聖騎士の一部隊を率いているのですから。」
「ふふふっ。泣き虫ローザですか。
懐かしい呼び名です。
あの頃は、大聖女マリアン様に甘えていたのでしょうね。
マリアン様の母性に縋っていたのだと思います。
……マリアン様には何も返せていない。
なので、私はリリアン様を命をかけて守る!
そう誓ったのです!」
「それは、ローザ。
貴方だけではありませんよ。
私も同じです。
何も返せていない。
路頭で、明日を見出すことができずに放心していたところを私は、マリアン様に拾って頂きました。
マリアン様が私に語りかけてくださるお言葉にどれだけ救われたか。
そうするうちに、私自身も聖職者を目指していたのです。
マリアン様に頂いた生きる望みをリリアン様に……
あの方の自由を守らなければならないのです。」
ミーナ大司教とローザは、お互い強い眼差しで道の先を見るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の朝、リリィと俺達は教皇の馬車で聖教国に向かっていた。
決して、教皇の言葉を信じたわけではない。
リリィだけならともかく、俺達も共に行くのだから問題ないだろうと判断したのだった。
馬車2台だが、俺はリリィと教皇の一台に乗っていた。
教皇が色々とリリィに話しかけているが、リリィの答えは、素っ気ない返答をしていた。
2時間ほどガーランド王国王都から走った時だった。
馬車が急に止まった。
馬車が揺れるくらいの止まり方。
これは、只事ではないと俺もリリィも思い身構える。
すると、教皇が操車していた男に聞く。
「なっ何事ですか?」
「きっ教皇様!賊です!
お気をつけください!
今、聖騎士が戦っていますが、相手は、なかなかの手練れのようです!」
俺は、馬車の窓から様子を伺う。
聖騎士と賊が戦っている。
何人かの聖騎士がすでにやられ、地面に転がっていた。
賊は、その辺のならず者といった雰囲気ではなく、しっかりと訓練された者達だとすぐに見てわかった。
一人づつ、雷を纏い、体のキレ、そして殺傷力を上げているのが見てとれた。
俺は、聖騎士がやられてしまうのも時間の問題と考え、リリィに出撃することを伝え、馬車から飛びだした。
"魔素纏い""剛力""疾駆""鉄壁"を発動。
"魔法剣"を発動し、"火属性魔法極LV1業火を付与した。
魔剣ブラックローズが青い炎を纏う。
ララ、姫、アル、ウルも後ろの馬車から降りてこちらにやってくる。
(なかなかの手練れのようだ。
離れておけ!姫のことは、アル、ウル頼む!
ララさんは、リリィのことを頼む!)
「わかったのです!ララに任せるのです!」
俺は駆ける。
そして、賊と聖騎士の戦いに割って入る。
賊を斬る。
斬り口から青い炎が賊を燃やす。
そして、聖騎士に言う。
「教皇の馬車を守れ!
こいつらは、任せろ!」
俺は、賊を斬り伏せていく。
聖騎士は、教皇の馬車を守るように馬車を囲む。
賊が馬車に行かないよう駆け周りながら、賊を斬り伏せていく。
しかし、その時馬車に近づく影。
凄いスピードで聖騎士を斬り伏せていく。
そして、馬車のドアを開けられる。
俺は、馬車に駆けた。
男が剣を振り下ろす。
リリィを庇うように教皇が腕を出す。
「うっ!くっそ!この賊めが!
リリアン様!もっと奧へ!うっぐぐぐっ。」
教皇の腕が斬り落とされたのだ。
俺は、教皇と賊の間に割り込み、賊の剣を抑え込む。
その時だった。
白い鎧を着た騎士、聖騎士が馬に乗って数十人こちらに駆けてくる。
その後ろには馬車。
すると、抑えこんだ賊が大声で言う。
「撤退!」
賊達が、一瞬で撤退する。
速い。
敵ながら鮮やかな引きだった。
「うっ!ぐぐぐ。」
教皇が腕を斬り落とされた痛みでその場に崩れる。
駆けつけた聖騎士が、賊を追うが巻かれたようだ。
駆けつけた馬車から一人の年配の女性が飛び降りてくる。
「教皇!あっ貴方が何故?
リリアン様を守った?
何故?何故なのです!」
「うっぐぐぐ!
ミーナ大司教、当たり前であろう。
大聖女マリアン様の御息女を守るのは当然。
うっぐぐぐ!
しっ仕方ないか!其方達に、誤解されていても……
私は、枢機卿側ではない。
私は、教皇。教会を……守らねばならんのだ。
其方達と枢機卿側を揉めさす訳にいかないのだ。
うっ!だから私が間に入り、緩衝材としての役目を果たしていたのだ。
私も、其方達と考えは変わらぬ。
大聖女マリアン様の御息女リリアン様を守らねばという思いは一緒なのだ!うっ!」
リリィが動く。
「教皇様。
今、治療を!"大聖女の癒し"」
光が教皇を包み込む。
切断された腕が、再度組織を形成して癒していく。
「すまない。リリアン様。助かる。」
「私を庇ってくれたのは、この目で見ました。ありがとうございます。
それと、ミーナおばさま。お久しぶりです。
わかりますか?リリアンです。」
「リリアン様なのですね!
……ミーナ、それからローザ!
リリアン様をお迎えに参りました!」
聖騎士達とともにミーナ大司教もリリィに跪いたのだった。
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