第48話 見極め

王に連れられある部屋に通される。

そこには、紫の祭服と同じく紫の立派な帽子、ミトラというのかな。

そんな姿のいかにも教皇だと言う人物がいた。


俺達が入室すると同時に、その教皇はスッと席を立ち、リリィに向けて頭を下げる。


「聖リリアン・ドロテア様ですね。

髪の色、目の色は変わっていますが、何度もお会いした私には、わかります。

お久しぶりでございます。

リースの教会が、貴方に無礼を働いたのを知り、ずっとお探ししていました。

枢機卿の派閥がリースの教会まで取り込んでいるとは知らず……

対応が遅れて申し訳ございませんでした。

更には、枢機卿が聖騎士まで送り込んで貴方様の自由を奪おうとしたと聞きました。

それも重ねてお詫びいたします。

誠に申し訳ございませんでした。」



「教皇よ。私は、ガーランド王国の王じゃ。

取り敢えず座って話を。

リリィ殿もな。」


王が教皇とリリィを促し、椅子に座らせる。


教皇とリリィが対面で座り、奧に王とセシル姫が座る。

俺とララ、アル、ウルはリリィの椅子の後ろで立つ。



「教皇よ。昨日連絡を受けたところじゃ。

その後すぐにこちらに来られたと思うのだが、なにをそんなに焦っておるのじゃ?

とても不自然に感じるのだが……」


教皇は、苦笑いを浮かべながら言う。



「不自然な行動と取られるのは、今の教会のイメージが悪いからでしょうな。

私も心を痛めておるのです。

大聖女マリアンの死後、過激派と呼ばれる枢機卿を支持する派閥が好き勝手に行動し、民に対しての横暴な言動、治外法権を盾にした横暴な行為。

全ては、教皇である私の不徳の致すところ。

私に、纏め上げる力が無かったという意味で大変申し訳なく思っています。

今回、不自然と取られる私のこの行動にいたっても、過激派から聖リリアン・ドロテア様を守りたいという気持ちが先走ったこと。

それで不信感を与えることになるなどと深く考えもせずに行動に移してしまった。

いけませんな。

歳を取ると、心配しだすとそれに歯止めが効かなくなります。

安全に、海の神殿に来られるようにと老婆心ながら、こうやってお迎えに来させて頂きました。」



「成程、全てはリリィ殿のことが心配で行動されたと申すのじゃな。

リリィ殿。フミヤ様。

ということじゃ。

どうなのじゃ?」


リリィは、目を伏せたまま黙っていた。

俺が、代わりに口を開く。


(悪いが信用できない。

それに、何故?俺達が海の神殿に行こうとしているのを知っている?!

俺達は、仲間内だけにしかその話はしていない。

それなのに、海の神殿への案内をかって出ていると聞いた。何故だ?!)


「貴方は?」


(リリィの所属する冒険者パーティのリーダーフミヤだ!)


「ああ!そうでしたか!

これは、失礼。

それは、貴方達が、次は海の神殿を目指すのではないかと推測したからです。

冒険者は、スキルを得る為精霊に会うのが通例。違いますか?

そこで精霊に認められるかは別にして、精霊に会おうとするのが冒険者。

貴方達が帝国のアッソ火山に行ったことは、聖リリアン・ドロテア様を探していたので調べはついています。

そこから、推測させていただきました。

そんなに、難しい推測では無いと思われますが、いかがですかな?」


(………そうだな。そう難しい推測ではないな。)


「全てが、後手後手に回ってしまっているので、警戒されても仕方ないと思っています。

枢機卿が聖騎士を使ったのも事が起きてしまってから知ったことですし、う〜ん。

警戒するなという方が難しいでしょうな。

しかし、そうだ。

聖リリアン・ドロテア様自身、教会に味方になるであろう者達がいるのは、ご存知のはず。

大聖女マリアン様の身の回りの世話をしていたミーナ。

ミーナは、今教会本部で大司教をしています。

大聖女マリアンが健在な頃は、まだ助祭だった彼女ですが、私が大聖女マリアンが目を掛けていた彼女を大司教に抜擢しました。

ミーナ大司教が聖リリアン・ドロテア様の味方だということは、リリアン様自身がわかってらっしゃるでしょう?」


(それは、リリィの味方のミーナ大司教?を出世させた自分を信じてくれと言っているのか?)


「フフフっ。そうですね。

そういことでしか味方ということを証明できない自分がとてももどかしいですがね。」


(リリィ。どうなんだ?)


リリィは、顔を上げて口を開く。


「たっ確かに、ミーナおばさまは……。

しかし、ミーナおばさまを母から引き離したのも全て教会です。

ミーナおばさまは、出世など望んでいらっしゃらなかった。

ミーナおばさまの周りにいた聖騎士や聖職者全て本部に吸い上げたことに対して、私も亡くなった母も、そこに教会の思惑が絡んでいると考えていました。」


リリィの言葉を聞いて俺は言う。


(教皇?何故、そのミーナ大司教を一緒に連れて来なかった?!

ミーナ大司教が居れば、リリィがここまで疑心暗鬼になることはなかったんじゃないのか?)


続けてリリィが言う。


「………教皇様。

何故?!今日、紫の祭服を着ているのですか?

今日は、大聖女マリアンの降誕祭のはずです。」


教皇は、笑顔を崩さず言う。


「まさしく、今日は大聖女マリアン降誕祭。

なので、ミーナ大司教を連れて来れなかったのは、それで理解していただけるでしょう?!

私が紫の祭服を着ているのは、昨日聖教国から飛び出したからです。

降誕祭を忘れている訳ではないと言うことを弁解させて頂きたい。」


(じゃ何故、大聖女マリアンとリリィからミーナ大司教を引き離した?!)


教皇は困った顔をして言う。


「枢機卿です。枢機卿が、手をまわしたのです。

私がそれに気付いたのは、ミーナ大司教が本部に来た時。

本当に申し訳ない。全てが後手後手なのだ。

私は、私は自分自身本当に情けない。」


教皇は、頭を抱えて悔やむ。


「今や、教会の八割は枢機卿が抑えていると言っても過言ではない。

私も次の選挙では、おそらく……。

なので、私は私の出来ることを今、しないといけないと思っているのです。

今すべきことは、リリアン様が安全に海の神殿で新たな力を得ること。

それが、リリアン様の自由を勝ち得る手段ならばと思い、力添えをしようと思ったのです。

警戒されることは百も承知。

何もリリアン様だけ私と共にとは申しておりません。

お仲間の方々も当然リリアン様のお側でおられるのです。

何をそんなに警戒されるのです?

隠密で聖教国にくるほうが、枢機卿の毒牙にかかりますぞ!

私なら、枢機卿の裏をかける!

私からは、これ以上申し上げることはありません!

これが聖教国教皇、私の真意です。」


リリィは黙ったまま。


俺もすぐに答えは出せなかった。


すると、ガーランド王が口を開く。


「どうやら、考える時間が必要なようじゃ。

教皇。明日の朝まで答えを待たれよ。

それだけのことを教会は、リリィ殿にしたのじゃ。

今すぐには答えを出せんじゃろ。

良いかの?」


「わかりました。

明日の朝、再度迎えに来るといたしましょう。

リリアン様。ミーナも聖教国で待っていますぞ。

良い返事を待っていますぞ。」


そう言って、教皇は出て行ったのだった。


俺は、教皇の言葉を思い出す。

言葉だけ見るとリリィの味方として、信用しても良いように思えるが、何故か釈然としない。

上手く会話を誘導されたような感覚がしてならなかったのだった。


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