第44話 覗き魔
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「うっうっうっ……」
「こんなのないのです!うっうっうっ…」
「……ウル!ウル!一人にしないでっ!
ウル!うっうっうっ……」
「なっ!なんでや!うっうっうっ……!
こんなんっ!こんなん!嘘やろがい!うっうっうっ!」
悲しみに、うちひしがれる者達。
(……………くっ。
クソっ!クソっ!クソっ!クソっ!)
俺は天に向かって叫ぶ。
(クッ!" おいっ!女神!見てるんだろ!お前は、ただの覗き魔かよ!この世界に干渉できない?!知ったことかよ!
女神なんだろ!神なんだろ!
なんとかしろよ!
干渉できるようにもできないのかよ!
それで神を名乗るんじゃねえよ!)
俺は怒りを、見ているであろう女神にぶつける。
すると、ガーランド平原に響く声。
【覗き魔とは、言ってくださいますね。
フミヤよ。
干渉すれば、創造の神に怒られるというのに……
まあ、良いでしょう。
少々我慢をすれば良いのですから。
う〜ん。まだこの戦いで死んだ者達の魂は、ここに留まっているようですね。
勇者と怪僧ゲルは、地獄に送りましょう。
その他の者達は、一度だけ復活の道を授けましょう。
聖リリアン・ドロテア。
貴方に、大聖女、聖マリアン・ドロテアの魔法を預けましょう。
受け取りなさい。】
天から光が降りてきた。
そして、光がリリィの体に吸い込まれていく。
リリィは、自らの体を確認する。
【フミヤ。この一度きりですよ。
今後は、貴方が守りきるのですよ。
ああ。そうだ。
聖リリアン・ドロテア。
授けた魔法には、代償があります。
聖マリアン・ドロテアが若くして寿命が尽きたのも、その魔法が原因なのです。
その魔法は、寿命を削ります。
いくら、貴方が長寿だとしても何度も使うのはやめておきなさい。
警告しておきます。
良いですね。
では、私は創造神に怒られてくるとします。
フミヤ。頼みましたよ。】
女神の声は、ここで途切れた。
元帥が何やら呟く。
「あの声………まさか……な。」
リリィは、早くも祈りに入っていた。
(リリィ!寿命が削られるんだぞ!
それで良いのか?!)
リリィは目を閉じたまま言う。
「フミヤ様。私のことを1番わかっていらしゃるではありませんか。
多少削られても私は大丈夫。
母も同じ。自分を削ってまで命を繋いだ。
私は思い出したのです。
母、聖マリアン・ドロテアがこの魔法で寿命を削ってまで繋いだ命は、私だったんだと。
あの日、私が目覚めると同時に母は亡くなりました。
私の命を繋ぐ為、母は犠牲となったのです。
母は、亡くなる前に言いました。
"リリィ、皆が幸せな世界を貴方が"と。
母に託された思い……フミヤ様。
共に、お願いしますね。」
リリィはそう言うと、目を開け、一気に解放する。
「聖属性魔法極LV極 "女神の蘇生" 」
リリィから光が渦巻いて溢れだす。
光がまるで海流のように、光の荒波となってガーランド平原に広がっていく。
ドワーフ達が火炎瓶を投げて燃やした草木が、芽を出し育ち草木に成長していく。
光の荒波が丘の崖に当たり、光が霧散していく。
命を落とした者達にも変化が訪れる。
体が光輝き、体の組織一つ一つを構成していく。そして、光が体に取り込まれていく。
一人、また一人と起き上がる。
そして、ウルも。
アルの腕の中で、息を吹き返す。
そして、ゆっくり目を開ける。
「………ア……ル。
アル!僕!死んでないの?!
生きてるの!?
あっあれ?なんで?おかしいな。
僕、もうダメだと……思ったのに。」
「ウル!ウル!
もう、一人にしないで!
馬鹿!馬鹿!馬鹿!
許さないんだから……うっうっうっよっ良かった………」
光の海流が綺麗に霧散する頃には、全ての人が生き返ったのだ。
勇者と怪僧ゲル以外全ての人が。
リリィは、光の海流が霧散した頃、倒れる。
俺はリリィを受け止める。
そして、抱き上げた。
リリィは、寝息を立てていた。
何年寿命を削ったのだろう。
そんなことを思いながら、リリィの寝顔を見る。
もう二度とリリィには、この魔法を使わせない。
そう心に決めたのだった。
この後、皇弟は支持派とともに皇帝を討ちに進軍した。
帝国軍の兵士達も帝国に戻った。
俺達王国軍は、それを見届けてガーランド王国王都に戻ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガーランド平原のある場所で、この一連の戦いを見ている者達がいた。
「いやぁ〜!素晴らしい!素晴らしいではないか!
"大聖女の癒し"に"女神の蘇生"
ハッハッハ!
なあ!枢機卿!素晴らしいよ!
大聖女だ!聖リリアン・ドロテアは大聖女なのだよ!」
踊り出すかのように、派手にリアクションする男。
「教皇様、お戯れが過ぎますぞ。」
男は、聖教国トップの教皇だった。
「フフフッ。許せ枢機卿!
こんなに喜ばしいことはない!
だってそうだろう?
私どもの待ち望んだ贄が目の前にいるのだ。
邪神様復活の為の贄がなぁ。」
「しかし、聖リリアン・ドロテアには、勇者を途轍もない力で打ち破ったあの男が側にいます。
簡単には奪えそうにないです。」
「フフフッ!枢機卿!お前はかなり、悪目立ちしてしまいましたからね。
私自ら出ましょう。
私は、貴方と違い評判はとても良いですからねぇ。
私が是非聖リリアン・ドロテアを聖教国に、ご招待いたしましょう!
何故なら〜、彼女達は、海の神殿に用があるとの事。
水の精霊ウンディーネに会うつもりでしょう。
それのお手伝いを教皇自らして差し上げると打診しましょう。
私の世間体を知るガーランド王やライデル元帥は、教皇が言うならと援護射撃をしてくれる筈でしょう。
フフフッそこで分断するのです。
ガオシュンさん。貴方、あの男を抑えれますか?」
影からスッと現れる男。
バチバチと雷を纏いながら現れた闘技服を着た男。髪をオールバックにし、後ろ髪を編んだ所謂中華風の男が口を開く。
「誰に言ってるね。
私、サンダ人民国5剣神が一人あるね。
たやすいことあるね。」
「フフフッ!頼もしい!
頼もしいではありませんか!
聖教国とサンダ人民国、人族優先主義国同士、末永く仲良くしようではありませんか!
フフフッハッハッハ!」
リリィとフミヤに早くも次の悪意が向けられた瞬間だった。
そのような話が秘密裏に行われている中、
リリィによって綺麗に蘇生されたガーランド平原に風が吹く。
その風が草木を揺らし、心地よい草木が擦れる音色が平原に駆け抜けるのだった。
ー第4章 完ー
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これで4章完となります。
新たな悪意が向けられたフミヤとリリィ。
2話ほど日常編をお送りしてから、5章聖教国編をお送りしたいと思います。
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