第42話 勝負
(うぉぉぉぉ〜!勇者!見つけた!)
魔剣ブラックローズを勇者に向かって振り下ろす。
勇者は、剣でそれを受け止めるが、馬上から転がり落ちる。
俺は"覇気"を発動し、周りの帝国軍兵士に叫ぶ。
【"邪魔するな!ひっこんどけ!"】
帝国軍兵士達は、俺の言葉に恐れ慄き距離を取る。
俺と勇者の為の戦うステージが出来上がったのだった。
「クソっが!相変わらず訳わからねぇ力だな!
クソクソクソ!
何やってる!
お前ら!数でぶちのめせよ!」
ジリジリ帝国軍兵士が動こうとしていた。
【"ひっこんどけって言っただろうが!
もっと離れて、平伏してろ!】
動こうとしていた帝国軍兵士が更に距離を取り、平伏した。
「なんだ?!
それも、能力か?ふざけた奴だぜ!
ああ!イラつくぜ!」
【ふざけてんのは、お前だろ!
こんなに人を巻き込みやがって!
俺がそんなに怖いか!
数を用意しなきゃ、喧嘩もできないのかよ!
勇者って、勇気を持って何かを成し遂げた奴なんじゃねえのかよ!
お前は、ただの臆病な根クソ野郎じゃねえか!】
「生意気な!うるさい!」
勇者が剣を振りかぶり斬りかかってくる。
俺は"王剣"を発動。
勇者の剣を受け止める。
そして、鍔迫り合いの中言う。
【こないだの剣はどうした?!
鋼線剣だったか?!
卑怯なお前にお似合いな剣だったのにな!
ああそうか!俺が潰してやったんだったな!】
「うるせぇよ!元々俺の1番の剣は、このブレイバーソードだ!
お前生意気な口を聞いていられるのも今のうちだけだからな!」
しかし鍔迫り合いを制したのは俺。
体勢を崩しただけの勇者。
俺の"剛力"のパワーに対等に対処しやがる勇者。
やはり強い。その強さを何故世界の為に、大事な物を守る為に使わないんだ!
苛立ちが湧き上がる。
「クソが!神のイカヅチ!」
【"魔法障壁"】
俺は、魔法障壁で勇者の神のイカヅチを受け流す。
こいつ、俺だけではなく、広範囲に落としやがった!
帝国軍の兵士が巻き込まれる。
帝国軍の兵士をなんだと思っているんだ!
一気に怒りがMAXに。
"憤怒"が自然に発動。
俺は、魔剣ブラックローズを力いっぱい振り下ろす。
前と違うのは、魔素纏いでブラックローズにも纏わせている。
金色の鎧の肩を砕いた。そして、そのまま横薙ぎする。
鎧の胴の部分が裂ける。
勇者の血液が飛び散る。
しかし、浅い。
「なんてパワーしてやがる!
アダマンタイト製の鎧だぞ!
出鱈目な奴だ!
クソが、"ブレイバーソードよ!力を!
切り裂け、ブレイブスラッシュ!"」
勇者は、剣を左斜め下に構え、右足を一歩力強く踏み出す。
"シュッ!ダン"
剣を左斜め下から右上に斬り上げる。
勇者の剣が輝きを増し、斬撃とともに鋭い剣筋が俺を襲う。
頭を咄嗟に左に倒し、斬撃を避ける。
しかし全てを避けきれず頬に斬撃が掠る。
その後、バックステップを踏むが、間に合わない。
纏っていた魔素を切り裂き、勇者の剣の切っ先が俺の胸を切り裂く。
飛び散る血液。
バックステップを踏んでなかったらかなりの深手となっていた。
俺は、その傷に恐れず攻める。
【"活火激発"】
俺の足元からマグマが溢れ出し、勇者目掛けて飛ぶ。
勇者が頭からマグマを浴びる。
その瞬間爆発する。
しかし、そこには勇者はいなかった。
正確には、勇者が頭からマグマを浴びたように見えただけ。
その瞬間、勇者は"瞬間移動"を発動していたのだ。
「今のはヤバかったぜ!
クソったれが!
どれだけスキルを持ってやがる!
それも、今のは普通のスキルじゃねえな!
特級スキルだろ!
ふざけやがって!」
俺は続けざまに、"闇属性魔法極LV1メテオレイン"を発動する。
辺りが暗くなり空から勇者目掛けて隕石が落ちる。
勇者は、瞬間移動で数個の隕石を避ける。
隕石が地面にぶつかり爆ぜる。
爆風で勇者の体が宙に放り出される。
俺は、"瞬歩"を発動し勇者の側まで一瞬で寄り、勇者の背中を左手で当て【"火属性魔法極LV1業火"】を発動。
青い炎が勇者を包む。
勇者は、地面でのたうつ。
勇者が叫ぶ。
「水属性魔法極LV4海流!」
途轍もない水が勇者と俺を巻き込んでいく。
俺は魔法障壁で何とかやり過ごす。
勇者は海流にのまれる。
そして、次第に水が消えていく。
炎を消した勇者が立っていた。
「ごほっ!ごぼっ!ヒィヒィヒィ!ゴホ!ゴホ!クソが!
エグい炎だった!
クッソがぁ!髪が燃えちまった!
死んで詫びろや!」
【うるさい!ハゲ!
お前が死ね!】
戦闘も激しいが口も激しく戦っていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すっ凄い!なんだあの戦闘は!
あれが、フミヤ様と勇者の力のぶつかり合いなのか!
まるで、神話の中の戦いだ。」
「えっエグいな!
広範囲のイカヅチに、マグマの爆発!
それに隕石が降り注いでたで!
それと青い炎!
それをあの暴力的な水の爆流で消しやがった!
でも、今のとこアニキが押してんちゃう!
アニキやっぱり、凄いわ!」
「しかし、剣では勇者に軍配が上がりそうです。
やはり、伊達に勇者をはってませんね。
剣の扱いは一流だ。
フミヤ様がいかに、スキルで押し切ることができるか!
出来る限り早く決着を……
つけてほしいのですが…」
元帥がそういいながら、平原を見渡す。
エルフの戦士、小人族、騎士達。
善戦しているが、疲労が見えてきている。
時折、空中からリリィが聖女の癒しを使い、癒しているが、傷は癒えても体力の衰えまでは癒せない。
対する帝国軍の兵士は興奮剤を使用している為、半ば強引に力と体力を引き出しているので、薬が切れるまでは帝国軍兵士のほうが有利なのだ。
元帥の横に皇弟が来て言う。
「興奮剤は、そう長くは持たん。
1時間くらいで効果はなくなる。
その後は、反動で動けなくなるはずだ。
あと少し!あと少し!頑張ってくれ!」
皇弟は最後は祈るように言うのだった。
リリィは、空中から戦況を見る。
中央でフミヤと勇者の激しいぶつかり合いが見える。
フミヤの体から血液が飛び散るのを見て、リリィは思わず目を瞑りたくなる。
「フミヤ様!勝って!勝ってください!
絶対に!」
心で叫ぶ。
ララが吹っ飛ばされるのを目撃し、すぐにリリィは"聖女の癒し"をララに施す。
アルとウルが受けた傷もリリィは、すぐさま"聖女の癒し"で癒していく。
しかし、戦いは広範囲。
全てを癒すことは叶わない。
命の灯火が、一つ二つと静かに消えていく。
リリィは、胸が痛かった。
元、聖職者として命の尊さは母、大聖女マリアンから教えられてきたのだ。
こんな無駄な戦い、勇者の傲慢と皇帝の傲慢によって引き起こされた戦いで、命が散っていくのを勿体ないと勿体ないとリリィの心をけずっていくのだ。
涙がとめどなく流れる。
この戦いを早く止めて!止めたい!
自分の無力さにうちひしがれる。
今戦いを止めれるのは、フミヤ様だけ。
フミヤ様が勇者に討ち勝てば、頭を失った帝国軍はとまる。
「お願い!フミヤ様!
早く勇者を!討って!」
フミヤに縋るしかないリリィ。
必死に戦っているフミヤにとって、我儘とも言える願いなのだが、フミヤに向けてそう祈るしかなかったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ブレイブスラッシュ!」
また、勇者の激しい斬撃と剣が飛んでくる。
【地属性魔法LV1ロックウォール】
瞬時に岩の壁で避ける。
【電光石火】【疾風迅雷】
フミヤは凄まじいスピードで駆ける。
風と雷を纏いながら。
勇者は、水で濡れているため、この雷の纏いで派手に痺れる。
フミヤは地面に手をつけて、叫ぶ。
【大地の怒り】
激しい音と揺れで大地が隆起し、痺れている勇者を巻き込んでいく。
"魔法剣"を発動!【雷属性魔法極LV1稲妻レイン】を付与!
大地の隆起に巻き込まれる勇者に、向かって斬り込む。
勇者は、そんなフミヤに気付き不安定な足場の中なんとか踏み込み、「ブレイブスラッシュ!」
を打ち込む。
フミヤの魔剣ブラックローズが稲妻を纏いながら、勇者の頭を捉える。
勇者のブレイブスラッシュがフミヤの胴体を捉える。
相打ち。
勇者のブレイブスラッシュでフミヤの胴にブレイバーソードが吸い込まれる。
フミヤの魔剣ブラックローズが勇者の頭に吸い込まれていく。
"パリン"
"バチバチバチド〜ン"
勇者のブレイバーソードが砕ける。
フミヤの胴から血液が舞う。
しかし、オリハルコンの骨にブレイバーソードが耐え切らず砕けたのだ。
その一方で、稲妻を纏った魔剣ブラックローズは、斬れ味を高め、稲妻の付与をうけながら、勇者を頭から真っ二つにしたのだった。
勇者を討ち取ったフミヤ。
真っ二つになって地面に派手に血を撒き散らす勇者。
フミヤは、もう息のない勇者に向かって言う。
「これだけの人を巻き込んだんだ。
天国に行けると思うなよ!」
そして、叫び声とも言える大きな声で、"覇気"を使い言う。
【"勇者を討ち取った!帝国軍は降伏しろ!】
ガーランド平原にフミヤの声が響き渡るのだった。
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