第41話 大事なものの為

次の日、ドワーフ達が到着した。

そのまま、予定どおりガーランド平原の手前の丘にガーランド王国軍は陣をひく。


丘から、平原が見渡せる。

これなら、帝国の進軍も見逃すことはない。

そして、足止めの遠距離攻撃も効果があるだろう。

平原での争いが王国の狙い。

ここから先は帝国軍を通すつもりはないのだ。


さすがライデル元帥、この位置での陣取りは最適だと言える。


こうやって見ると、人族にエルフ族、小人族にドワーフ族と四つの種族が居る。

ガーランド王国がいかに、差別をしない国だということがよくわかる。


ルシア帝国では、そう言えば冒険者ギルドでも亜人種は数が少なかったな。


人族優先主義まではいっていないが、帝国人としての誇りというかそんなこだわりはありそうだ。


ドワーフ達は酒盛りを始め、宴好きな小人族がそれに参加する。

それが次第にエルフ達、人族も巻き込んでいく。


(おいおい!戦争前なのに、大丈夫か?!

良いのか元帥?)


「フミヤ様、平原の見張りは付けてます。

大丈夫です。

全然構いません!

だってそうでしょう?!

こんな時に冷静沈着に、いれるはずがないじゃないですか!

戦争で命を落とすかもしれない。

酒でも飲んで気を晴らすのが1番だ。

皆、死ぬかもしれないと心の中で覚悟しているのです。

愛する家族を守る為、自分達の生活を守る為、愛する国を守る為、命を賭けるのです!

誰が止めれますか?!」


(そうだな。その通りだよ。

…………誰も死んで欲しくないな。

その為にも俺が、勇者を早く討ち取らなきゃダメだな。)


「………フミヤ様にはプレッシャーをかけているのは、重々承知しています。

しかし、勇者を討てるのはフミヤ様しか居ないのです。

我ら王国は、フミヤ様に感謝してますよ。

フミヤ様が居なかったら、勇者率いる帝国軍に蹂躙されていたのですから。

それが、今は各々が大事な物を守る為、希望を持って戦える!

フミヤ様が王国の希望なんですよ!」


(…………更にプレッシャーかけるじゃないか!元帥!ハッハハハッ!)


「大丈夫!貴方様は、強い!

勇者を討ち取ってくれると信じていますぞ!」


「お〜い!アニキ!

なにしてんねん!飲むど〜!」


「フミヤ様〜!僕だけじゃ、ドワーフ達の相手できないよ!

早くきてよ!」


「フミヤ様!戦い前の迎え酒なのです!

早くなのです!」


「お嬢〜歌歌うだぁ〜!」


「フミヤ様?

どうしましたか?頂きましょうよ!」


ドラス王にウル、そしてララに声をかけられる。

最後に俺の横にリリィがやってきて言う。


俺は、酒の入ったジョッキを持って、一気にあおる。


そして、言う。

(俺が勇者を討ち取る!

それまで、皆!死ぬなよ!)


「「「「「「うぉぉぉぉ〜!」」」」」」


10万超の仲間達が雄叫びをあげる。


この日は、いつまでも火の灯りが丘を優しく照らしていたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜が開ける。


黒から紫に辺りの色が変化していき、しだいに日の光が辺りを照らしていく。


小鳥や小動物の鳴き声が聞こえてくる。


そんな中、遠くから音が聞こえる。

それが、徐々に大きくなっていく。


平原の先から地響きを響かせながら帝国軍がやってきたのだ。


まだ、遠い。


元帥が叫ぶ。


「皆!配置につけ!

弓隊準備!

ドワーフ隊準備!

前衛!丘を駆け降りろ!」


丘の上で弓隊とドワーフ隊が準備をする。


俺は、エルフの戦士、そして騎士達とともに丘を駆け降りる。平原での戦闘に備えるのだ。


弓隊に混じりセシル姫も銀翼の弓を構えている。


ララ達小人族は、前衛の俺達の後ろに付ける。


リリィは、ホーリーレインを討つ為、丘の上で、すでに祈りに入っている。

魔素をより多く取り込んでいるのだ。


"ドッドッドッドッ"帝国軍の響かす地響きが大きくなってくる。


前衛の俺たちまで100メートルといったところで、ライデル元帥の声が響く。


「弓隊!ドワーフ隊一斉射撃!」


ドワーフ達が油の入った瓶を一斉に投げる。


大量の瓶が空を舞う。

その瓶が帝国軍の前方に落下し、瓶が砕け散る。中から液体が飛び出る。


そこに、弓隊が放った火矢の雨が降り注ぐ。


爆発を起こしたかのように火が燃え盛り、平原の草木を焼いていく。


帝国軍の進軍が止まった。


火の勢いは強まり、帝国軍は、火の壁で行手を阻まれたのだ。


足を止めることに成功した王国軍。

俺達前衛は、帝国軍と距離を詰めるため、平原に降り立つ。


この時、帝国軍の後方で雄叫びが上がる。


皇弟支持派が寝返って王国の旗を掲げたのだ。


勇者シルバが叫ぶ。


「くっクソが!裏切りか!

叩きつぶせ!」


金色のド派手な鎧を着た勇者シルバの姿を俺は捉えた。


俺は、"疾駆""鉄壁""魔素纏い"を発動。

一気に駆け出す。


火の壁の前で、"跳躍"を発動!

駆けた勢いのまま、飛ぶ!


何万の帝国軍兵士の上を飛び越えて、中央にいる勇者シルバ目掛けて。


飛び越えながら、魔剣ブラックローズを抜く。


(うぉぉぉぉ〜!勇者!見つけた!)


魔剣ブラックローズを勇者に向かって振り下ろす。


勇者は、剣でそれを受け止めるが、馬上から転がり落ちる。


俺は"覇気"を発動し、周りの帝国軍兵士に叫ぶ。


【"邪魔するな!ひっこんどけ!"】


帝国軍兵士達は、俺の言葉に恐れ慄き距離を取る。


俺と勇者の為の戦うステージが出来上がったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リリィは、祈りながら大きくなる音を聞いていた。


そこに元帥の声。


「弓隊!ドワーフ隊!一斉射撃!」


「「「おりゃぁ〜!」」」


ドワーフ達の叫び声。


"ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!……"


矢を放った音。


そして、爆発したかのような破裂音。


祈りながら、始まったことを音で知る。


そして、かなり遠くからの雄叫び!

皇弟支持派が寝返ったようだ。


元帥が言う。


「行った!フミヤ様が勇者シルバの元へ飛んだ!すっ凄い!」


リリィは、心で思う。

"フミヤ様!ご無事で!"


そして、リリィは一気に力を解放する。


リリィの体から光が溢れだす。

その光がリリィの背中に集約する。

光が羽を作る。


リリィが、羽ばたく。そして、空に舞う。

"聖属性魔法LV7天使化" だった。


弓隊が、セシル姫が、ドワーフ達が、元帥が、そのリリィの姿に目を奪われる。


前衛のエルフの戦士、騎士達、小人族もだ。


帝国軍の兵士達も頭上の空中で静止する、光の翼を持つ天使に目を奪われていた。


そして、帝国軍の真上で天使リリィは、続けて魔法を放つ。


「………降り注げ!ホーリーレイン!」


"聖属性魔法LV6ホーリーレイン"だ。


リリィの体から光が抜け出し、帝国軍の三分の一を覆う金色の雲となった。


一粒の金色の雨が落ちる。

それが小雨のようにパラパラと落ちていく。

次第に金色の雨は雨足を強める。


金色の雨に打たれた帝国軍兵士がバタバタと気絶していく。


「なんや!リリィ!

リリィは、女神やったんか!

あんなん!神やん!なあ!元帥!」


ドラス王がリリィを見て女神だと言う。


「フフフッ。

リリィ殿は、聖リリアン・ドロテア。

大聖女、聖マリアン・ドロテアの娘。

正真正銘の聖女様です。

リリィ殿!やってくれましたな!」


金色の雨が上がる頃、火の勢いも弱まる。

王国軍前衛が駆け出す。

それぞれの思いをのせて。

今、帝国軍と激突したのだ。


帝国は、もう数的優位はない。

逆に劣勢となっている。

しかし、一人一人が興奮剤を投与している為、一人一人の攻撃力は強い。


エルフの戦士として前衛に参加しているウルとアルもスキルを使って精一杯戦っているが一対一では敵わないと二人でコンビネーションを駆使し戦っていた。


周りでは同胞が倒れていくのが見える。


ウルは叫ぶ。


「くっクソ!二人一組で戦うんだ!」


その時、頭上から暖かな光が倒れた同胞エルフの戦士に降り注ぐ。


リリィの"聖属性魔法LV3聖女の癒し"だった。


倒れたエルフの戦士が立ち上がる。


アルが"支援魔法エリアキルアップ"を発動する。


同胞の力をアップしたのだ。


「突撃なのです!

小人族の力を教えてやるのです!

盾突進なのです!」


何人もの小人族が盾を繋げて敵に突進していく。


小さいから重心が低く、帝国軍の兵士はこの突進には苦労している。


「良い調子なのです!

さあ!もっと行くのです!」


「おっお嬢!危ないだぁ〜

ワシらの前に出たらダメだぁ〜」


"拳速"


ララの拳が凄いスピードで繰り出される。


帝国軍兵士が吹っ飛んでいく。


「ララの心配はいらないのです!

さあ、皆んなは突進するのです!

さあ!行くのです!」


「お嬢は〜凄いのだ〜!

負けてられないのだ!

行くのだぁ!おりゃ〜!」


各々が大事な者、大事な物の為戦いを続けるのだった。

しかし、大事な命は一つ二つと散っているのだ。

それは、ガーランド王国だけではなく、帝国軍の兵士も同じだった。


リリィは、空中からそれを見て、涙を流すのだった。


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