第35話 悪人
アーシェ姫の案内で、皇弟と皇弟妃の元に案内される俺達。
部屋の扉前まで来ると、アーシェ姫が俺達を止めて先に部屋に入る。
数分が経過したころ、部屋の中から言い争いが聞こえてくる。
どうしたものかと執事オートナーを見る。
オートナーが言う。
「セシル姫様、扉を開けてくださいますか?
セシル姫様なら、開ける権限がございます。」
(アーシェ姫は、誰と揉めているんだ?)
「教会の神官でございます。」
神官かぁ。そうか、ヒールを掛けていると言っていたな。
頭がガチガチなんだろうな。
セシル姫が俺に扉を開ける確認の為に俺を見てくる。
俺は頷いた。
セシル姫が扉を開ける。
広い部屋にベッドが二つ。
皇弟と皇弟妃が意識なく横たわっていた。
肌は、毒が回り紫色に変色していた。
本当に急がないと危険な状態のようだ。
「我々は、聖女カシエラの指示を受けて対処している!
いくら、皇弟アレク様の御令嬢といえど聖女カシエラの治療方針を変えることは出来ない!
アーシェ様は、マリア教会をなんと心える?
信仰心のカケラもないのですか?!
聖女の指示を覆すのは、神を冒涜する行為ですぞ!」
「よくそのようなことを言いますわ!
聖女カシエラは、ロクに父と母を見ようとせず、貴方達に丸投げしただけではありませんか!
それに!あの聖女カシエラに、聖女と呼ばれる功績などないではありませんか!
神を冒涜?あのような者を聖女認定している貴方達のほうが神に対する冒涜ですわ!」
神官とアーシェ姫の言い争いが続く中、リリィがスッと皇弟アレクのベッド脇に行き、
手を翳しながら何かを探っている。
すると、神官達が騒ぎだす。
「何をしている!勝手なことをするな!」
リリィを取り押さえようとしたので、俺が間に入る。
リリィが口を開く。
「アーシェ様?
お聞きしますが、ヒールを掛けて延命しているというお話でしたわね?
……………申し上げにくいのですが、ヒールを掛けた痕跡がまるでございませんわ。
その代わりに、これは生活魔法でしょうか。
新陳代謝を良くする魔法を使用していますわ。
…………おかしいと思っていたのです。
ヒールは聖属性魔法。
神官に使える者はほぼ居ない。
…………アーシェ様。
毒を受けて、新陳代謝を高めるということは、毒を全身に回すということ。
この神官は皇帝の息が掛かっている者かと。」
「なっなんですって!
貴方!なんてことを!
オートナー!この神官達を取り押さえなさい!」
オートナーはすぐに一人の神官を締め上げる。
俺とアル、ウル、ララも手伝う。
床に抑えつけられながら、神官が言う。
「皇帝に逆らうからだ!
帝国は、皇帝が全て!
お前達!我らにこのようなことをして許されると思うな!
お前達もすぐにその二人のようになるのだからな!」
(はいはい。お前らうるさいよ。
リリィ。治療を開始して。)
「はい!フミヤ様。
う〜ん。ここまで毒が回っているとなると、
内臓もほぼ壊滅。
アーシェ様。
まず毒を抜きます。
タライか何か、抜いた毒を入れる物をご用意ください。
その後、"大聖女の癒し"で一気に回復させます。」
俺がオートナーが取り押さえている神官も一緒に押さえ込み、執事のオートナーを動けるようにした。
「アーシェ様!すぐにご用意いたします!
フミヤ様方!私兵団を連れてくるまで、其奴らをお願いいたします!」
オートナーが駆けていく。
床に抑えつけられながらも、神官達の悪態は続く。
「ふん!毒を抜く?
どうやって?
まるで、聖属性魔法が使えるような物言いだな!笑わせるな!
しかも、大聖女の癒しだと!!
とんだお笑いだ!
聖女カシエラすら修得できない物だぞ!
大聖女マリアンが唯一使えた大魔法、貴様が使えるはずなどない。
戯言もほどほどにしておけ!」
リリィが口を開く。
「人の命を!人の命をなんだと思っているのですか!
貴方達なんか、マリア教会の神官の名を語る悪人ではありませんか!
そんな悪人が大聖女マリアン、私の母様の名前を口にするな!
私は、聖リリアン・ドロテア!
大聖女マリアン・ドロテアの娘であり、大聖女マリアンのスキルを受け継ぐ者。
控えなさい!」
「!!!そんなはずはない!
大聖女マリアンの娘は穢れた血を持つ穢れた娘!
其方は、どう見ても人族ではないか!」
(もう!ガタガタやかましいわ!
黙れ!)
俺は、抑えている手に力を込める。
「うっ!ぐぐぐ………」
「フミヤ様。ありがとうございます。
でも、殺したらダメですよ。」
そう言って、リリィは俺に微笑むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
執事のオートナーが、私兵団を連れて戻った。
そして、タライをリリィに渡す。
「それでは、始めます!」
リリィが皇弟に手を翳す。
「……………"キュア"!」
皇弟の体が光に包まれる。
翳しているリリィの手のひらに、ドス黒い液体が溜まっていく。
そのドス黒い液体がボール状になり、継続して皇弟の体から毒と思われる、ドス黒い液体を吸い上げていく。
その毒の球が人の頭くらいの大きさになったとき、皇弟の肌が紫色から普通の肌色に変化したのだ。そして、リリィはタライにその毒の球を入れる。
リリィの手から離された球は、タライに入ると球が弾けドス黒い液体に変わる。
リリィは、皇弟から皇弟妃に移動し、同様に処置を行ったのだった。
「アーシェ様。
これでお二人とも毒は抜けました。
しかし、毒で内臓が壊滅状態なので、今から"大聖女の癒し"を行使し、一気に治療します。」
リリィは、左手を皇弟へ、右手を皇弟妃へ翳した。
「…………全てを回復……
……"大聖女の癒し"!」
リリィの体が光り輝き、両手のひらから光が抜け出す。
そして、皇弟と皇弟妃の体に光が入っていく。そして、皇弟と皇弟妃の体全体が光輝き、その光が一気に漏れだし、部屋一面を光が包む。
アーシェ姫が思わず言葉を漏らす。
「すっ凄いですわ。こっこれが"大聖女の癒し"なのですね!」
私設兵団に抑えられていた、神官達はそれぞれ、口をポカーンと開け、呆けていた。
セシル姫の目を治した時よりも長い。
それくらい、内臓がボロボロになっていたのだろう。
数分が過ぎた時、光が徐々に収まっていく。
部屋に広がった光が皇弟と皇弟妃の体に収まっていき、光が消えた。
それと同時に、皇弟と皇弟妃が意識を取り戻す。
「アーシェ様。治療終了です。
内臓も全て治しましたが、当分は消化の良い物を。
体力が戻れば、普通に生活できるでしょう。」
アーシェ姫は、それを聞き意識の戻った二人の元に。
「アーシェ、私達は毒を盛られたのだな。
アーシェは無事か?
良かった!良かった!」
「……おっお父様!うっ、うっ、うっ。
私の心配より……ご自分の心配を!
うっ、うっ。」
アーシェと皇弟と皇弟妃が抱き合っている。
俺は、執事のオートナーに言う。
(ガーランド王国へ亡命を急いだほうが良いだろうな。
皇弟は、帝国に居たらまた狙われる。)
「体力がお戻り次第ガーランド王国へ!」
(いや、俺のスキル"空間転移ですぐに移動したほうが良い。
すぐだ。
信用できる配下も全員ガーランド王国に送るよ。一瞬でガーランド王国王城だ。)
「そのようなことが!
それは、有り難い!お願いできますでしょうか!
すぐに、皇弟様と奥様の支度を整えます!」
オートナーが支度の為に駆け出していく。
俺はセシル姫を先行してガーランド王国に送ることにした。
(セシル姫、随時ガーランド王国に送り込む。
受け入れ体制を王と元帥とともに頼みたい。
先に姫を送る。)
「わかりましたわ〜。フミヤ様。
お願いします!」
俺は、セシル姫を連れて"空間転移"でガーランド王国王城に飛ぶのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最後に私設兵達を空間転移でガーランド王国王城に送る。
(オートナーさん!これで全員だな。)
「はい!ありがとうございます!フミヤ様!」
俺は、王達の元へ行く。
「マーガレット。久しいのお。
大変だったのう。
部屋を用意させておる。
皇弟とともに、すぐに横になるのじゃ。」
「兄上。お世話になります。」
「何を言っておる。ガーランド王国は、いつまでもマーガレットの故郷ではないか。
水くさいことを申すでない。」
「ガーランド王よ。
すまない。兄を止められなかった。
本当にすまない。」
「皇弟よ。
いずれ、こうなるとは思っておったのじゃ。
気残りは、其方達のことじゃった。
こうして、亡命してくれて気残りもなくなったのじゃ。
だから、来るなら来い!っという感じじゃ!
ハハハッ!
勇者が帝国に付いていようが、こっちにはフミヤ様とリリィ殿が居る。
のう!フミヤ様!」
(まあ、ガーランド王国は守るべき国だからな。
でも、勇者かぁ。自信はないぞ。)
「なぁに、フミヤ様なら大丈夫じゃ。
聖女カシエラと黒魔女ダビエラを倒したのじゃからな。
ハハハッ!」
「ほう!聖女カシエラと黒魔女ダビエラを!それは、頼もしい!」
(まあ、その時になれば頑張るよ。
でもその前に、皇弟と皇弟妃様は、早く横になったほうがいい。
そうだろ?リリィ。)
「はい!その通りです。
ゆっくり休んで体力を戻してもらわないと。」
執事オートナーが皇弟と皇弟妃を連れていく。
するとアーシェ姫がセシル姫とともにリリィの元へとやってくる。
アーシェ姫が、リリィの前で跪き言う。
「聖リリアン・ドロテア様。
この度は、父と母を救って頂き誠にありがとうございました。
このアーシェ、今もあの大魔法が目に浮かびますわ。
まさしく、神の所業。
カシエラを見て、マリア教会を神を信仰するのをやめようと考えておりました。
聖リリアン・ドロテア様との出会いは、神がもう一度信じてみよと言っているようですわ。」
リリィは思わず慌ててアーシェを立たす。
「やっやめてください!アーシェ姫様!
私なんかに跪くなんて!
そっそれとその名前は、もう捨てたものです!
先程は、神官があまりにも酷かったので、思わずその名を使いましたが、私はもう、ただのリリアンです。
リリィと呼んでくださいませ。
私は、母マリアンが死んで教会から出ていけと放り出された身。
聖女でもなんでもないのです。」
「そうであってもです!
私にとっては、聖女、いや大聖女リリアン様ですわ。」
「えっえ〜!セシル姫もなんとか言ってくださいよ〜!」
「リリィさん〜諦めてくださいませ〜
アーシェお姉様は〜自分がこう思えば〜
こうなのです。
でも〜私もアーシェお姉様と考え方は〜一緒なのですよ。聖女リリィさんと思っていますもの。」
タジタジになるリリィ。
そんなリリィを見て俺とアル、ウル、ララは笑ったのだった。
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