第32話 自らの目で

(ララさん!一歩引いて!

リリィ!ララさんの回復を!

姫!援護射撃!

ウル!アルの盾に!アル斬りさけ!)


俺の指示に。一斉に動く。


最前衛に出ていたララがバックステップで一旦引く。

すぐさま、リリィが回復。

姫が後方から銀翼の弓を引き絞り、矢の雨を降らす。

その間隙をぬって、アルとウル姉妹が動く。

敵の攻撃をウルが盾で受け、その後ろからアルがトドメの一撃を入れる。


レッドリザードが息絶える。


「やりましたわ〜!」

「うん!やったのです!」

「ララさん!まだ回復中ですよ〜!」

「姫の援護射撃は、手数が多くて助かります!」

「アル〜僕の盾も役に立ったでしょう!」


レッドリザード。Cランク上位のなかなか強敵の魔物である。


以前出てきた、ハイオークより素早く力も強い。

見た目赤い巨大なワニみたいな奴だ。


アッソ火山に入ってから、俺は攻撃参加していない。

女性陣が俺が動くと瞬殺だから駄目だと。


自分達もパーティメンバーとして強くならないといけない!っと女性陣が率先して魔物を狩っているのだ。

昨日の出来事が、女性陣に危機感を与えたようだ。

この世界は理不尽な暴力に溢れている。

女性は、なおさらだ。

守られているだけでは駄目だと。

自分自身が強くなる必要があると感じたのだそうだ。


まあ自己防衛は大事だと思い、今俺は指示役に徹しているのだった。


(ララさん。そういう戦闘スタイルかもしれないけど、真正面から突っ込んでいくのは、冷や汗ものだよ!)


「フミヤ様!

大丈夫なのです!拳聖なのですよ!

スキル"部分硬化"で防御してるのです!

でも、ブレスは卑怯なのです。

あれは、防御できないのです!」


リリィが言う。


「あれは、ごめんなさい!

私の"聖なる壁"が少し遅れましたわ…

まさか、あのタイミングでブレスが来るとは思わなかったのです!

油断禁物ですね!」


(ブレスが来るタイミングで、姫が矢を口に放つ手もあったと思うぞ。)


「今思うと〜そうですね〜

準備を怠ってました〜

ごめんなさい〜」


(それと、ウル。

チームの盾役は良いのだけど、折角相性のいい氷属性の魔法を使わないのは勿体ないだろ?

盾役と攻撃のバランスを考えたほうがいい。)


「うっ!ぼっ僕もそう思うよ。

う〜ん。難しいなぁ。」


(アルは、支援魔法の出しどころだな。)


「はい。そうですねぇ。

初手でララさんに掛ければ良かったのですが、隊列的に離れていましたので。

切り込むララさんのすぐ後ろくらいに位置すべきでした。」


戦闘が終わってから、こうやって反省会だ。

この繰り返しが、身について行くらしい。

これは、アルとウルが言っていたのだ。


アッソ火山。

流石に活火山だけあって、辺りは草木も生えず、ゴツゴツとした岩や溶岩が固まった岩山だった。山の山頂からは、煙が立ち昇りその煙にマグマの赤い光が反射して、まるで地獄にきたのかと思う風景だ。

たまに、亀裂がありそこから覗く赤いマグマが恐怖心を煽る。

魔物は、だいたい、その亀裂から襲ってくるのだ。


あのマグマに適応している魔物。

不思議である。

俺達が落ちたら一瞬で灰になるだろう。


実際今も、アイスローブを着ていなかったら、一分も持たずに大火傷にあっているはずだ。

それくらい、このあたりの外気温は人が生きていける所ではないのだ。

確かに、こんなところ好き好んでくる冒険者は居ないだろうな。

出る魔物もそこそこ強敵で、素材は高く売れるみたいだが、高確率で命を落としかねない。

割に合わない狩場だ。


ララが俺に言う。


「フミヤ様!いつか、魔族をやっつけるのです?

魔王をぶっ倒すのです?」


リリィが表情を曇らせる。

忘れそうになるが、リリィは魔族と人族のハーフだった。

認識阻害で、魔族特有の特徴白髪と赤い目の色を茶髪と青い目に変えていたのだ。


(なんで、魔族を倒すことになるんだ?

魔王?魔族の王か。

なんでそうなる?

俺は、実際に肌で感じた悪意に対抗するだけだよ。魔族には、まだ悪意を向けられたことがないから、俺の選択肢にはないよ。)


セシル姫が言う。

「けれど〜勇者パーティや教会などは〜積極的に魔族討伐を掲げて〜いますわ〜。

人族は、その先駆者ですわ〜。

エルフも〜獣人も〜小人族〜ドワーフ族の、亜人達もその考えを幼き頃から教えられていますわ〜。」


(……人族が魔族を忌み嫌い、魔族は人族を忌み嫌うというのは聞いていたが…

亜人達は魔族と過去に何かあったのか?

幼き頃から教えられているって、誰に?)


「そっそれは〜う〜ん。

亜人が魔族に何かされたというのは聞きませんね〜。

幼き頃より教えられたのは〜教会の教えです。

そうですわよね〜リリィさん。

リリィさんは聖職者でしたから〜詳しいですわよね。」


リリィは苦笑いを浮かべながら答える。


「……ふふっ。

そうですね。教会の教えはそうですね。

魔族は敵ですね。

しかし、大聖女マリアン様の考えは違いましたわ。

教会の考えは、偏りすぎていると。

所詮人族が集まって考えたことだと、

言われていました。」


ララがそう語るリリィを興味深く見ていた。


ララは、精霊イシス様の話を聞いていたからな。リリィが大聖女の娘というのを知っている。


(やはり、俺は自分の肌で感じるまでは、なんとも言えない。

魔族でも、いい奴はいい奴だろうし。

だってそうだろ?

人族だって、亜人だって良い奴ばかりじゃないだろう?

聖女カシエラが善人だったか?

黒魔女ダビエラが善人だったか?

勇者は会ってないが、いい噂は聞かない。

スナイデル侯爵、アバズレ王妃ともに悪人だったじゃないか。

魔族は、俺は一人だけ皆んなに出会う前に会ったことがあるけど、とても良い人だった。

とても純粋な人で、殺すのは魔物だけと言う人だ。自分達の目で判断するほうが良いんじゃないかな。

教会自体が俺は信じられん。

だって、自分の欲でエルフの森をエルフの里を燃やそうとしたカシエラを聖女認定するような組織だぞ。

かと言って、教会全てが腐っているというのは、早計な判断だけどな。

カシエラを聖女に相応しくないという動きもあったというし、教会内にも良い人はいるのかもな。)


リリィが俺の手を握ってくる。


すると、ウルが言う。


「そうだね。

僕、里の長老から聞いたことがあるんだ。

魔族でも穏健派と過激派にわかれているって。今の魔王は確か穏健派って言ってたと思う。

だから、魔族と人族との争いが最近無くなったって言ってたよ。」


アルも言う。

「そうね!長老から私も聞いたわ。

魔族も亜人と一緒でいろんな種族がいて、

有名なところだと、巨人族は穏健派だと。

鬼人族も穏健派とかいってたな。

魔人族が過激派らしいけど、今の魔王が魔人族なのに穏健派についているから、過激派の魔人族が何もできないんだと言っていたわ。」


セシル姫が言う。


「……そうですわね〜。

フミヤ様のおっしゃる通りですわ〜。

自分達の目で見極める必要がありますわ。

教会の教えも〜大聖女マリアン様が言うように偏りが強そうです。

ふふふっ。侯爵と義母のことを言われて納得しました。」


(それに、クズの勇者パーティが魔族討伐を謳っていたとして、俺達がそれに賛同してどうすんだよ。

俺達は、そのクズ勇者を倒そうとしてんだぜ?!

今はっきり敵として見るのは、ガーランド王国の敵になりうる勇者とルシア帝国。

そうだろ?)


ララが言う。


「そうだったのです!

これも、全て教会の教えが悪いのです!

魔族に偏見を持たせた教会が!

教会もぶっ潰すのです!」


(いやいや。ララさん。無駄に敵を増やすのはやめてね。)


皆、笑ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


聖教国に着いた勇者シルバと怪僧ゲル。


教会本部で枢機卿に会っていた。


「枢機卿!カシエラが戻ってるはずだ!

どこにいる!」


「勇者シルバ。

何をそんなに。

もう、必要ないのだろう?

其方が解雇したのだろう?」


「解雇?なんの話だ?!」


「カシエラが言っていた。

スキルを無くした奴などパーティにいらんと、解雇されたと。

まあ、確かに聖属性魔法も使えぬ者など必要性はないものな。

そこは、教会と同じ考えだ。

だから、どうのこうの言うつもりはない。」


「…………ちょっ、ちょっと待て!

カシエラがスキルを無くした?

聖属性魔法を使えない?!

どういうことだ!

知らんぞ!そんなこと!

じゃあ、どうするんだ!

俺の左目と○ンポと○玉は!」


「おおそういえば、どうした?その目。

完璧に潰れておるな。

もしかして、股間も潰れてるのか?

そこまで潰れるとヒールでは治らんな。

"聖女の癒し"でギリギリ治るかというところか。

"大聖女の癒し"なら完治といったところか。

しかし、使えるものは居ない。

マリアン様も亡くなってしまったしな。」


「カシエラ!カシエラは、どこに居る!

この目で確かめる!

本当にスキルを無くしたのかどうかを!」


「カシエラなら、聖教国のすぐそばにある草原の家で暮らしておる。行って確かめるのが良かろう。」


勇者シルバと怪僧ゲルは、部屋を出ていく。


残った枢機卿が呟く。


「ふぅ〜。こちらはそれどころではないのだよ。カシエラの代わりをどうするか……

聖属性魔法使いなど滅多に現れん。

………あの穢れた血の。

最悪、あの穢れた血の娘を。」


枢機卿は、神官を呼び寄せた。


「ガーランド王国のリースという町の教会に、マリアン様の娘がいるはず。

その娘を捕らえてここに、連れてくるのだ。

穢れた血でも、使えるものは使うのだ。

すぐにだ!さあ、動け!」


神官は、頭を下げて動きだす。


枢機卿は、知らない。

リースの町の教会がリリィを迫害し、マリアンの死後、教会から放り出したことを。


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