第8話 三つの案

泣き崩れる女冒険者を抱きしめるリリィ。


俺は、声をかけずそのままにしていた。


すると、遠くから声が聞こえてくる。


その声に反応して、リリィが女冒険者から離れる。


声の主は、ギルド長と少年少女、そして冒険者達だった。


ギルド長が、その辺に倒れているハイオークの死体を確認する。

そして、リリィに言う。


「……この子達から話は聞いた。

これは、ハイオークだな。

リリアン殿。君が倒したのだな。」


「はい。……駆けつけた時には、この女性しか………」


「女だから、生かしておいたということか。

………君はどう考える?」


「………ハイオークが女性を生捕り……

恐らく、ハイオークを束ねている知恵、知識に優れた更に、上位種がいるのではないかと……。」


「やはり、そうなるな。

さらに上位種となると、オークの王が誕生したのかもしれない。

そうなると、かなりの数が予想されるな。

この先には、君は足を踏み入れていないのだな?」


「はい。

その女性を一匹のハイオークが掴んでいた時、

他のハイオーク達は、その先に戻って行こうとしていました。

なので、この先にアジトがあるのではないかと。」


「成程。その女性は少年少女達に町に連れ帰って貰う。

リリアン殿は、我々と共に来てくれるか?」


「……わかりました。」


リリィは、ギルド長とその他冒険者達とともに森の奥へと進む。


(リリィ。返事しないで、聞くだけ聞いてくれ。

取り敢えずギルド長や、その他冒険者と行動する以上俺と会話することも、俺が魔物に憑依して痙攣させることもハッキリ見られることになる。

特殊なスキルと言い訳はできるが、そこでリリィに対して変に思われたくない。

だからあることを設定したい。

いいかリリィの特殊なスキルは、精霊使いということにするんだ。

精霊と会話しているということに。

魔物を痙攣させているのも、精霊だということにするんだ。

それで、リリィが変に思われることは無い。)


「……わかりましたわ。」


リリィの声にギルド長が反応した。


「リリアン殿、何がわかったのだ。」


「いっいえ。独り言です。

……というか、ギルド長に説明をしておいたほうが良いようですね。

私の特殊なスキルの話を。

ギルド長は、私が冒険者達に二つ名、呟きリリィと呼ばれているのをご存知で?」


「ああ。知っているとも。

会話をしているようだと。」


「そうなのです。

私は会話しているのです。

精霊と。

私の特殊と言っているスキルは精霊使い。

私には、一体の精霊がついています。

その精霊と会話しているのです。

その精霊は、私の敵となる者を痙攣させることができます。

先程のハイオークも、精霊が痙攣させたところを私が首を落として回りました。

これが、私の能力の全てです。」


「………成程。

スキルの事は個人の秘匿とするもの。

よかったのか?我々に聞かせて?」


「……はい。そのほうが、スムーズに事が進められると判断しました。」


(リリィは、嘘は言ってないからな。

精霊使いと言ったけど、実は幽霊使いなんだけどね。付いているのは、精霊じゃなく幽霊なだけ。)


「フミヤ様。その通りです。……あっ!

すみません。精霊が話掛けてきましたので。精霊はフミヤ様と言います。」


ギルド長は言う。

「そのフミヤ様は、何の精霊なんだい?

これから、戦闘になるやも知れない。

能力を知っておきたいのだが。」


「……今は、雷と風の精霊だと言っておきます。

しかし、いずれ全てを司る精霊となられるでしょう。」


「リリアン殿。その言い方だと、主従関係、

主人は精霊のようだが。」


「はい。私はフミヤ様にお仕えしているのですわ。何度も命を救われているのですから。」


「……わかった。君がハイオークを倒せる理由もわかった。

何も問題ない。

これから戦闘になるやも知れない。

その…フミヤ様、精霊をアテにしても大丈夫か?」


(ああ。出来る限りのことはする。)


「フミヤ様は、出来る限りのことはするとおっしゃってますわ。」


ギルド長は、頷き歩みを進めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なっなんだこれは!

これは、大変なことになったぞ!」


森を進んだ先にあったのは、森を切り開いた町のようだった。


そこには、ゴブリンがオークに小間使いのように使われている。

要は、ゴブリンが多数、オークが多数。

これが人で言う一般兵だ。

それらを仕切るようにハイオークが数10体。


高い場所にふんぞり返っているのが、一際大きい、そして存在感のあるハイオークの上位種であろう、オークの王、オークキングだ。


「この数はヤバい。

ゴブリンとオークを討伐するだけでも骨が折れるぞ!

その後に、ハイオークとオークキングとの戦闘!

今の人員では勝ち目がない!

一旦退こう!

帰ってギルドで、冒険者を集めるぞ!」


(リリィ。三つの案があるんだ。

一つは、効率が悪いが俺がゴブリンからオーク、ハイオークへと憑依して痙攣してるところを冒険者が狩る方法。

二つ目は、一匹のハイオークに憑依してハイオークを仕留める。そしてハイオークでオークとゴブリンを殲滅。その後、オークキング。

これも、効率が悪いのと失敗する可能性が高い。

オークキングがしゃしゃり出てくる可能性があるからな。

三つ目、オークキングに憑依して、ハイオーク、オーク、ゴブリンを倒す。

奥から攻めることになるからなんなら、ゴブリンくらいなら冒険者でも倒してもらえるかな。

これが一番効率がいい。

しかし、今のままでは憑依ができない。

オークキングまで距離がありすぎる。

試したけど魔石からピクリともしなかったよ。

一度魔石から出る必要があるんだ。

この三つだ!)


「フミヤ様的には、三つ目が良いと思われているのですね。

わかりましたわ。

三つ目で話を進めますわ。

しかし、冒険者は集めた方が良いですね。

フミヤ様が全て倒されると体力的にも大変ですわ。」


(まあ、その辺はオークキングの体力しだいなんだけどね。ゴブリンを片付けてくれると助かるかな。)


町へ戻りながら俺はリリィに三つの案を提示したのだった。


冒険者ギルドでは、ギルド長の声掛けで冒険者が集められた。


ギルド長には、リリィが三つ目の案で説明した。


ギルド長が冒険者を前に語る。


「この町始まって以来の危機だ!

森の奥でオークキングが誕生し、ハイオーク、オーク、ゴブリンを従えている。

数が異常だ!

一つの国の軍隊クラスだ。

だが、お前達は、それで怯むのか!

名を売る時だ!

それが!冒険者という者だろ!

お前達には、ゴブリンを狩ってもらう!

ゴブリンごときに遅れをとるなよ!

呟きリリィの特殊スキルでオークキングを操って貰う!

ハイオーク、オークは、そのオークキングで殲滅する!

終わったら!宴だ!

さあ!暴れるぞ!」


" うぉぉぉぉぉぉ〜!"


地鳴りのような冒険者達の声。


流石は、ギルド長。冒険者達を乗せるのが上手い。


そこに衛兵が、こないだ捕らえた元Dランクのチャラい痩せ型の男を連れてきた。


コイツを使って、俺を魔石から出せとのギルド長からリリィにあった指示だ。


「フミヤ様!では、お願いします。」


(わかった!先に行って暴れておくよ。)


俺はリリィの魔石ペンダントからチャラい痩せ型男に憑依を念じる。


体を持っていかれ、すぐに押し出される感覚。


目の前には、衛兵に支えられながらも痙攣するチャラい痩せ型男。


コイツも道具扱いだな。


俺は、スッと移動を開始する。


先行して、オークキングに憑依して暴れる為だ。


さあ、上手くいってくれよ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺は、ゴブリンの大群を突き抜け、オークの大群も突き抜ける。


幽霊だから、気付きもしない。


ふんぞり返っているオークキングの目の前に今いる。


デカいな。3メートルくらいあるか。

でっぷり肥えている。

まさに、豚の人型。

その辺のオークと違うのは、鋭い牙と、肥えながらも、その下に隠れる筋肉がすごそうなところ。

そして、威圧感が凄い。


もし、俺がコイツに気づかれていたとしたら、オシッコ漏らすレベル。

幽霊だからオシッコ出ないけど。

相当強そうだ。


俺は、憑依を念じる。


体が持っていかれ、オークキングの体内の魔石に収まった感覚を感じとる。


視覚が広がる。目の前には沢山のオークや、ゴブリン。ハイオークの姿が。


俺(オークキング)は、ゆっくりと立ち上がる。


そして、近くに置いてあった恐らくオークキングの武器であろう途轍もなくデカい斧を手にする。


それを試しに振り上げ、頭の上でクルクルと振り回す。


やはり、コイツの腕力すげえな。


コイツからスキルを強奪したのは、剛力というスキル。

この腕力も剛力のおかげだろう。


少しその場でステップを踏んで見る。

はっ早い!

コイツ、デブの癖に動きも軽く早い。


こりゃ、まともに戦うとその辺の冒険者じゃ相手にならんわ。


そう思いながら、目の前を通りかかったハイオークの頭上に斧を叩きつける。


ハイオークは簡単に真っ二つになった。


" さあ!狩りを始めるか!豚ども!肉になりやがれ!"


俺(オークキング)は、オークの群れに突っ込むのだった。



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