第6話 撃退
(なあ。リリィ教えて欲しいんだけど。
スキルにはレベルがあるよね。
さっきの黒のローブの男に憑依したらさ、あいつエルフだったみたいで憑依できたんだよ。
そこで風属性魔法と雷属性魔法が手に入ったんだけどレベルが上がれば今、ウインドカッターとサンダーボールしか使えないんだけど、他にも覚えるの?)
俺は、あの後リリィが宿屋に着いた頃合いで痙攣している三人の男をそのままにし、宿屋に戻ったのだ。
「まあ!新しいスキルを!
はい。フミヤ様のおっしゃる通りです。
レベルが上がるたびに、新しい魔法が使えるようになりますわ。
ちなみに、私は聖属性魔法がLV8ですから8個の聖属性魔法を使えますわ。
フミヤ様は、私に憑依して聖属性魔法も手に入れましたでしょ?
今は、ヒールだけですよね。
スキルを使うことによってLVがあがりますよ。」
(そうか。人自身のLVっていうのは、この世界にはないの?)
「人のレベルですか……ありませんね。
全てはスキルの数とスキルのレベルで強者、弱者が決まります。
スキルは、色んな物があります。
数えきれないほど。
生まれつきのスキルと成長するにつれ発現するスキルがあるようです。
勇者は、スキルの数が飛び抜けていると言う話です。」
(ちょっと待って。
俺ってスキル取り放題じゃん。
これってかなり凄い?ってこと。)
「ふふふっ。凄いですよ!
実体化すれば勇者すら霞む存在になれるのではないでしょうか。」
(魔法を使うには、魔力が必要だよね。
じゃあ、魔力のない俺は魔法を使えないんじゃないの?)
「魔力?そんな物は誰も持っていませんわ。
全ては、魔石。魔石の魔素の力ですわ。
魔素の力で魔法を発動する。
魔法を使うのは、大体魔石を体内に持っているエルフ、亜人、獣人、魔族ですね。
人族は、魔法をほぼ使えません。
ほぼ人族は魔法スキルが発現しませんから。
人族のスキルは他の物と考えられています。
稀に、私の母のように魔法スキルを手にする人もいますが、母は、魔石をペンダントにしていつも身につけていました。
勇者も魔石の腕輪をしているとか。」
(じゃあちょっと待って!
そこにある魔石に俺が憑依したら魔法使えるってことよね?)
「そうなんです!使えますよ!
なので私は考えたのですが、この魔石を母のようにペンダントにしようかと。
そしたら、フミヤ様も自由に魔石から他の対象の魔石へと移動できるじゃないですか。
それに、私の人族カモフラージュにもなるかなと。
聖属性魔法スキルの為に魔石をペンダントにしているのだなって思って貰えるでしょう?」
(確かにそれはいいな。
スキルのレベルを上げる為には、スキルを使わないといけないし。
リリィがペンダントとして身に着けてくれていると、そこから魔法攻撃ができる。そしてそこから魔物へ憑依して戦うこともできる。
攻撃のバリエーションが増えるね!)
「明日朝一番に宝石店で加工してもらいますね。直ぐにできると思います。」
(後一つ質問。
魔石の魔素で魔法を打つ。魔素を消費するよね。補充はポーションか何かでするのかな?)
「ふふふっ。自然補充ですわ。
この世界は魔素に溢れています。
今この部屋にも沢山の魔素が漂っていますから。減ったらすぐに補充してくれます。」
(そっか。試してみたいな。
明日、ペンダントに加工してもらったら、
冒険者ギルドで適当な依頼を受けて森にでも行ってみる?
あっ。それとリリィ、冒険者らしい服も買ったほうがいいと思うんだ。
リリィが他にあるなら、そっち優先してもらってもいいけど。)
「承知しました!
フミヤ様の御心のままに。」
(待って待ってよ。
リリィの意志を優先していいんだよ?
なんか俺に仕えるとか言ってるけど、俺幽霊だよ。
俺に仕えても良いことなんてないよ。)
「何を言ってるのですか!
フミヤ様に助けて頂いてばかりなのですよ。
私はフミヤ様にお仕えして、どこまでも付いていきますから。」
(そっそうなの?!
まっまあ。リリィが良いならいいけど。
じゃあ、もうリリィ寝な。もう遅いし。
俺は、睡眠も必要ないし。)
「では、寝させて貰います。
フミヤ様おやすみなさいませ。
ふふふっ。寝顔、ジッと見ないでくださいね。ふふふっ。」
(うぐっ!はっ早く寝なさい!)
ちょいちょいイジられる。
まあ、心を許してくれているのかな?
そう思うことにしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝になった。
リリィは宿屋にもう一泊することを告げて、外に出る。
当然俺も居るよ。
宿屋を出ると、なにやら騒がしい。かなり向こうのほうで人が集まっている。
追い抜いていく男達の話で何に集まっているのか俺も、リリィも理解した。
" 向こうの上級宿で、オッサンが死んでたんだってよ!"
俺とリリィはお互い顔を見合わせた。
ああ。見つかったのね。
早かったな。
衛兵相手に、馬車に一緒に乗っていた冒険者達がヤイヤイ言っている。
" その親父!魔族の女を連れていたんだ!
王都の貴族に進呈するとか言ってた!
あの魔族の女が絶対寝込みを襲って、殺したんだ!"
リリィの胸を触ろうとしていた冒険者が、衛兵に、ここぞとばかりに情報提供している。
リリィが顔を顰めて言う。
「凄い言われようですわ。
寝込みを襲う?
襲われそうになったのは、こっちだと言うのに。」
(まあ。ほっとけよ。
その魔族がここにいるなんて、気付かないんだから。
さあ!行こうよ。宝石店。)
俺とリリィは人だかりを横切り、宝石店に入る。
店員がリリィに対応する。
リリィは魔石を渡して、ペンダントにするよう依頼した。
小一時間でできるとの事だったので、リリィの服というか、装備品を買いにいくことにした。
(リリィは、聖属性魔法使いだからやっぱり武器は杖なのかな?)
「いえ、武器は剣がいいです。
母にも剣術は習っていたので。」
(へえ〜剣が使えるんだね。
聖属性魔法と剣か。……聖騎士目指していたとか?)
「……聖騎士……いえ。ただの護身のためですね。」
(そうなの?!
まあ、どうでもいいけどね。
あっ!でも、人を殺さない人が魔物を剣で切れるの?!)
「ムッ。フミヤ様!
私は人は殺せませんが、魔物なら何回も仕留めたことはありますよ!」
(ハッハハ!ごめんごめん!
怒らないでよ。
あっ!武具店ここじゃないかな?!
さあ!行こう!)
「なんか誤魔化されたようですが、ふふふっ。
行きましょう!」
結局武具店でリリィは、皮の胸当てと、アイアンソード、そして黒のハーフローブを購入した。
(おお!リリィ!一気に冒険者らしくなったよ!)
「そっそうですか?
似合いますか?
フミヤ様。すみません。私ばかりお金を使って。」
(気にしなくていいよ。
今は、俺必要ないもの。
まあ、いずれ実体化する予定だから。
その時に、購入させてもらうよ。)
「実体化ですか!
えっ!どうやってですか!?
なら、早く実体化しましょうよ!」
(まあまあ!落ち着いてリリィ。
俺の構想では、色々足りないんだよ。
だから、リリィと旅しながら必要な物をゲット出来れば良いなと思ってる。
それに、スキルも増やしたいしね。
まあ、近いうちに王都に行きたいんだ。
最近王都周辺に悪魔が出たらしい。
それも、高位の奴が。
そいつに憑依してスキルを奪いたい。
まあ、少しその悪魔の体でしたいこともあるかな。)
「じゃあ、王都に急いでいきますか?
乗合馬車で、ここから3日くらいで着きますわ。」
(まあ。取り敢えず今は、魔石ペンダントでの攻撃パターンの確立が先かな。
リリィとのコンビネーションも肝心だと思うしね。
だから、少しの間ここの冒険者ギルドの依頼をこなしたら良いんじゃないかな。)
そう言って宝石店で魔石ペンダントを受け取り、冒険者ギルドに向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに行った俺達は、薬草採取の依頼を受けた。
Gランクは、一番マシな依頼がこれだからだ。
そして、俺は今魔石ペンダントに憑依している。
リリィの胸元に位置する魔石ペンダント。
リリィが歩く振動で胸が揺れる。
魔石の中に居る俺は、そのボヨンボヨンの感覚が伝わってくる。
(ちょっと、リリィさんや。
なんでペンダントを皮の胸当ての中に入れているの?
君の胸の感触がダイレクトに伝わっているのだが…)
「はい。だって、ペンダントを外に出していたら左右に揺れてフミヤ様が大変かなと思いましたから。」
なっなるほど。
俺のことを考えてくれたということか。
まっまあ。この感触は悪くないのだが……
でも目的が、違ってくる。
俺は苦渋の判断をする。ああ、勿体ない。
(リリィ、俺幽霊だから揺れても大丈夫だよ。
幽霊の時いつもフワフワしてんだから。
それに、魔石ペンダントを出してくれないと、魔法打ったり、出来ないじゃん。)
「そっそうですね。
駄目でしたか。なら、出しますわ。」
リリィが魔石ペンダントを皮の胸当ての前に出す。
……うん。固いね。……勿体ないなぁ。
そんな事を思いながら、リリィと俺は森の中に入っていくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おっゴブリン発見!
俺はサンダーボールを発動する。
ゴブリンに直撃し、ゴブリンは全身電気ショックを受け倒れる。
リリィは、それを見ながら他のゴブリンに肉薄し、アイアンソードを振るう。
圧勝だ。
なかなか、俺とリリィのコンビネーションは上手くいっている。
こんな感じで魔物を倒しながら、薬草を探している。
見つけたら採取する。
ほぼ採取量が規定を超えた頃だった。
「みっ見つけたぜ!
てめぇ!昨日は何しやがった!
舐めた真似しやがって!
俺達ゴブリンの嘆きに、はむかったこと後悔させてやる!」
昨日痙攣させてやったゲスのゴブリンの嘆きの三人だった。
どうやらリリィに逆恨みし、探していたようだ。
「フミヤ様。どうしましょうか?」
(やるしかないだろう。まあ、また痙攣させて終わりだしって!リリィ右に避けて!)
リリィは、右に飛び退く。
元いた場所に、サンダーボールが着弾する。
あのエルフやろう!リリィに魔法をぶっぱなしやがった!
チャラい痩せ型戦士が言う。
「おい!魔法は、なしだ。とっ捕まえて犯し尽くしてやるんだからな!」
やっぱりコイツゲスイわ。
この世界の男はこんな奴ばかりなのか!
腹立ってきた。
(リリィ。腹が立ってきたから、俺が全て終わらせるよ。)
「はい!お願いします。フミヤ様。」
「何をごちゃごちゃ独り言いってんだよ!
まあ、すぐに喘ぎ声を奏でるんだがな。
ひひひ。」
俺は、エルフの男に憑依する。
そして、痩せ型のチャラい戦士を後ろから殴りつける。
「グッへ!なっなにすんだよ!」
そして、続けてざまに俺(エルフ)は、痩せ型チャラい戦士の右足に向けてウインドカッターを発動する。
「おっあああぁぁぁ〜おっおれの足が〜」
右足首切断完了。
間髪入れず、弓士の右腕目掛けてウインドカッター。
「なっ!なんで俺達に魔法を撃つんだ!
いっ痛えよ!痛え〜あああああ〜!」
右手首切断完了。
あっ!失血死したらマズイな。
確か、昔本で読んだ。
切断面を燃やせば、血は止まると。
でも火属性魔法ないしな。
雷属性でも止まるかな?
痩せ型チャラい戦士の右足首の切断面にサンダーボールを投げつける。
おお!焼けた!
血は止まったみたい。
弓士の右手首にも同様に。
よし、完了。
そして、リリィの胸元の魔石に向けて憑依する。
エルフが痙攣する。
リリィが呆れたように言う。
「フミヤ様。魔法を使われるならエルフに憑依する必要なかったのでは?」
(いやあ。なんか腹立ったから、殴りたかったんだよ。それに、魔石から魔法放つより何か精度が高いような気がすんだよなぁ。
手は偉大だよ。)
そう言った時、後ろから声がする。
「お〜い。お姉さん!大丈夫?」
少年少女の四人組だった。
「そいつらが、お姉さんを襲おうとしているの見ていたんだけど……私達Gランクだから…
Dランクの人には敵わないと思って…
ごめんなさい。ただ見てるだけでした。
でっでもお姉さんどうやって倒したの?
訳わからないんだけど。」
(リリィ!丁度いいや。この子達に証人になってもらおう!
こいつら、衛兵に捕らえてもらうんだ。)
「ああ!なるほど!フミヤ様流石ですわ。」
少年少女達は、リリィを不思議そうに見ながら言う。
「おっお姉さん?どうしたの?何と喋ってるの?」
「いえ!ひっ独り言です。
ごめんなさい。こいつら、衛兵に捕らえてもらいます。悪いのですがロープか何かないかしら?」
少年がロープを出してくれた。
それで、三人を縛りあげる。
「貴方達。コイツらが私を襲ったことの証人になってくれませんか?
コイツらは衛兵に捕まれば、持っているお金などは、私に全て入ってきます。
それを貴方達に全てあげるわ。
まあ、こいつら、あまり持ってないかもしれないけど。」
少年少女達は、おお!っと盛り上がる。
証人確保だ。
(リリィ。それじゃあ、手伝ってもらってコイツらを連行だ!)
「はい。わかりましたわ。フミヤ様。」
「お姉さん!また、呟いてる。」
「あっ。ふふふっ。気にしないで〜
私の癖なの〜。私はリリィよ。
貴方達が見ていてくれて助かったわ。ありがとう!」
「ふふふっ。お姉さん。私閃いたよ。お姉さんの二つ名。呟きリリィだね。
呟きリリィっていう二つ名、なんかカッコいいよ。」
「それは……勘弁してほしいですわ。」
少年少女達がドッと笑う。
リリィは、困った顔しているのだった。
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