265話 禁呪の代償
どこか密談の出来る部屋……転移部屋がいいかな。元は物置で転移用の部屋にするため整理してもらっていて、ほどよく広くて何もない。
「紹介しましょう。俺の嫁の一人のサティ・ヤマノス。それとこっちが俺の師匠の剣聖、バルナバーシュ・ヘイダ。どちらも俺と同じくらい信用できます」
部屋には俺とサティに師匠。神託の巫女の側は、護衛二人にローザちゃんだ。禁呪の話をするのだ。双方信用できる者だけに絞って、他は部屋の外で待機してもらっている。
「しかし巫女様、ローザは……」
そして神託の巫女様から護衛の二人を紹介されたのはいいが、その護衛からローザに関して疑義が入った。
「ローザは国に戻ればそれなりの地位に付き、この話はいずれ知ることになるのです。それにローザは十分に信頼にたる者です。そうですね、ローザ?」
「は、はい。巫女様の信頼を裏切るような真似は決して致しません」
ローザちゃんは何が起こるのかよくわかってない不安そうな面持ちでそう答える。
「一体何が……?」
「ローザ、詳しい話は後でしてあげます。ただここで見聞きしたことは決して誰にも話さぬように」
そう護衛の一人に言われ、大人しく神託の巫女の後ろに控える。しばしの沈黙の後、神託の巫女、イオン様が切り出した。
「禁呪を使ったらしい。そう聞いております」
帝都での査問会の話はさすがにまだ伝わってないらしい。
「間違いありません。ですがその件は先日帝都大神殿で報告して問題はないと言われてますよ」
問題ないと言われたというか、使徒に口出しするなで押し通した感じだったが。
「事の是非を問うつもりはございません。ただ……」
またしばしの沈黙。
「それは死者を蘇生するほどの術だったと聞いております。何を代償にいたしましたか?」
「代償、ですか? 禁呪は命を削って使うものだと聞いていましたが……」
「それは正確ではありません。禁呪の条件は三つ。治癒術師としての腕、信仰心、最後に代償です。そして代償は必ずしも命である必要はないのです」
俺は禁呪を使うつもりはないのに、すっかり禁呪の話になってしまっているが、なにやら非常に興味深くなってきたので続けてもらおう。
「わたしくはこれまで三度みたび、禁呪を使用いたしました」
マジ? マジかよ? 俺に散々使うなって言っておいて、神託の巫女様、三回も使っちゃってるぞ? 神殿どうなってんだよ?
「え、それは大丈夫なので?」
神殿のリテラシーとか神託の巫女様の生命とか色んな意味で。
「あまり大丈夫ではございません」
大丈夫じゃないかー。いやそれってものすごく大変なことでは?
「一度目の術で髪から色が抜けました」
「思ったよりも軽い代償なんですね?」
「そうでございますね。やはり一度目は練習、実際に使えるのかどうかも兼ねてのものだったからでございましょう。そして二度目の術で右手が動かなくなりました」
そう言って、左手で右手を持ち上げて俺に見せる。右手は左手に持たれるまま、力なく垂れ下がっている。
「肩は動きますが、肘から先はまったく動かすことができません」
「それが代償……」
「はい。命を削るより多少は良いかと思いまして」
良いのか? 確かに魔法使い、治癒術師であれば腕の一本なら問題ないと言えば問題ない。
「そして三度目で目を。だからこの目は決して治すことはできないのです」
禁呪に代償を求めるとするなら、回復魔法で治せるようでは代償とはとてもいえまい。
「禁呪というのは自らの命を糧に、他者を治療する術だと思っていました」
だが俺の言葉に神託の巫女様は首を振った。
「禁呪とは代償を糧に、諸神に願いを叶えてもらう術なのです」
神の力だ。ほぼどんなことでも可能だろう。だから信仰心が必要なのか。たぶん神へと声が届くくらいの信仰心がないと、そもそも気がついてももらえないとかそんな感じだろうか。そして高い信仰心があれば、妙なことも頼まない。
「マサル様は何を代償に差し出しましたか?」
命。そのはずだ。特に指定はしなかったんだから。だが命を削った感はまるでなかった。ヒラギス戦後に数日寝込んだが、それはいつもの魔力酔いと極度の疲労と合わさった物以上ではなかったし、回復した後はいつもどおりの健康体だった。
まだたった一回だから目に見えるほどの影響がなかったのだろうと、アンと話し合って結論付けたのだが……
「それはこちらで選ばせてもらえるんですよね?」
「はい。神にご満足いただけるような代償であれば。そしてこちらで選ばなければ、またそれが足りなければ命の幾分かを捧げることになるようです」
そして代償は自分の身からでなければならない。たとえば羊を連れてきて命を代償に治療をとかはできない。まあそれだとまるっきり邪教のやり口である。
神託の巫女様の話を聞き終えて考える。あの時のことは日誌に詳細に書いておいたし、克明に記憶している。
俺はあの時願った。使い方がわからない禁呪を成功させるために神頼みをしたのだ。信仰心を捧げるから、今後神の忠実な信徒となるから、どうか術を成功させてくれと。
果たして信仰心は代償足り得るのだろうか?
神託の巫女様から聞いた代償からすると信仰心では抽象的な感じがするが、確かめる方法はある。日誌で直接聞けばいいのだ。答えてくれないかもしれないが。
「すいません。ちょっと時間をください」
そう言って部屋の隅へと移動する。あとでゆっくりやればいいかもしれないが、ものすごく気になるのだ。寿命か信仰心かで、俺の残りの人生は大違いである。
日誌とペン、インクをアイテムボックスから取り出し、置いてあった木箱を台にして手早く質問を書き込む。
禁呪の代償は信仰心か、それとも寿命だったのか?
伊藤神はネタバレ的な質問には決して答えてはくれないが、これは自分に関することだし、過去の情報だ。答えてもらえる可能性は十分に高いはず。
文字に息を吹きかけて乾くのを待って日誌を仕舞う。そわそわするのを我慢するため、二度三度と深呼吸をする。回答があるならさほども待たずに書かれているはずだ。
もう何度か深呼吸をして待ち、日誌を再び取り出し、ページを開く。
【捧げられた代償は信仰心である】
やった! 俺は勝ったぞ!
「ありがとうございます」
思わずそう言って手を組んで祈った。神様、感謝します。
不思議そうに俺を見ているサティに、後でなと言って神託の巫女様の前に戻る。
「大変貴重な話を聞かせてもらいました」
そう言って軽く頭を下げる。
「それで……」と、神託の巫女様。
そうだった。俺の代償が何かって話だったんだな。話したほうがいいのか。黙っていたほうがいいのか……
まあいいか。仲間にしようというのだ。初手から隠し事をするようでは信用は得られないし、向こうも教えてくれたのだ。
「信仰心です」
場に沈黙が落ちる。
そうか。信仰心が答えでは意味が通らない。説明が必要だ。
「俺は禁呪の説明は受けてましたが、使い方は知らされていませんでした」
そう話し出すと神託の巫女様が頷く。まあ当然だな。代償が命でなくても、右手や目が使えなくなるほど重いのなら、やはり広めるべきじゃない。むしろその程度で使えるならばと、禁呪の使用を考える輩が増えてしまうかもしれない。
「だから祈ったのです。どうか術を成功させてください。今後は敬虔な信徒となります。信仰心を捧げますと」
そして偶然にも禁呪の条件である信仰心をも満たした。果たしてあの時、命を捧げるだけで術は成功しただろうか?
「信仰心……それはそれまで信仰心がなかったと言うことなのでしょうか?」
「なかったというと語弊がありますが、敬う心が薄かったのは確かです。あまり神殿に関わってこなかった普通の人程度と言いましょうか……」
神という存在に対する尊敬心は元から多少なりとも合ったし、伊藤神をちゃんと敬ってはいたはずだ。だが出会いが雇い主としてで、基本的には上司としてみていたのだ。
「それは……いえ、マサル様ならば……」
何か一人で納得している様子だ。使徒なのは査問会の情報が伝わってない以上まだ知らないはずなのだが……
「イオン様は俺のことをどこまでご存知です?」
そもそもなんで初対面から加護が付いたのか。その謎の解明も必要だ。俺たちが知られるようになったのはやはりヒラギス居留地でのアンの働きからだろうか。だがそこで俺はさほど目立ってはいなかったはずだ。
その後はビエルスで修行で、そこで剣聖の弟子となってそこそこ名は知られるようにはなったが、それでも所詮は何人もいる弟子の一人にすぎない。地元では高名でも神国に話が伝わるほどでは到底なかったはずだ。
ヒラギス奪還作戦ではエルフに偽装して行動していて、俺のことが大々的に広まるのは戦いの終盤も終盤。光魔法を覚えて以降だろう。
だが答えは予想外のものだった。
「マサル様の存在を知ったのは、エルフの里が魔物に攻められていた時でした」
エルフの里の時って……俺はほぼ無名だったはずだし、そもそもエルフから情報が漏れるとは考えづらい。エルフは神殿とはあまり仲が良くないからだ。諸神の神殿もエルフの里にはない。
そしてそれならばもっと前、ゴルバス砦や、そのもっと前。仮面神官なんてことをやっていた頃のほうが納得できる。
「お名前を知ったのはリシュラの王都の時です」
「それって変じゃないですか?」
エルフの里の戦いで俺のことを知ったのに、名前がわからなかった? それこそ意味が通らない。
「はい。精霊はお名前までは教えてはくれませんでしたので」
「精霊? 精霊ってエルフの?」
エルフでも冒険者やギルドでもなく精霊?
「はい。神託の間の泉には古くから精霊が住み着いておりまして、その日は朝から落ち着かない様子でしたので、わたくしどうしたのかと尋ねたのです」
精霊には幼い子供、三歳から五歳児程度の知能があるとリリアは言っていた。俺も一度か二度、言葉を聞いたことがある。
「そうしたらエルフの里が魔物に攻められているとお話をしてくれたのです」
「神国に居る精霊が?」
「はい。わたくしもその時初めて知ったのですが、精霊はどうやってかエルフの里の精霊とやり取りができるようなのです」
エルフたちはその日のうちに魔物を撃退。精霊は嬉しそうに神の加護を持つ者がエルフを救ったと教えてくれたのだという。
「神の加護? それって……」
「俺には神の加護がある。つまり使徒だな。だから光魔法も使えたし、アンも神の加護がある本物の聖女なんだ」
思わず驚いて声を出したローザちゃんにそう答えてやる。
「しかしすぐに何も教えてくれないようになったのです。それに精霊の言葉はふんわりしすぎて要領を得ないものばかりで個人の特定ができなかったのです」
それは俺が制限をしたからだ。戦後のエルフの里の祝勝会で、精霊が俺に対して、神の加護を受けし者達に感謝を捧ぐ、そう語りかけてきたのだ。だから俺が使徒であることはあの当時はトップシークレットだったし、俺のことは人に話さないようにと頼んでおいた。そして俺の知らないところでちゃんと実行されていたようだ。
それに情報を得ようにも距離の壁も大きかった。神国は帝国を挟んで反対側。それにエルフの里は王国でも辺境だ。簡単な手紙のやり取りをする程度でも容易なことではない。
「エルフの里での戦いのお話は現地の神官からの情報があったのですが、マサル様を特定するような情報は得られませんでした」
エルフの里の防衛にかなりの数の冒険者が関わっていたし、俺たちの役割は外には漏れなかったようだ。やはりエルフは信用できる。
しかし必要な情報は王都で得られた。王都のエルフの館で世話になり、王女リリアーネと行動を共にする冒険者。間違いない。
それからはずっと俺たちの行動を密かに追っていたのだという。以降は追うのは簡単だったそうだ。帝国なら神国の隣国であったし、スパイとかを特に派遣しないでもどこでも神官が居て、アンは必ず神殿には立ち寄っていた。神殿の名前でのボランティア活動もよくやっていたしな。
「あ、もしかして募金活動に賛成してくれた上の方の人物って……」
「差し出がましかったかもしれませんが、わたしくどうしても何か手助けがしたくて」
帝国大神殿の面々は聖女にも懐疑的で、ヒラギス居留地でやった募金活動を中止するように言ってきた。勝手なことをするなと。その後、更に上のほうからやっていいという許可が出たという経緯があったのだ。
「聖女認定の後押しも?」
「はい」
それで査問会でも神託の巫女様の名前が出てたのか。募金活動への支援はありがたかったが、聖女の正式認定はあまりありがたくはなかったが……まあ仕方ないか。どっちにしろ聖女認定はされただろうし。
ヒラギス戦でエルフに偽装していたのも、やはりあまり効果がなかったようだ。アンは顔出しして治療に攻撃にと大活躍だったものな。
その後は言わずもがな。光魔法に禁呪だ。
ずっと俺の追っかけをしてたのか。エルフの里の戦いからだと半年以上だな。それで俺を見た瞬間、感極まって加護が付いた? これが勇者。本物の勇者が目の前に。いや目は見えないけど。
「それで治療の話ですが」
話を戻そう。
「はい。ですから禁呪での治療では意味がないのです」
「ええ、俺も禁呪は二度と使うつもりはないです。聖女様、アンにもずいぶんと怒られましたし」
寿命にしろ目にしろ右手にしろ、どれも致命的すぎる。信仰心が代償になって本当に助かった。
しかし疑問が残る。
「なぜ三度も使ったんです?」
これほど禁じられ、それほどの犠牲を払ってまで。
「ミスリル皇族のお役目なのです」
「巫女様、それはっ」
後ろの護衛が声を荒げる。
「良いのです。マサル様は使徒なのですよ。しかも禁呪を使えるのです。知る権利はあるでしょう」
神託の巫女、そして禁呪の使用。それは代々引き継がれた役目なのだという。
「わたくしは皇族でも分家の分家。皇族ともいえないかなりの傍流の出だったのですが、今はファイマウル家の養子となっております」
ミスリル神国は皇家が六つあり、皇帝を回り持ちする。そのうちの一つ、ミスリル六選帝侯ファイマウル家。現皇帝は神託の巫女様の兄なのだという。義理ではあるが。
はい、解散。仲間にすることは進めるが、ハーレム入りは諦めよう。
「わたくしは生来病弱な質でして、あと半年、あと一年しか生きられないと幼い頃から言われ続けておりました」
頻繁に熱を出し倒れ、普通の子供のような生活は送れなかった。もちろん治療の試みは何度もなされた。分家とはいえ、皇族に連なる貴族だったのだ。しかしどれも無駄に終わり、部屋に閉じこもる生活が続く。本だけが慰めだった。たくさん学んだし、物語もたくさん読んだ。
きっと勇者の物語も。あれは俺が読んでも面白かった。
「才能があったようで一〇になる頃に回復魔法を習得したのです」
治療に訪れる神官に家庭教師も神官だったし、毎日のように使われる回復魔法に興味を持つのは必然だった。
自ら回復魔法が使えるようになったとて病弱が治るわけでもなかったのだが、転機が訪れた。先代の神託の巫女がイオン様に興味を持ったのだ。自らの後継者の候補として。
「先代様は自らの姿をわたくしにすべて見せて、禁呪の説明をしてくださいました」
まだ中年くらいにも関わらず老女のような老いさばらえた姿。目は当然見えず、歩くこともできず、人に甲斐甲斐しく世話をされねばまともに暮らすこともできない有様だった。
そして尋ねた。このお役目を引き継ぐことになる。それでも体を治したいか?
「わたくしは迷うことなく頷きました」
先代の最後の禁呪により神託の巫女様はすっかり健康になった。そしてイオン様の最初の禁呪の使用も問題なく、つつがなくお役目を引き継いだ。
「最後の……?」
まさか先代さん死んじゃったの?
「あ、いえ。一応はお元気に過ごしてらっしゃいますよ。助言やお力添えをしていただいているのでわたくし、かなり自由に過ごさせていただいております」
役目を引き継がせた負い目もあるし、いずれ不自由になるのだ。せめて今のうちだけでもという思いが先代にもあるのだろうか。こうして勝手に帝国に来れる程度の自由はあるらしい。
「他には使用を禁じながら、神国はお役目と称して使い手を確保し続けたと?」
確かにこんなこと、漏れれば大変なことになる。
「それで救われる命があるのです。マサル様ならお分かりでございましょう?」
それに関して俺は言える立場じゃないが、それでも納得し難い話ではある。
「二度目の術の行使のお話をいたしましょう。神国のとある近隣の国でのことでございます」
三人の王子が居て、王位を継ぐという時期になって長子に毒が盛られた。長子は優秀で公明正大な人物で次男は気位ばかり高い暗愚。三男は冷酷非情で暗い噂の絶えない人物で、誰が王位に相応しいか、誰の目にも明らかだった状況での出来事だった。
長子の命はぎりぎり治療が間に合い助かったが、毒の影響でとても王位を継げる状態ではなくなってしまっていた。
二人の弟は戦支度をしていて、王位を合法的に譲れと父王に脅しをかける。次男が王位を継いで三男が宰相するつもりだったらしい。
もちろん王はそんな要求を飲むつもりもなく国は内乱になりかけていたし、二人の王子がスムーズに王位を継いだところで国が荒れたのは間違いない。このままでは多くの人が苦しみ、命を落とすことになる。
「そこでわたくしが治療に赴きました。回復した王子に弟二人は討ち取られ、長子の王子がつつがなく王位継ぎました」
正式な王位継承者であったし元より人望に差があった。長子が存命なら弟二人の勝算はまったくない。弟二人の味方はあっという間に霧散し、戦いにもならなかったという。
皇族で神託の巫女の右手を犠牲にしてまで治療したのだ。この件で神国に大きな借りを作ることになったし、これから先、またどこかで治療が必要になるかもしれない。神国の権力は宗教に頼らずとも絶大なものとなる。
「三度目は?」
一度目が練習で、二度目がこれ。
「それは少々言いにくい事情がありまして。話すのはお許しくださいませ」
禁呪は切り札となりうる。だから神殿の上層部は禁じられた術にも関わらず禁呪のことを知っている。いざという時に活用するために。
こうなると禁呪であるというのもとても胡散臭く思えてくる。神国が独占するためか? それとも術により高い価値を持たせるためか。どちらにせよ権力者によっていいように利用されている。
そしてこれからも。
「賭けをしませんか。もし禁呪に依らず、その目を治療できれば……」
仲間になれ? 違うな。
「もう二度を禁呪を使わないと約束を」
しかし神託の巫女様は首を振った。
「世界の安定のため、犠牲になるのはわたくし一人の命。ましてやたかが片手や目です。今日もどこかで魔物との戦いで兵士や冒険者が命を落としているのです。それと何が違うのでしょうか?」
違う。そんなことはとても言えない。だが加護が付いたのだ。身を削って治療するよりよほど世界の役に立つようになる。より多くの人を救える。
「では俺の仲間になるというのはどうです?」
治らないことも考えられるが、それならば目に見えない状態での冒険者活動など自殺行為だし、無理に仲間に加えようとは思わない。
「大変嬉しい申し出ではあるのですが、お役目がございます」
ああ、禁呪じゃなくて神託のほうか。
「でもここ最近は神託はないんですよね?」
「それでもとても大切なお役目です。わたくしの一存で放り出すことなどできようはずもございません」
それもどうにかなる。神託なんてノートに返信が来るくらい簡単なものなのだ。だいたい神託の巫女様のほうの神託は石版に書かれるのだ。その場所で待っている必要も必ずしもないから、こうやって他国に出ても問題ないのだろうし。
「そういえばサティ、いま日誌を書いてただろ」
突然の話に神託の巫女様たちは戸惑っているが、サティがうんうんと頷いたので構わず話を続ける。
「イオン様から聞いた禁呪の話で、俺の代償が何かが気になって聞いてみたらすぐに返信があったんだ」
「ああ、それが信仰心って話なんですね?」
「そうだ。俺はちゃんと長生きできるぞ」
「それはリリア様が大喜びしますね!」
むろんサティもとても嬉しそうだ。そして神託の巫女様に向き直って言った。
「俺はイトゥウースラ様の使徒です。神託をちょくちょく賜りますし、質問に答えてくれたりちょっとしたお願いを聞いてくれることもあります。実際にお会いしたこともあるんですよ」
あれが、あの方が本当に神様なのだろうか? 否定する材料もないが、確認したわけでもない。しかし異世界への転移や最初の神託、スキルやステータスの付与はとうてい人の為せる技ではない。まあ姿形が普通の人っぽいというだけで疑う理由もないのだが。
「だから先程の質問にすぐに答えが得られた。代償が信仰心だと確信を持って言えたんです」
神託の巫女様たちは驚きのあまり声もでないようだ。それとも神様会ったことあるなんて言われて戸惑っているのだろうか。まあそれはどちらでもいい。
「じゃあ仲間になるとかは考えてくれるだけでいいですよ。とりあえず治療を試してみましょうか?」
なにやら長々とした話になってしまったが、スキルをちょいっと上げるだけでまったくノーリスクでできるのだ。たとえ仲間にならなくとも間違いなく貴重な協力者にはなるんだし、俺からあえて大きな要求することもない。
俺の提案に神託の巫女様は頷き言った。
「もし再び目が見えるようになるなら、わたくしは……」
しかしそこで神託の巫女様の言葉が尻すぼみに止まった。あたりをキョロキョロと見回し、そして俺の顔を見て一層目を見開いた。
いまちょちょいっと神託の巫女様の鷹の目スキルを取ってみたのだ。どうやら成功かな?
「こ、これは……こんなことが……」
「ちゃんと見えてますか? それは良かった。大丈夫ですよ。時間はいくらでもありますから、まずは落ち着いて」
まずは落ち着いてもらってからお話だな。仲間にするにもお互いをもっと良く知る必要がある。そう、たとえば神託の巫女様に彼氏がいるのかどうか、とか。
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