243話 捜索

「マサルが一人で転移してどこかに行った?」




 帝都のエルフ屋敷に様子を見に来たエリーが見たのは、サティにしがみついてしくしくと泣いているミリアムと、厳しい表情の剣聖バルナバーシュ殿だった。




「うむ。ウィルを送っていった後、エルフの里に行くとマサルが言って転移魔法を詠唱したのだが……」




 転移は確実に発動していたように見えた。それからすでに二刻4時間近く経過している。いくらなんでもおかしい。


 マサルがその前に転移を一度中断して、あれ? と首を傾げていたのが気にかかるが、すぐに次の詠唱を始めたので、サティたちにはその理由を聞く暇もなかった。


 


「一度ここに戻ってマサル様が来てないことがわかったので、もう一度、王城の周辺とこの屋敷の近辺も探してみたのですが」




 そうサティが言う。だがマサルは影も形もない。屋敷に常駐しているエルフも当然誰一人マサルを見たものはいない。




「帝国がなにかしたって線はないのね?」




「監視も外れて、周囲にも人の気配はまったくありませんでした」




 サティと剣聖の目を逃れて何かできる者が、この世界に存在するとは考え難い。




「とりあえずエルフの里に行ってみるわ」




「一緒に行きます!」




「い、いきますぅ」




 エリーの言葉にサティとミリアムが立ち上がる。




「ワシは残ってもう一度王城の周辺を探ってみよう」




 エルド将軍に探りを入れることも考えたが、転移術師の誰かが来てマサルの不在がはっきりするまで待つべきだと思ったし、もし帝国が何かしらの関与をしたとしたらエルドも敵に回るかもしれない。慎重にいかねば。そう剣聖は考えた。




 エルフの里でもマサルを見た者はいなかった。そしてマサル行方不明の知らせが関係者すべてに伝達され、一斉に捜索が開始された。


 マサルが行ったことのある場所。転移ポイントを設定してそうな場所すべてが念入りに調べられた。だがどこにもマサルの痕跡すらない。




 それで一旦集まって善後策を協議することとなった。




「帝国が怪しいんだけど、転移にどうしたって手なんか出しようがないのよね」




 それに怪しいだけで疑いをかけては帝国も嬉しくはないだろうし、もし帝国が何かやったのなら問い合わせて素直に答えるとも思えない。




「しかし魔法にはわかってない部分も多かろう?」




 リリアが言う。魔法に長けたエルフですらそう考えているのだ。特に空間魔法に関しては使い手が少ないこともあって研究が進んでいない。




「マサルが何か変なことを思いついて、変なことをして、変なことになっているとか?」




 そうアンが意見を出した。




「例えば転移ポイントがない場所に転移する方法を突然思いついて試してみたとか。それで変な場所にはまり込んで、身動きが取れなくなった」




「やりそうだけど、サティやミリアムがいるのにそんなことするかしら……それよりも神様が何かしたって線はないかしら?」




 使徒たるマサルを何かの理由があって回収した。




「それならもう手の出しようがないな」




 剣聖が難しい表情で言う。




「アンチマジックメタルは?」




 そうティリカが言う。以前ティリカは召喚魔法をアンチマジックメタルで失敗させられた経緯があった。




「あれは魔法を阻害するのであって、発動した転移をどうこうできるとは思えないけど……」




「じゃが実際に扱ったことはなかろう?」




「エルド将軍が回収したアンチマジックメタルは帝都に送ると言っていたわね。今頃輸送中かしら? 少しうちでも確保しておけば良かったわね」




 色々と意見を出してはみるが、どれも想像の域を出ない。決め手に欠けた。




「ウィルにも手紙を出して知らせておきましょう」




「捜索の人員を増強して帝都に投入するのじゃ!」




 やはり帝国が第一の容疑者だ。最後にマサルが居た場所でもある。




「他に何か意見は?」




 そのエリーの言葉にサティが手を挙げた。




「もしマサル様が戻ってきて、色々なことがまったく進んでないと知ったらどう思うでしょうか?」




 サティの思わぬ言葉に皆の注目が集まる。




「ウィルさんとの別れ際、マサル様は言いました。ここから先、連絡すらできないかもしれないから。そうしたら自分でできる最善のことをやるんだって」




 まるで自分が居なくなるのを分かっていたかのように。サティはそんな思いを振り払い、話を続ける。




「もちろん今はマサル様の捜索が最優先です。ですが他のこともなるべく止めるべきではないと思うんです」




 ヒラギス関連で仕事は山積みである。




「そうじゃな。少々浮足立っておったかもしれぬ。我らはマサルがいないと何もできぬ無能では断じてないはずじゃ」




「予定は変更しない。日常生活を大事にしろって何度も言ってたものね……」




「そうね。これまでの仕事に優先度の高いマサルの捜索が加わったと考えて、人員とかスケジュールを少し考え直しましょうか」




 リリアとアンが言い、エリーがそうまとめ、ほんの少し前向きになった話し合いが、今しばし続けられることとなった。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 帝国王城某所。




「ウィルフレッド弟が帰ってきた?」




 お茶を楽しんでいた姉妹の下に、そう従者からの知らせが入った。ヒラギスへの婿入りやヒラギス奪還作戦での活躍の話は、王城内でもすでに大きな話題になっていた。だがあのウィルフレッドがヒラギスで大活躍したなどと、婿入りの箔付けのために盛って盛って盛りまくった話に違いないのだ。


 時には町へと突入して魔物を殲滅し、時には剣士隊を率いて城門へと迫る魔物を食い止め、エルフの魔法部隊を指揮しては魔物をことごとく駆逐せしめ、弓を持っては一〇〇発一〇〇中。剣闘士大会に出場予定で優勝候補。


 ない。そんなことは絶対にあり得ない。それに剣聖の弟子? きっとエルド将軍の口利きでねじ込んだのね。そうウィルの姉、ヴァイオレットは確信していた。




「ヴァイオレットお姉さま、ウィルフレッドお兄様に会いに行きましょう!」




 末の妹のオルフィーナが無邪気に言う。ウィルの母親たちは夏の離宮で避暑を満喫しており不在である。この二人は田舎は退屈だと王都に残っていた。ウィルの母親が正室で側室が二人おり、三人で八男六女を産んでいる。オルフィーナは側室の子でウィルやヴァイオレットとは異母兄弟ではあるが、女子に関してはわりと別け隔てなく育てられていた。




「そうね。かわいい弟が帰ってきたんですもの。無事をこの目で確認しないとね」




 化けの皮を剥いでやろう。そう考えつつも、ヴァイオレットにとっては唯一の弟である。嬉しさを隠しきれない様子でいそいそと立ち上がり、従者へと案内を頼むのだった。




 王族の生活エリアの広々とした居間に王家一家は集まっていた。




「ヴァイオレット姉上、オルフィーナ。久しぶり」




 そういうウィルフレッドの声に元気はなく、顔色もあまりよくないようだった。ははーん、やっぱりいつ嘘がバレるかもとびくびくしているのね。でもダメ。姉に隠し事なんて許されないわ!




「剣聖の弟子になったんですって? ウィルフレッドの腕前、ぜひ見てみたいわ」




 挨拶もそこそこにヴァイオレットは言う。さあ、さっさと謝ったほうがいいわよ。そんなことを考えながら。


 しかしウィルフレッドはすっくと立ち上がり、頷いて言った。




「そうですね。見せるのが一番早そうです」




 そう言ってニコリと笑うウィルフレッドの顔付きは、家出をする前よりずいぶんと精悍に見えた。




「一番強いのは誰ですか?」




 王家の森にある修練場に出たウィルフレッドは訓練用の剣と盾を手にすると、護衛騎士の面々を前にして不敵にもそう言ってのけた。




「騎士団長!」




 お父様の呼びかけに一際体格のいい騎士が進み出る。黒の親衛騎士団団長、オルグへッグ・マーカス。ひょろっとしたウィルフレッドなど一撃で吹き飛ばされそうだ。




「私も昔、ビエルスで修行をしたことがあります。腕には自信があったのですが、剣聖の弟子になるどころか、オーガの一〇位にすら届きませんでしたよ。ウィルフレッド様の腕前、見せてもらうのが楽しみです」




「ああ、一〇位を超えるとみんな強いですからね。私も初めて戦った時は五位に負けてしまいました。それでも弟子へと引き上げてもらって、とても運が良かった」




 今五位のあいつと戦えば勝てるだろうか? そんなことを考えながら剣と盾の具合を確かめる。




「その格好でよろしいので?」




「ええ、この下は鎖帷子ですし、訓練用の剣です。全力で来てもらっても構いませんよ」




 そう言うとウィルフレッドが剣と盾を構える。ヴァイオレットは剣のことはあまり詳しくはなかったが、ずいぶんと堂に入った、自信に満ちた構えに見えた。




「行きますぞ!」




 そう言って上段から振り下ろされた剣に、ウィルフレッドが殺される!? そう思って思わず顔を背け目を閉じてしまったが、数度の激しい剣と剣とのぶつかる音が静かになってから恐る恐る目を開けると、膝をついていたのは騎士団長のほうだった。




「副団長!」


 


 二人目もそう長くは保たなかった。三人目などひたすら守りに回った挙げ句、ウィルフレッドの剣から逃れようとして派手に吹き飛ばされたのを見て、ヴァイオレットは言葉もなかった。




「こ、これほどとは。まるでエルド殿を相手にしたような……」




 王家直属の親衛騎士団でも腕利きのはずの三人が、ろくな相手にもならなかった?




「弓、弓も見せるのよ、ウィルフレッド!」




 どうやら剣の腕は本当に本当らしい。だが弓まではさすがに嘘だろう。




 だがウィルフレッドは移動した弓の修練場で、二〇メートル先の的に軽く当ててみせる。




「ふ、ふうんなかなかやるじゃない。でもたった一回じゃまぐれかもしれないわ」




 一番近い場所の的である。たぶん当てるのなんてすごく簡単に決まっている。そう根拠なくヴァイオレットが考えて見ていたところ、二射目が二〇メートルの的を外し、あらぬ方向に飛んでいってしまう。




「ほら……あ?」




 二つ目の矢は50メートル先の的のど真ん中に当たっていた。




「次です」




 そう言うウィルフレッドが、これまでより慎重に狙う的が今度ははっきりと見て取れた。一番遠い、一〇〇メートル先の的。ウィルフレッドの手から放たれた矢は、ひゅうんとキレイな放物線を描き、的のど真ん中に突き刺さった。




「やっぱり動かない的に当てるのは簡単ですね」




「お兄様、すごいすごーい!」




 オルフィーナの声と拍手に、見物に集まってきていた騎士たちからも拍手と歓声があがる。




「さすがはワシの孫じゃ! これほどの牙を隠して持っていたとは!」




 お祖父様がそう称賛するが、牙を隠していた? ヴァイオレットは生まれた時からウィルフレッドの面倒をずっと見てきていたのだ。剣も、弓も、学問も。何をやらせても並程度。ちょっとした魔法すら使えず、どこまでも平凡だったのがウィルフレッドという少年だった。それが一年も経たずにこんなにも変わるものなの!?




「魔法……まさか魔法も使えるなんてことは……」




「魔法は才能がなかったみたいで」




「そ、そうよね!」




「簡単な魔法しか」




 そう言ってあっさりとライトの魔法を使ってみせた。




「ど、どうして?」




 何がどうなってここまで変わった? こいつは本当に私の弟のウィルフレッドなのか。




「それは修行……それも血の滲むような……激しい、命がけの……修行を……」




「そ、そう。苦労したのね」




 何を思い出したのか、突然弱々しい雰囲気になったウィルフレッドが、ようやく自分の知る弟と被って少し安心したヴァイオレットだった。


 うん。ちょっと……だいぶ変わったけど、これは間違いなくウィルフレッドだ。きっと私の長年の教育や助言が実を結んだのね。




「私のお陰ね!」




 その言葉に何が、と首を傾げるウィルだった。










「しかしこうしてみると、ウィルフレッドをヒラギスにやるのは少々勿体なく思うな」




 城に戻りながら道々話す王家一家。




「ですがお祖父様。もう大々的に発表してしまっております。今になってこちらから断るというのはさすがに問題があります」




 そう兄クライアンスがもっともな意見を言う。




「ウィルフレッドはまだ十七そこそこ。しばらく修行に出すと考えれば良いか」




「いえ、お祖父様……」




「ウィルフレッドほどの逸材。ヒラギスもそう簡単には手放さないのではないですか、父上?」




 そう父司令も言う。




「その時は……」




「お祖父様!」




「なんだ、ウィルフレッドよ」




 帝王が立ち止まって振り返り、移動の隊列もぴたりと止まる。




「そのことでお話が」




「言ってみよ」




「ヒラギス女大公との婚姻、お断りします」




「よく聞こえなかったが……いま、なんと、言った?」




 帝王には圧をかけているほどでもない平常の声音のつもりだったが、周囲は恐れおののいた。逆らえば殺される、ヴァイオレットなどもそう思って列の端で首をすくめた。




「まさかこのような良い話、断るつもりではあるまいな?」




「お、お断りします」




 そうウィルは震える声で言い切った。




「私には心に決めた方がいるのです。フランチェスカ・ストリンガーという名で――」




 フランチェスカのことを説明するウィル。同じ剣聖の弟子で王国の公爵令嬢ということや、剣闘士大会に出ることになった経緯。




「つまり、婚約すらしていないのだな?」




「そ、それはそうなのですが……」




「どうしてもというなら側室に迎えればよかろう。それならば反対はせぬ」




 譲歩された提案に、こんなときマサル兄貴ならどうするだろうか、そんなことをウィルは考えた。




(両方貰ってしまえー)




 ですよね。




「約束したのです。剣を捧げると」




 そうだ。剣に誓ったのだ。違えるわけにはいかない。そうウィルは決意を新たにした。これは誰のものでもない、自分だけの思い。誓いだ。




「ただの熱に浮かされた若造の戯言。一時の気の迷いだ」




「私は冷静です!」 




「ならば尚更冷静に考えよ。親の反対を押し切った婚姻で幸せになれるとでも思っているのか? 親の言う通りの相手と結婚するのが子にとっての最善の道だ」




 祖父は親ではないのですが。そう思ったウィルだったが、どうやら父上もフランチェスカとの婚姻には反対の様子だ。




「お前も年を取ればワシの選択が正しかったとわかろう」




 年を取ったら? 5年か。10年か。それとも20年後? その時にはもう世界がなくなっているかもしれないのだ。




「父上、お祖父様。いままでお世話になりました。私は家を出ます」




「馬鹿なことを考えるな」




「ウィルフレッドはもはや死んだものとお考えください」




 そう言って頭を下げ、ウィルは城の外へと歩き出す。マサル兄貴が時に過激に、性急に事を進める気持ちがウィルにもよくわかった。私たちには時間がない。


 迷惑をかけるかもしれないが、マサル兄貴ならよくやったと、笑って許してくれるはず。




「止めるのだ!」




 その言葉に護衛の騎士団がすばやく動き、ウィルの進路を塞ぐ。




「どうかお戻りください、ウィルフレッド様」




 オルグへッグ騎士団長がそう丁重に願う。




「私に勝てないことは先ほど見せたはずだ」




「数で囲みます。おい、応援を呼べ!」




 修練場は近い。そこにはたくさんの騎士たちが居る。




「殺しはしないが、痛いぞ?」




 ウィルがすらりと腰の剣を抜く。




「それはこちらのセリフですぞ、ウィルフレッド様。手加減して勝てる相手とは思っておりませぬゆえ」




 ウィルと騎士団が交錯する。だがウィルはひらりひらりと騎士団の剣を躱し、騎士団は一人、また一人と脱落していく。




「くっ、プレート装備の騎士をこれほど簡単に!?」




 ある者は頭を剣の腹で痛撃され、ある者は剣の鍔で鎧が凹むほどの衝撃を与えられた。




「囲め! 数で押すんだ! 一斉に飛びかかれ!」




 数人やられた程度ではその包囲は全く揺るがなかったが、怪我程度なら構わないがさすがに殺すわけにもいかないという縛りが、騎士団側の戦いを一層難しくしていた。




「フル装備で人の捕縛は不向きだな。動きが遅い!」




 一人対多人数の戦いはマサル兄貴に散々やらされた。ヒラギスでも何度も魔物の群れに相対した。それに比べればこの程度の相手。




「魔法だ。魔法で止めろ! 少々怪我をさせても構わん!」




 不意を打つように、ウィルに魔法が飛んでくる。だがそれも一つとしてまともに当たることがない。


 当たらない魔法攻撃に、味方へと当たるのも厭わずさらに攻撃が加えられたが、ウィルは手慣れた様子で的確に対処していく。




「その程度の魔法では全然ダメだ。私はもっともっと強い魔法使いと何度も何度も戦ってきた!」




 マサル兄貴の魔法攻撃に比べれば、速度も威力も何もかもが劣っている。まったく怖くもなんともない。


 いつしか騎士団はウィルを囲むばかりで、戦闘の動きもなくなってしまった。


 魔法もフル装備の騎士団では大きな傷とはなりえなかったが、それでも味方に当たるばかりでは攻撃を続けることはできなかった。




 それにウィルは明らかに大きな怪我をしないように手加減をしていた。だから余計に騎士団側も過激な攻撃手段を取れなかった。




「ダメです。これ以上は殺すつもりでもなければ止められません!」




 騎士団長の悲痛な言葉に帝王は大きなため息をついた。




「貴様らが無能なのか、ウィルフレッドが強いのか……」




「ウィルフレッド様が強すぎるのです。恐ろしく戦い慣れております。どれほどの実戦経験を積んできたのか……」




 決して騎士団が無能なのではない。ただ、剣聖の弟子クラスの達人を殺さず捕まえる。そんな経験が皆無だっただけだ。




「もう行っても? お祖父様」




「待て。フランチェスカとやらのこと、認めよう」




「お祖父様!? ヒラギスにはどう説明するのです?」




 兄クライアンスがそう異を唱える。だがどの道、ここでウィルが出て行けばヒラギスとの婚姻どころの話ではない。




「ここであったことを、すべて正直に話せばよかろう。騎士団を打ち破るほどの力と覚悟を見せたのだ。帝国の威信には少々傷がつくかもしれぬが、ウィルフレッドのことは強き帝国王家の象徴として良き宣伝となろう」




「お祖父様……」




「ただし! 剣闘士大会での優勝が条件だ。できねばヒラギス女大公と結婚してもらうぞ。良いな?」




「はい、お祖父様。必ずや優勝してみせましょう」




「良かったわね、ウィルフレッド!」




「格好いいです、ウィルフレッドお兄様!」




 ハラハラとして進展を見守るしかなかった姉妹がウィルフレッドに駆け寄る。他国の姫に剣を捧げ、戦う。まるで物語の主人公のようだ。そうヴァイオレットは思い、ウィルのことを大いに見直した。愛がウィルを強くしたのだと。




「宴の用意をせよ! ウィルフレッドの帰還を盛大に祝うのだ!」




 急遽催された宴会は、王家とその親しい者だけ集められた帝国としてはささやかなものだったのだが、そこで語られるウィルフレッド王子の武勇伝とロマンスにより、ウィルのことが広く知られるようになった。

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