240話 帝国首都へ

 光魔法の活用により俺たちの修行は一段、高いステージにあがった。光魔法による強化は当初、一見すると小さく思えた。だがぎりぎりのレベルでしのぎを削る達人レベルともなると、その小さな差が大きな違いを生むことがわかってきた。




「は、反則、これは反則でございますぞ……」




 シラーちゃんから腹にいいのを貰って蹲ったウィルが呻くように言った。昼ごはんの後だからその苦しみは想像もしたくない。




「ウィル、口調が変になってるぞ?」




 修行しながら王子様モードの練習中でもある。


 修行はまずはシラーちゃんを強化してみたのだが、パワー重視のシンプルな剣術だけあって、単純なスピードとパワーのアップは相性が良かったようだ。




「でもシラーはもうちょっと考えて動こうな」




 どうも考えて戦っている気配がない。本能的に戦ってるからこの剣が当たるという確信が持てず、寸止めが失敗する。もちろん当ててしまうのも織り込み済みでの立ち会い修行なのだが、俺たちの攻撃力で何度も全力の打撃を食らわされては体が保たない。せめて当たる瞬間、力を緩める程度の配慮は必要だ。




 シラーちゃんの剣は良く言えば素直な剣術だ。まっすぐな、力とスピードを重視した剣は修行で常に格上に揉まれた中で、不器用なシラーちゃんが自らの適性に合わせて練り上げた相性の良い剣なのだろう。


 実際にそれで十二分に戦えているし、魔物相手にも有効だ。あいつら駆け引きとかしないからな。


 だからといって考えなしで動いていいという訳でもないのだ。魔物も多数なら攻防の組み立てや立ち回りも考える必要があるし、パーティ戦なら尚更である。




「考えて……」




 考えろと言われてシラーちゃんは困っているようだ。もうちょっと具体的に話すか。


 俺たちは過程をすっ飛ばしていきなり強くなったから、基本的な部分で何か足りなかったりすることもある。俺も基礎とか型をビエルスに来てようやく重要だと理解できた。決してシラーちゃんがおバカなのではない。




 サティは熱心に指導を受けていたし、練習にも真面目に取り組んでいたから基礎が抜けてるなんてことはないだろう。ウィルは実家にいた時は剣術指南役に指導してもらっていたらしいから、これも問題はなさそうだ。ミリアムは最初から師匠の指導を受けていた。問題があるのは俺とシラーちゃんぐらいだった。




「ウィルとずっとやってるから癖くらいわかるだろう? こう攻撃が来て、防御したら、次はこう動きそうだとか」




 実際にウィルがやりそうな動きを見せながら解説していく。やってみせたのが良かったようで、シラーちゃんはふんふんとしっかりと頷いている。




「予め動きが読めたなら、防御や回避も楽になる。攻撃も当てやすい。それだけじゃなくて、その動きに先んじて妨害してやればどうなる? ウィルは体勢を崩すか、攻撃を中断して防御に回らざるを得ない。これが相手の動きを読むってことで、読みから最適の動きを判断することが考えるってことだ」




 俺もこれは以前はなんとなくやっていたものだが、ステータスをリセットして弱体化してからはじっくりと考えてやらざるを得なくなったのだ。むろん読みも相手あってのこと。サティなんかが相手だとあっちも俺の動きを読んできて、時に複雑な駆け引きに発展したりもする。


 シラーちゃんも無意識にはやっているはずだ。でなければ俺たちの動きに翻弄されてまともな戦いになっていなかっただろう。それを一歩進めて、きちんと意識してやれるようになれば、一段と強さは増す。




「よし。じゃあ次はアンだ」




「は、はい!」




「え? 聖女様も参加されるのですか?」




 そう言ったのはご近所の王城から遊びに来ていたカマラリート・ヒラギス女大公陛下である。シラーちゃんにやられて這うように脇に引っ込んだウィルを心配して、側に付き添っている。




「はい。あの方も実はかなりお強いのですよ、女大公陛下」




「カマラとお呼びください、ウィル様。あ、始まりますよ!」




 あ、数合打ち合っただけでさっそくやられた。きゃんとかわいい声で鳴いて倒れ込む。




「手を出すな!」




 気遣わし気に見ていた聖アンジェラ騎士団の面々が一斉に動くのを制止して、アンに言う。




「自分で回復して立ち上がるんだ」




 少々ビビりすぎだな。騎士団用のフル装備だからダメージはウィルほどじゃないはずだ。一応騎士団を相手に時々は修練していたようだが、格下相手ばかりであまり実になっていなかったようだ。今後は俺たちがもっと相手をしたほうがいいな。




「次、ミリアム!」




 こうやって順次光魔法で強化した相手と小一時間戦っていく予定である。効果が切れたら交代で次の者を強化。そうして六人分回すと六時間ほど。ちょうど午後一杯使うことになる。


 俺やサティは後回しだ。強化したシラーちゃんやウィルが相手でも普通に戦えて長引くし、一時間の制限がある。順番が回ってこないこともあって俺にとってはかなり楽な修行の部類である。ちなみにウィルの午前はまたエルフと狩りをしていた。剣闘士大会を見据えた、ウィルの強化月間だな。




 今日の午前中は居留地へ行って説明会を行い、希望する獣人たちの先行組を獣人の里に送り込み、外周の城壁を一部作製。


 これは暫定で通常規模の城壁をまずは作っている。新方式の城壁を試したくてそのための材料を待っている状態である


 それとしばらく分の生活物資の運び込み。


 長が説得に回ったお陰か、国を目指すという話は当面は伏せて、獣人の里を作るという話は好意的に受け止められたようだ。場所もまあ仕方がないかという感じで特に反論もでなかった。聞かされたばかりでまだ戸惑っているだけなんだろうと思うが。


 元の村に戻りたい者も多いだろうし、半分くらい来ればいいほうだろうと長は言っていた。




 ゴケライ団もさっそく移動させたのだが、獣人の里の護衛はゴケライ団だけじゃまったく戦力が不足するので、公都とその周辺にまだ残っていた獣人の部隊を一部引き抜いて来てもらうこととなった。公都近辺の魔物の掃討はほぼ終わっていたし、元々住民の帰還に合わせて獣人たちも一旦戻ることにはなっていたのだ。


 先行組は町建設のお手伝いである。町を丸々一つ、最初から作るのだ。大元は俺やエルフがやるとしても雑用はいくらでもある。むろんきちんとお給金は出すし、食事も住居も当面はこっち持ちだ。




 リリアとティトスとパトスは今日から獣人の里へと泊まり込み。移住である。




「ティトスが軍政担当。パトスが内政担当じゃ。任せたぞ」




 そう言って平和なヤマノス村から、建設が始まったばかりの獣人の里へ、いきなり強制移住させられたパトスが絶望的な表情をしていた。


 仕事は山積みである。物資はいまのところエルフの里から運び込んでいるが、なるべく早く現地調達に切り替えないといけないし、住民も入り始めてその管理と住居の割当や仕事の割り振りも必要だ。農地をどこに作るのかとか、運河をどうするのとかまったく決まってないし、そもそもが場所決めと必要最低限な建物を作った以外、何もかもが未定。すべて一から作り上げる必要がある。




「ところで獣人の里はいいのですが、町の名前はなんと言うのでしょうか?」




「町の名前……?」




 パトスがもっともな疑問を口にする。だが新しく何もない場所に作ったから当然名前などない。




「この辺りはクラストアと呼ばれています、マサル様」




 そうミリアムが教えてくれる。クラストアの中心となる町だからクラストアにするか?




「エルフの里はなんて名前なんだ?」




「エルフの里はエルフの里じゃぞ。うちは一箇所に固まって暮らしておるからの。名前など付けぬでも困らぬのじゃ」




 なるほど。ここは他に町が一つに村がいくつかあるものな。区別のために名前は必要かもしれない。獣人の里だからケモミミランド……ふざけすぎてるな。獣人、獣……




「ビーストなんてどうだ?」




 困った時の元の世界の言語である。




「ビーストの町か。良いではないか?」




 土魔法で建設作業をする以外に俺がやったのはそれくらいである。丸投げバンザイ!


 まあ建設作業も大規模にとなると俺かエリーしかできない、非常に重要なお仕事だからね?




 そして土魔法担当のもう一方のエリーは、エルフの作業員部隊を引き連れてのヒラギス各地の復興支援に出張である。俺たちの進行ルートにあった町の城壁は修復済みだったが、それ以外は当然構っている余裕などなく放置である。


 なにはともあれ城壁だけは早急に修復しておかないと、住民が戻るにせよ、復旧のための作業をするにせよ多くの護衛が必要となる。今はまだ帝国や各国の軍が各地に散らばっているが、これも徐々に引き上げ始めている。人口が激減したヒラギスでは常に人手不足。護衛や復興作業の人員を軽減できるか否かは死活問題とすら言える。


 しっかりと恩を売るのだとエリーは精力的に動くつもりのようだ。護衛は師匠に頼んだ。午後からの修行に乱入されては辛いし。




「まあ、ウィル様は帝都で行う剣闘士大会に御出になられるの? ぜひとも観に行きたいですわ!」




 帝都といえばもうそろそろルチアーナが帝都に到着する頃だ。明日は拠点の視察も兼ねて帝都見物ができそうだ。




「しかしカマラ様、ヒラギスの論功行賞と日程が被るのでは?」




 お相手をしているウィルが言う。実務を宰相殿に丸投げしているとはいえ、カマラ様は総責任者である。当日だけ出るというわけにもいかない。


 事前の面談や論功行賞後のパーティで前後数日は確実に拘束される。




「では少し前倒ししましょう。幸いエルフの方々のお陰で復興作業も早まるとお祖父様もおっしゃってましたし」




 まあいいんじゃねーかとウィルに頷いておく。俺の子供が仕えることになる相手だしな。交流を増やして仲良くできるなら結構なことである。




「行ってもいいんですの!? じゃあがんばって応援しますね!」




 なんかますますウィルに懐いているようで……ウィルも事情は完全に把握しているからカマラ様に冷たくはできない。




「大会は何日かかかるようですが、お仕事は大丈夫なんですか?」




「ええ。基本的にお祖父様に任せっきりですし。今日も朝からエルフの方と国内を回るとかで不在ですので抜け出してきました!」




 まあ徒歩数分のご近所だしね。いまだ頻繁に来る客はすべて門前で撃退しているのだが、アポなし訪問されてもこの国の最高権力者を締め出すなどできるはずもなし。


 早めに獣人の里に拠点を移すか? カマラ様と交流が深まるのはいいけど、本気で入れ込まれてウィルが犠牲になるのは本意じゃないし。


 フランチェスカには当分会えない。向こうから勝負を持ちかけたのだ。あっちはあっちでホーネットさんに稽古をつけてもらっているそうで、決着が着くまで別々での修行をするのだ。ほんと面倒な話である。




「まあああああああ! フランチェスカ様に結婚を申し込んだのですか!?」




 お? ちゃんとカマラ様に言ったか。偉いぞ、ウィル。




「はい。ですがフランチェスカ殿はこう仰ったのです。勝負して私に勝て。捧げるに足る強き剣であることを証明してみせよ、と。そしてその場に居たお師匠様が言ったのです。帝国の剣闘士大会で雌雄を決せよ、と」




「あの方も確か、剣聖様のお弟子だと聞きましたわ。お強いのでしょうか?」




「私は一時期フランチェスカ殿に剣を教えてもらっていました」




 そのことの意味は明白だ。明確な力の差。




「それは……勝てるのですか?」




「わかりません。ですが私は必ず勝たねばならないのです」




 光魔法を使えば楽に勝てるんじゃないかという意見もちらっと出た。だがフランチェスカが仲間になって、光魔法を使って勝ったとなればウィルの評価は急降下である。それ以前に鼓舞加護の存在も俺が使い手なのも知っていて、試合で使用なんてした日には一目瞭然。まっとうにやって勝つしかない。




「わたくし、いっしょうけんめいウィル様を応援しますね!」




 カマラ様は屈託なくそう言う。まあ元々ウィルがフランチェスカを好きみたいな話はカマラ様も知っていたし、俺たちが心配するまでもなくウィルに恋愛感情は特にはなかったのだろうかね?




 そして翌日、午前はまた獣人の里の建設作業をして、午後からはみんなで、ルチアーナが確保した帝都の屋敷の確認と帝都見物である。




「このような古い屋敷で申し訳ありません。ある程度の広さがあってすぐに使えるとなると、あまり選択肢がなくて」




 帝都中心部からは距離のある郊外の古めかしい屋敷である。それなりの修理は必要そうだが、屋敷自体はしっかりしてる。




「家の周囲の壁だけはちゃんとしたのに建て直すとして、屋敷は風情があっていいんじゃないか?」




 浄化をかけながら見て回ってそう結論づける。




「ここはエルフの持ち物にしておいて、俺たち用に二、三部屋確保しておいてくれればいいよ」




 俺の保有にされても使い道がないし、管理しきれない。




「かしこまりました。では契約をしてまいります」




 リシュラの王都のエルフ屋敷みたいなものだな。都心部からずいぶん外れるが、俺もエルフも帝国首都にそれほど用はない。ないはずだ。




「よし。じゃあウィルこの辺を案内しろ」




「あー、土地勘はそれなりにありますけど、よくは知らないっすよ? 街とか滅多に出なかったっすから」




 そういえばこいつは王子様だった。普段から街に出歩くなんてことはしないしできないだろう。使えない。


 仕方ない。適当に近所を見て回るか。


 帝都見物に関しては本格的にやるならたっぷりとした時間が必要そうだ。転移後に空から確認した帝都は、反対側の端がかすんで見えないほどの大都市だった。


 中心部に大きな森があって、そこが帝都の王城だとウィルが教えてくれた。かつては王家専用の狩場にしていたそうだが、近年はさすがに獲物も減ってただの森林公園みたいになっているそうである。




 みんなで行くとやっぱり目立つので順番交代で見て回ることにして最初は五人、俺とエリーと獣人組の護衛三名でお出かけすることとなった。


 郊外とはいえ帝国首都。人はそれなりに多かったし、大通りに出ればお店もたくさんあった。でもなんかどこも一緒だな。中世風の異世界は、賑わいに差があるくらいで俺には違いがわからん。食べ物の値段がちょっと高い。服屋に家具屋にアクセサリーショップ、雑貨屋や食料品を扱う個人商店とかが雑然と並んでいて、元の世界で言うと、昔ながらの商店街という雰囲気だ。




「王都とそんなに変わんないな」




「そりゃあ王国も元は帝国領土だったしね。ヒラギスも似たような感じだったでしょ?」




 違いがわからないのじゃなくて、根本的に似てただけか。




「東方とか南方へいけばかなり違ってくるそうだけど……そうそう。そういえばエルド将軍から帝都へ送っていってほしいって連絡が来てたわよ?」




 今現在帝国の将軍たちは公都近辺に集まっている。帝国軍もそろそろ順次帰還の途につく予定らしい。居留地からエルフが全力で飛んで二日と少々。馬でも何日かかるやら。そりゃ転移が使えるなら使いたいよな。




「別にいいんじゃないか? 軍を全部送還してくれとかじゃないんだろ?」




「将軍と側近の数人でいいって」




 エルフが転移魔法を使えるのはすでに周知されている。帝都へのルートが開通したと知らせ、多少の便宜を図ったところで不利益はなかろう。エルド将軍とは今後も仲良くしていくつもりだしな。




 帝都見物が終われば次はエルフの里である。新方式の城壁のテストを行うのだ。それでエリーにも今日は復興作業を午前で切り上げて来てもらった。




「鉄の棒?」




 エリーが首を傾げる。大量、というには少ないが、積み上げられた鉄の棒。すなわち鉄筋である。




「鉄筋……造りという。とりあえずやってみよう」




 ざくざくと地面に鉄筋を一〇本ほど突き刺していく。これを土魔法で封入するように壁を作る。上手くいけば普通の壁の何倍もの強度の城壁ができるはずだ。


 一回目は失敗した。普通にやると鉄筋が押し出されてしまう。まあこれは想定内。壁を土に戻してやり直しだ。


 二回目。じゃあ鉄筋を避けるように……作ってはみたが、隙間だらけでどうみても失敗だ。


 三回目。土の状態でまずは壁を作って包んで……固める。上手くいった。




「理屈はわかるわ。鉄を仕込めば強くなるだろうっていうのは」




 エリーの言いたいことはわかる。鉄は貴重だ。レアというほどではないが、供給が十分だとも言えない。鉄筋には鉄を大量に使う。それだけの価値が果たしてあるのか?




「きっと驚くぞ」




 俺たちの世界でも建築を大きく変えた技術だ。




「じゃあ試してみよう」




 普通の柱と、作った鉄筋柱を横にして、上から大岩を投下する。普通の柱は大岩がぶつかり砕け散ったが、鉄筋はある程度のダメージは受けたがしっかりと耐え、二回目の投下でぽっきりと折れた。単純に倍くらいにはなっているか?




「これがたぶん最終形。一番強い構造になるはず」




 残った鉄筋を全部使って格子状、縦と横にジャングルジムのように組み合わせた鉄筋に壁を作っていく。




「さて。ではどらごさんどうぞ!」




 まずは普通の壁に軽くひと当て。幅1.5メートルほどの普通の町クラスの強度の城壁は、簡単に崩れ落ちた。町の城壁は大型種の突進に耐えるようには作られていない。


 次に鉄筋壁。ぶつかった部分の壁が一部崩れたが、壁自体はしっかりとしたものだ。




「次は本気で!」


 


 ドゴンという大きな音と、地面が震えるほどの衝撃。壁はひしゃげ、中の鉄筋がむき出しになったが、まだ壁としての機能は失われてはいない。壁は斜めに傾いている。基礎のしっかりとした固定が必要だな。




「ほう。これは……」




 普通の町の城壁が大型種の本気の突進に耐えてみせたことに、エルフの親方から感心したような言葉が漏れる。


 どらごの第二撃。それにもぎりぎり耐えてみせた。




「当たった部分はさすがに破壊されましたな」「だが周囲は形状を保ったまま崩れていない」「破損部位が小さいから修復も短時間で済む」「建築に革命が起きますぞ!」




 建築担当のエルフたちからは絶賛の声が上がった。




「いけそうだな?」




「はい、単純なのに素晴らしい効果です。さすがはマサル様です!」




「ではまずはビーストの町で試そうか。鉄はエリーのところの鉱山からのがあるから大丈夫だな?」 


 


 エリーの実家の鉱山からの産出物は当面はエルフだけに売る予定だった。ようやく生産体制が整ったばかりなのと、帝国へバレるのをなるべく遅らせたいという思惑もある。むろん帝国に対して鉱山を秘匿するという意図はない。だが最初の納税が必要な時まで、余計な邪魔や妨害は排除したかったのだ。十分な生産を確保して、一度でも帝国へと納税してしまえば、その所有権は確実なものとなる。予定では来月開催の帝都の秋祭り。その時にエリーの兄が上京して報告する手筈となっている。


 


「ではこれはマサル式……」




「リリアはいい加減何にでも俺の名前をつけようとするのはヤメロ。ちゃんと鉄筋造りって名前があるんだし」




 いや……名前は付けとくか。




「エルフ式城壁強化法、鉄筋造り。これで大々的に広めよう」




「よろしいので?」




 親方が懸念を示す。だが鉄筋の構造は単純だ。秘匿しようとしても効果的だとわかればあっという間に広がるだろう。それなら先んじて自らの手で広める。




「これは魔物と戦うための強力な武器となる。独占していい技術じゃない。これで利益を得ることは一切しない」




 そもそも俺のアイデアじゃないしな。




「それにエルフの名を更に高める助けとなるだろう? 派手にやってくれ」




 おおーと、エルフたちから感嘆の声が漏れる。




「守護者様の仰せだ。派手に、大々的にやるぞ!」




「まずはエルフの里ですな。エルフ式と銘打って大本が古い城壁では話になりますまい」「連絡するのは王国と帝国、それからヒラギスにも」「単純な構造とはいえ、技術的な検証は――」




 即座に始まった活発な議論を背に、俺は俺の仕事に戻ることにした。鉄筋関連でまた輸送任務が増えそうだ。効率的に片付けていかないとな。

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