227話 ヒラギス北方戦役 〜威力偵察〜

「防衛の兵に疲労が見えてきた?」




「ええ、それも一気になのよ」




 バルバロッサ将軍と東部砦の支援を終えた俺が北方砦に戻って、軽く休憩しているところに、エリーがそう報告してくれた。




「加護は確かに体力回復効果はあるが、別に無尽蔵になるというわけでもないしの。鼓舞で力と速度が上がった分、無茶をするとすぐに限界が来るようだな」




 そう言う師匠は俺の魔法で年甲斐もなくはしゃぎすぎたようで、いまはお休み中である。加護と鼓舞の意外な弊害か。運用テストなんかしてないものな。そもそもが一時間で効果が切れる魔法である。長時間の使用は想定外なのだろう。




「ちょっとまずいか?」




 エリーが頷く。本来疲労は時間をかけて溜まるものだ。それが一斉にとなると……




「増援のペースはあげないとダメね」




 いま北方砦に送り込まれてきているのは、精鋭やベテラン兵が中心である。体力もあるだろうし、戦場でのペース配分も心得ているだろう。それが俺の支援で乱されたか。


 だが到着してからこっち戦い詰めで、体力を温存している余裕などなかったのが限界が来ただけかもしれない。それとも支援がなければ限界はもっと早く来たかもしれない。まあ調査や検証をしている余裕はないし、いまは考えないでおこう。




「とりあえずいまの師匠の話を砦中に伝えてきてくれ。無理はしないようにってな」




 エルフの一人にそう指示を出す。あとは増援の手配だな。相変わらずエリーやルチアーナに余裕はないし、追加分は俺が担当することになる。




「まずは一〇〇人、前衛を連れてくるとして……それで足りるか?」




「様子を見ながら調整していくしかないわね」




 綱渡りだな。俺の魔力回復が相当量あるのが救いだが、この後がっつり使いたい場面もあるし……




「わたしが軍を連れてくる」




「ティリカの陸王亀か」




 北方砦のヒラギス側は俺たちが魔境を封鎖しているおかげで魔物の数は相当少なくなってきている。ある程度の損耗を覚悟すれば、ティリカの陸王亀を先頭に行軍し、大軍を連れてこれるだろう。


 だが首都近くの二つの町はいまだに多数の魔物に包囲されている状況だ。まずはその撃破からになる。軍の編成も必要だ。今の時間は午後も半ば。




「今からだと急いでも移動は完全に夜になってしまうな」




 そうなると到着は夜中となる。ライトの魔法を活用すれば少数なら行軍には困らないだろうが、数千、数万単位で移動するとなると夜間行軍、それも敵中突破しての移動は危険極まりない。




「エルド将軍とリゴベルド将軍にまずは相談だな。エリーとティリカで話をしに行ってくれ」




 大軍になると編成する時間も相応に必要だし、作戦立案も考えると明日の朝にしたほうがいいかもしれない。もちろん即出発して日付が変わらないうちに北方砦に到着してくれるなら実にありがたい話であるが、それではかなり無理な行軍になるだろう。北方砦を奇襲したときのように、五〇〇人程度の少数ではないのだ。思いついて即動くというわけにはいかない。




「それよりも。俺たちで偵察をしたいんだが」




「このタイミングで?」




 エリーがそう言って眉をひそめる。そもそも近場なら砦から空に上がれば見えるのだが、山岳地帯で見通しは悪い。それに砦上空も制空権があるともいえない。隙あらばハーピーが大挙してやってくるし、飛竜なんかもまだどこかに隠していそうだ。


 砦を離れての魔境方面への魔法使いのフライでの偵察は、エルフの精霊使いであってもかなりの危険が予想される。




「夜になってからティリカのドラゴンを使いたい」




 ここに来てティリカが大活躍だな。召喚は使い方次第で非常に強力で役に立つ。




「どらごに乗っての偵察を考えたんだけど、俺たちでフライとレヴィテーションで押してやれば、かなり高空に上がれないか?」




 ドラゴンは特に夜目が利くわけでもないが、それは俺たちで補完できるから問題はないはず。




「ふうむ。普通ならあのような巨体を動かすとなれば簡単ではないが、我らなら余裕じゃろう」




 自重は自分で運べるからあくまで後押しだ。そうして普通では到達できないような高度から偵察する。しかも夜間だ。暗視に鷹の目のある俺たちなら偵察に困ることはないし、うまくすれば敵陣奥深くまで到達できるだろう。


 見つかったとて高度数千メートルの高さだ。ハーピーではまず届かないだろうし、たとえその高度に迫れる存在があったとしても、接近には相応の時間がかかる。


 そして近寄れたところでサティたちの矢の的である。魔法攻撃の手にも困らないメンバーだ。




「それならうまくいきそうね」




 俺の説明にエリーもしぶしぶそう言う。やはりタイミングが悪すぎてあんまり気が進まないか。




「今日の月は……」




「新月が終わって細い三日月ですね」




 俺の問いにサティが答えてくれる。真っ暗な新月が良かったが贅沢はいえまい。


 ティリカや俺たちが一時抜けることになるが、夜間は鳥目のハーピーが飛べなくなるなら防衛も少しは楽になるはずだ。




「行くのは俺とティリカとサティ。それにリリア」




「わたしも行くわ。ウィルも来なさい」




「ういっす」




 エリーとウィルね。それと俺の護衛を務めているミリアムとシラーちゃんも当然同行と、二人が俺を見るので頷いておく。いまも仮の治療院に詰めているアンは、偵察で特に役割もないし、少々高所恐怖症の気があるから誘ってもあまり喜ばないだろう。ルチアーナは水精霊のガードがあれば保険にはなるだろうが、フライが使えない。シャルレンシアは風系統だがどうするか。年齢もあって夜は弱いし、無理もさせられない。


 これだけメンバーがいれば十分か。




「師匠もどうですか?」




「止めておこう。ワシはお前らみたいな便利な目はもっとらんし、空では剣はほとんど役に立たんしな」




 それにはしゃぎすぎてお疲れですしね。なにせ御年一〇〇歳だ。無理は利くまい。




「あとは進路と帰路だけど……」




 なにせ夜間飛行だ。俺たちがヒラギスに来たばかりの時、エルド将軍に会いに南方方面に行った時、日の出前に移動して迷子になったことがある。まあ多少進路がずれてたくらいだったが、今回は往復とも夜間で、それもまったく地形のわからない敵地だ。




「地形はわたしがしっかり見ておきますね」




「俺も注意しとくっす」




 夜目持ちのサティとウィルがそう言ってくれる。俺も夜目はあるが、正直地形を読む自信はない。


 敵の襲撃はずっと続いているから、その流れを辿れば何か見るべきものにたどり着けるだろう。




「進路は敵のいる方向を辿ればいいな。帰りは迷子になりそうならドラゴンを消して転移しよう」




 迷子じゃなくても敵に追われたり囲まれそうだったりした時には転移で緊急離脱してもいい。




「でも本当に危険を冒してまで偵察する意味はあるの?」




「ある。こいつは威力偵察だからな。ついでに攻撃もするんだ」




 偵察のついでに攻撃もしようというのが威力偵察である。むろん危険ではあるが、敵の動きも知れるし、奇襲にもなる。




「でもあんまり高度があると魔法なんか……あー」




「そうだ。普通は何千メートルもあると射程外だけど、俺のメテオなら普通に使えるはずだ」




 ここが作戦の肝である。高々度からの攻撃は試したことはないが、できないという理由も考えられない。岩も相変わらずワンセットアイテムボックスに入ってるし、そいつも投下してみようか。エリーたちのサンダーも高度次第では使えそうだが、転移に使う分だけでかっつかつである。今回の出番はないだろう。


 そしてもし攻撃魔法がダメでも普通の偵察になってしまうだけだ。まったくの無駄にはなるまい。




「高空から敵の主力を叩けるだけ叩く」




 まあそんなのが居ればの話だが。もしかするといま向かってきている敵が最後かもしれないし。




「それはとてもいいプランだわ!」




 ようやくエリーさんが納得したようだ。それどころか大喜びである。エリーは一方的な蹂躙とか大好きそうだものな。


 高空からの攻撃は前々から考えてて、一度やってみたかったんだよな。ただ俺のフライだとそれほど高度は出せないし、今回の偵察の成否はどれくらい高度がだせるかだな。敵がすぐに接近できるくらいだとサティや俺たちで撃退できるにせよ、早々に撤退することになるだろう。


 フライで高度が出せないってのは結局空気を利用する魔法なんで、空気が薄くなるほどの高さだとフライの効率が徐々に落ちて、そのうち落下しだす。空気も薄くなるんで、優秀な術者が無理な高度を取って気絶して落下死、なんてこともあったらしい。


 エルフの風精霊にしてもそこらへんの事情は同じである。空気が薄いと精霊の力も弱まってしまう。むろん俺たちよりかなりの高度に上がれるのだが。




「エリーはティリカと軍と詳細を詰めておいてくれ。俺は増援の一〇〇名を連れてこよう」




 偵察のほうの作戦は……いつもの臨機応変でいいな。決行時間はどうするか。あんまり時間が早いと魔物の動きが活発なままだろうし、できれば真夜中くらいが一番いいのだが、そうなると俺たちの負担も大きくなる。




「偵察は日の入りあとの一刻後2時間後としよう」




 暗くなったあとならいつでもそう変わりはないだろう。早めに終わらせて少しでも寝る時間を確保だ。




 そうしてエリーたちとエルド将軍のところへと転移。そこで別れ、俺は兵士の転移に北方砦での支援の掛け直しをして回り、再び拠点に落ち着いたところにルチアーナが飛び込んできた。




「守護者様」




「どうした?」




「東部砦で動きが。かなり大規模な襲撃です」




 北方での敵の反撃が始まった当初、俺とリリアがそこそこの規模の部隊を叩いて以来、比較的平穏だったのだがとうとう来たか。北方砦が奪還されて慌てて動いたのかもしれない。


 東部砦にはエルフもすでに十分な数を送り込んであるし、兵士の数や防衛体制も充実している。あそこだけは手がかからないと思ってたのに。


 すぐにどうにかなるものでもなかろうが、本気の攻勢だとすると……




「追加でエルフの里から一〇〇名、すぐに送っておく。あとはルチアーナが注意をしておいてくれ」




 ルチアーナが頷いた。早めに手を打っておかないと、この後どれだけ余裕があるかわからない。


 エルフの里に転移して東部砦に一〇〇名。それが終わったらまた北方砦の支援の掛け直しか。


 少し休んで威力偵察。その威力偵察が成功したら東部砦のほうも偵察ついでに叩いてもいいかもしれんな。


 その後は明日朝のティリカの作戦の支援。これは先ほど決行が決まったと連絡があった。




 忙しいな。腰を落ち着ける暇もない。だがすぐそばの前線ではいまもエルフや兵士たちが命がけで魔物を食い止めている。泣き言は言えない。




 ここが正念場だ。俺とティリカの作戦が成功すれば、状況は一気に良くなる。良くなるはずだ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 で、アンやシャルレンシア留守番組に見送られての日没後の威力偵察である。眼下の魔物の軍勢を辿りつつ順調に高度を上げ、空気が薄くなったところでレヴィテーションでえいやっとさらに高空にどらごを押し出したのだが……




「息苦しい」




 そうどらごさんが訴えてきた。俺たちは精霊の風ガードに包まれて移動している。それで寒さも空気の薄さもほとんど気にならず、むろんどらごもカバーしているのだが、それではドラゴンの呼吸量に到底足りなかったようだ。




「短時間であれば、さらに高度をあげられなくもないが……」




 そうどらごさんが苦しげに言う。まあいま無理をすることはなかろう。




「どのみちこれ以上高度をあげても雲に入りそうね。十分高さは稼げたし少し下げましょう」




 高度はどらごによれば普段到達できる高さの倍近く。すでに敵陣深く入り込み、今のところ俺たちの存在がバレた徴候もないから偵察のし放題である。眼下の敵はところどころで野営をしているのか、焚き火らしき火も見える。




「見えてる範囲でも二〇か三〇万ってとこっすかね」




 ふうむ。豆粒みたいな魔物が下界で多数うごめいているのが俺の目にもしっかりと見えている。だけど数とかさっぱりわからんぞ。




「そういうのどうやって数えてるんだ?」




「そうっすね。こうやって指を作ってその範囲の数を大雑把に数えるんすよ」




 そう言ってウィルは両手の指を長方形に組んでそこから下を覗き込む。




「それであとはどのくらい面積か計算してだいたいの数を出す感じですかね」




 ほー。




「ただ俺は素人なんで正確かって言うと……」




 ベテランの偵察兵だと相当正確に把握するんすけどね。そうウィルが言う。専門家が必要だったか。だがその専門家を連れてきたところで、暗視も鷹の目もなしだとこの闇夜では、魔物の姿を捉えることはできない。


 ウィルが居てよかったわ。俺たちだけだと大雑把な数すらわからない。なんかいっぱいいたと偵察の報告をエルフたちにしなきゃならないところだった。


 勉強熱心なサティがさっそくウィルの教えてくれた通りにやっている。俺は難しそうだしやめておこう。ウィルをして正確にやるのは難しいという難易度だ。俺が偵察兵の真似事をすることなどそうそうあるまい。




「なにか……あっちのほうにもっと居ませんか?」




 だがサティの指差す方向をじっと見てもまだわからんな。




「進路をそっちへ」




 俺の命令に従ってサティがティリカにガイドを出す。月明かりはほとんど役に立たないほどの弱々しさで、ほぼ真っ暗闇での飛行である。方角どころか上下感覚すら喪失しそうになるのをサティが、上とか右とか頭を少し上げてとか細かく指示を飛ばすのだ。


 そうして移動した先。




「さっきのところの五倍か……もしくはもっとっすね。森の中だとほとんど見えませんし」




 森にも焚き火が見えるから、数がわからないまでも、存在自体だけなら確認できなくもないのだ。そうなると一〇〇万は最低数。二〇〇万は考えたほうがいいってことか。


 地竜の巣もあるな。五頭ほどが集まって寝そべっている。それからハーピーも忘れてはならない。あいつらは森の中で寝るから数の把握は不可能に近い。


 もっと近寄れば探知が使えるのだが、高度は落としたくない。




「ここが本隊か。メテオの狙いはどこらへんがいいかな?」


 


 まず地竜のところと、それから敵の集団のど真ん中にメテオをぶちこむ。範囲を広げても一発じゃ足りないな。三発か、五発くらい? これだけの集団が壊滅すればさすがに魔物もヒラギスを諦めるだろう。




「待ってください。あっちにも居ます」




 サティの見つけたほうへと再びの移動。




「これは……恐らくさっきのと同規模の集団っすね」




 最低でも一〇〇万規模の軍勢が二つ。ヒラギス奪還軍の総勢はおおよそ六〇万。エルフと俺たちの火力もある。魔物が二〇〇万、あるいは四〇〇万だとしても防衛戦なら負けるとは思わない。問題のない数だ。




「もう居ないよな?」




「念入りに偵察しておきましょう」




 エリーの提案に従ってさらに偵察を続行することにした。魔物は圧倒的戦力を擁する油断からか、それともここまでまったく偵察をしてこなかったお陰か。俺たちが発見された様子はない。




「まずはあっちのほうっすね……それからあっちへと進路を……」




 今度はウィルの指示に従って二つの大集団の外周をぐるっと回るように移動する。




「居ました」




「あの、なんか前の二つよりさらに規模が大きいように見えるんすけど……」




 倍か……三倍。あるいはもっとかも。さすがに数に自信がもてないのだろう、おずおずといった感じでウィルが言う。




「合計すると一〇〇〇万くらいか?」




「最低でも」




「多めに見積もれば?」




「二……いえ、下手すれば三〇〇〇万以上ってところっすかね……」




 夏場で寒さの心配はないし、これだけの軍だ。敵の心配もないから焚き火の必要性は薄い。それで森の中で休まれると、果たしてどれほどの数がいるのかまったくわからない。ただそれでもところどころから焚き火は見えるから、森にも相当数がいるのは間違いない。そうウィルが言う。




 ヒラギス奪還軍の総勢六〇万のうち、ガチの戦闘員は三分の一程度。しかもいまはヒラギス国内で分断されていて、公都近辺と北方砦に振り分けられている戦力は一〇万ほどだろうか。


 いま襲撃を受けている東部砦のほうも忘れちゃいけないな。そっちのバックアップもこういう感じなんだろうか? あんまり考えたくもないが。




 ウィルのあまりにも桁違いな予想に誰しも声がでないようだ。


 前衛に二〇万。一〇〇から二〇〇万規模の軍が二つ。そして一〇〇〇万を超えると思われる本隊。




「偵察しておいて良かったな」




 三つの大集団の周囲を確認し終えて俺がやっと発言した。さすがにこれで打ち止め。偵察外に万一もっと居たとしても、大軍の移動には時間がかかる。すぐには考慮に入れる必要はないだろう。




「そうね。それでやるの?」




「もちろんだ」




 こんなことならもっと魔力を貯めておくんだった。アンも連れてくるんだったな。魔力がまったく心許ない。


 息苦しいのは空気が薄いからだろう。深く息を吸って言う。




「あそこに飛竜の巣がある。まずはそこからだ」




 いまの俺たちを脅かせる可能性のある唯一の存在だ。猫団子のように折り重なって寝ているのが一〇頭ほどもいるだろうか。


 ああいうのは飼ってるんだろうかね。それともドラゴンは知能が高い。なにかの契約でもしているのだろうか。気になるところだが、とりあえず死んで貰おう。一〇頭もまとめて来られては堪らない。




 メテオ詠唱開始――




「気が付かれました」




 サティがそう告げる。もうか!? まだ詠唱し始めたばっかなのに。探知能力が優れているのか、それとも寝ずの番でも居たのだろうか。すぐにバタバタと飛竜が飛び出してきた。だが――




「メテオ!」




 俺の詠唱のほうが早い。白熱した隕石がほぼ目の前の高さに出現し、ゆらりと落下、加速し、速度を増すにつれごうごうと燃え盛っていく。見ればすべての飛竜が巣から飛び立ってしまったが、メテオを抜けることができたとしても俺たちの高度へはまだまだ程遠い。




「次だ」




 戦果を確認している時間も惜しい。今度は敵集団のど真ん中。詠唱開始――今度は範囲を広く――




「二頭、落ちました」




 直撃を食らったのはたった二頭か。だがドラゴンの巣の周囲の魔物は壊滅している。レベルも上がった。




 二発目のメテオが発動する。一〇〇〇万の軍勢は平野部に相当広く布陣している。完全に殲滅するにはどれほどの回数が必要だ?




「もっと高度を!」




 気がつけば飛竜のうち二頭がかなり接近していた。どらごが短時間であればもっと昇れるとか言ってたな。あるいはどらごより航空性能が上なのか。




「ブレスが来るわよ。リリア、風壁を強化!」




「落ちろ! 落ちろー!」




 三発目のメテオが発動。そしてすぐさま次の詠唱にかかる。すでに下界は火の海と化しているが、まだまだ無事な部隊は大量にいる。




「寄ってきたやつは撃ち落としました!」




「あと二発、あそことあそこを潰したい。移動を頼む」




 そうしてメテオを放つこと計六発。広範囲にしたメテオでようやくカバー……いや、まだ結構残ってるな。半分も殲滅できていれば御の字ってところか。




「あと一発、あのへんがいいな。それが終わったら二つ目の集団へ向かってくれ」




 本隊をもっと殲滅していくべきか? だが最初の二つも少しは叩いておきたい。魔力はすでに残り少ない。効率のいい攻撃を考えないと。




「もっと高度を上げるのよ!」


「どらごはちょっと我慢して」


「加速するぞよ、マサル」




 また飛竜が数頭迫ってきていた。この高度は安全じゃなかったのかよ。だがリリアやエリーのブーストを得て加速するどらごに、下から飛び上がってくる飛竜たちはあっという間に引き離される。




「多少の揺れで俺の詠唱は止まらん。そっちは任せた!」




 エルフの霊薬も飲んでおくか? 今朝方飲んだばかりで効果は薄いが、いまは少しの回復でも喉から手が出るほどほしい。


 俺がメテオを放つたびにレベルがぽこぽこと上がり、レベルアップによる魔力量の上昇に伴い、時間あたりの回復量も微量ながら増えていく。


 これなら一発か二発、余計にメテオを放てるか?




「俺の魔力が尽きるまで、ぎりぎりまで粘るぞ!」




 いまここで、削れるだけ削る! でないとヒラギスは……


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