第十二章 ヒラギス奪還作戦、終戦

225話 ヒラギス北方戦役 ~支援、増援~

「またずいぶんと思い切ったことをしたわね」




 新たに覚えた光魔法、鼓舞と加護を受けたエリーが言う。エリーは大喜びするかと思ったのだが、えらく真剣な、深刻そうな表情である。やっぱ深刻かあ。でももう取り返しはつかんしなあ……




 ここは北方砦中央付近に設けられた救護所の前。アンはもちろんエリーやティリカにルチアーナが集まっている。リリアとサティは北側城壁を、シャルレンシアたちエルフ三姉妹は南の砦側を守っている。光魔法のお披露目と説明もかねて一度に終わらせたほうが効率がいいと集まれる者は全員集めたのだ。




 救護所は砦で辛うじて残っていた大きめの建物なのだが、砦の建築物であっても普通の建物なのでハーピーなどに襲撃されると相応に脆く、ちゃんと兵士を置いて防衛の必要もある。


 しかし建物の警備に回す余分の兵力などなく、それで魔力切れで前線から下がったエルフが弓や剣を手に過重労働を担っていたのだが、元より弓や剣が得意なものはそのまま前線を支え、防衛に当たっていたのは魔法に特化したものばかり。さらに軽症は現地で治してしまえるので、救護所まで来るのは重傷者ばかりなのだが、治療してなおまともに戦えないほど具合の悪いものさえ剣を手に、いざとなったらいつでも戦える態勢で休んでいるような非常に悲壮感溢れる有様だった。


 しかし今は召喚ドラゴンが建物脇で睨みを利かせ、ハーピーはそうそう近寄ってこない状況になり、少し前にはアンと騎士団が一〇名ばかりであるが合流して多少なりとも改善。そして鼓舞と加護を受けるためほとんどのエルフや兵士たちが束の間手を休めて集まってきていた。




「この魔法は鼓舞と加護という。効果は力と速度の増加と、体力と魔力の回復。効果のある時間は半刻一時間程度だ」




 エリーの言葉には答えず、もう何度目かの説明を繰り返す。エリーたちは村にいた頃に光魔法の検証のため見せているのですでに知っていたが、エルフたちはえらくざわついていて、中の一人が尋ねてきた。




「あの、鼓舞と加護といえばかつて勇者が使っていた光魔法だと思うのですが……」




 なんで派手に光るんだろうな。別に必要ないだろ? 奇跡の光も発光現象をどうにかできないかと試したことがあるのだが、どうやってもエフェクトをオフにはできなかったのだ。光魔法もたぶん無理なんだろうなあ。




「まあそうだな」




「では守護者様は勇者だったのですか?」




 一般のエルフには当然のことながら加護の詳細は知らせていない。神託を受けていて、神の加護があるという程度。ああ、あと加護を分け与えられるのも最近エルフの中ではとみに話題らしい。リリアを筆頭に、ルチアーナもシャルレンシアも普通では考えられないほど短期間で、しかもありえないほどの大幅な強化を果たしたことは隠しようがない。




「あー、俺は大抵の魔法が使えるってだけで、勇者ってわけでもないんだ。そういう神託もないし」




 いまは水魔法はポイントに還元してしまって使えないけどな。使えてたはずの水魔法の知識がごっそりと抜け落ちている気持ち悪い感覚。これがあるからリセットはなるべく使いたくない。




「本当なら覚えるのはまだまだ先の予定だったんだが、状況が悪いから無理をしたんだ」




 ここまでまったく使わなかった理由を多少なりとも言い訳しておく。しかし水魔法と格闘スキルをリセットしたのはいいとして、肉体強化と器用と敏捷の分まで使い切っちゃったのはどうしようかね。経験値的にそろそろレベルが上がりそうなのだがそれでも10ポイント。全部取り直すには57ポイント必要だ。どこかでがっつり稼ぎたいが、最高の稼ぎ時のここでも支援と転移、壁作りにすべての魔力を注いでいるのが現状だ。ただでさえレベルが上がりにくくなっているのに。


 光魔法はもう消すわけにもいかないし、リセットの使用も一カ月待ち。肉体強化は当分の間お預けだろう。




「無理、ですか?」




 覚えるというほうには突っ込みは入らなかったか。ルチアーナやシャルレンシアから段階的に新しいスキルを覚えられるくらいのことは聞いているのかも知れない。




「ああ、それは大したことじゃないから気にしないでいい。みんなも無理をして戦っているんだ」




 皆大なり小なり無理はしている状況だ。俺だけリセットを使いたくないとか勇者認定されるのが嫌だからと使える手段を温存するなんてできるはずもない。


 だが話はそれで終わらずエリーが立ち上がり、力強く叫んだ。




「いいえ。聞きなさい、エルフたち! これは守護者殿が代償……大きな代償を払って得た力よ!」




 ポイントとスキルのいくつかは代償といえば代償と言えないこともないが……いや、そっちじゃないか。


 俺のスローライフ。エルフの里を救い、村を興し、剣聖の弟子となり剣を捧げられ、エルフを率いてヒラギスでの主力となって多大な戦果を上げてもまだどうにかなると信じたかったが、こうなってしまってはもはや絶望的だろう。




「だ、代償!?」




 代償という少々大げさな言葉と深刻そうな俺やエリーの様子にエルフはショックを受けた様子だ。




「そうよ、だから大いに奮起なさい!」




「「お、おおおおおおおおー!」」




 これも必要なことか。敵が諦めるまで砦をなんとしてでも死守するのだ。士気は高ければ高いほうがいい。


 それに水魔法が消えてなんか気持ち悪いとかスローライフしたいのが台無しになったとか言われるより数十倍マシだろう。




「そうだ、諸君らには神の加護がある。勝利を我らが手に!」




 落ち着いたところを見計らって言った俺の言葉に再びのエルフらしからぬ咆哮。


 使った光魔法であるが鼓舞や体力回復のほうはともかく、回復する魔力は奇跡の光のように俺から譲渡しているわけではなく、魔力消費に対して収支がまったく合わない。じゃあその魔力の出処はというと、神様からという可能性は大いにある。そもそもの魔力の出処の大本が神様だという説まであるのだ。


 あくまで推測にすぎないが光魔法が神様の力の一端にアクセスする特別な魔法だとすれば、これまで誰一人として習得できなかった訳も分かろうものだ。




「さあ、話は終わり。持ち場がある者は戻って。休息が必要な者は大人しく休む」




 パンパンと手を叩いてティリカが言うと、エルフたちは興奮冷めやらぬ様子で三々五々散っていく。




「ところで砦側の状況はどうなってる?」




 みんなで小さく集まって顔を突き合わせいつもの密談モードになると、エリーにそう尋ねた。支援をかけるのを優先して聞くのは後回しになっていたのだ。それに悪い状況をあまりおおっぴらに話し合いたくなかったのもある。




「前衛はマサルのお陰で少し持ち直すだろうけど、エルフの魔力はほとんど余裕がないわね。ティリカがいいタイミングで動いてくれて助かったわ」




 鼓舞や体力回復はすぐに効果はあるが、魔力回復は速効性は期待できない。


 それに砦側の壁はいまだ修復中である。抜かれると大変なことになるので、なるべく南のほうで殲滅する必要があるのでどうしても魔力の消費が激しくなる。ティリカの陸王亀も輸送任務終了後は砦外に陣取って、自らの体を壁代わりにして奮戦していたのだが、さすがにダメージが積り、それもあってドラゴンと交代となったようだ。だからタイミングはたまたまだとティリカが答える。




「そう? あとは魔物側もいまいち統制が取れてなくて少しは時間が稼げたんだけど……」




 北方砦を俺たちが占領した時から相当数の魔物が再び北方砦を奪還すべく引き返してきたのだが、それが全軍かというとそうでもなく、結構な数がそのままヒラギス国内に進軍していたりしたそうだ。北方砦近辺の狭い峠道でそれをやると当然混乱して足並みが乱れる。


 だがそれも時間とともに落ち着いて、魔物側の動きも統制が取れたものになってきているとエリーが説明してくれる。


 当然俺たちのほうも壁が完成に近づき防衛が有利になっていくのだが、完成する前にエルフの魔力が持ちそうにないのが致命的な問題だ。


 


「じゃあすぐにでも増援を連れてきたほうがいいな」




「そりゃあそうだけど……」




「もうちょい待てば一〇〇人分いけるぞ?」




「え、そうなの? 城壁作りでギリギリだったんでしょ?」




「うん。でも支援かけて歩いてるうちにだいぶ回復した」




「そんなに回復するの!?」




「みんなの回復量は二倍だけど俺だと回復量は三倍だな」




 どうも俺だけ、というより術者の支援の効果が高いらしい。二四時間でゼロから満タンになるのが俺だと八時間。みんなは十二時間ってことになる。数値で言うとエリーで一時間五〇〇くらいのところが、俺の魔力回復は二〇〇〇オーバーである。




「へー、思ったよりいいわね。さすがは光魔法レベル5ってところかしら」




 まあそれも俺やエリーたちの莫大な魔力量と回復力があってのこと。普通の魔法使いでは回復量が倍になった程度ではさほど体感できないだろう。




「そうだな。それに疲労も吹き飛ぶだろ?」




 疲労困憊のはずのエリーもずいぶんと顔色がよく、元気になってる。




「体もずいぶんと軽く感じるぞ、主殿」




 シラーちゃんも上機嫌に言い、ウィルやミリアムなどの前衛組がうんうんと頷く。こうしてみるとかなり有用な魔法なんだが、レベル5までとなると結構なポイントを要するのでいずれそのうち……という感じだったのだ。


 


 魔力不足なんてエルフの里以来だし、ヒラギスでも自分で魔力を使うより、魔力が全快のエルフを転移で交代で連れてくるほうが圧倒的に効率が良かったのだ。そもそもポイントも空間魔法を上げたせいもあるが、光魔法を5まで上げる分はなかったし、村に居た頃光魔法をテストした時はリリアが加入した頃でパーティメンバーもまだ少人数。ポイント消費のわりに効果は微妙という評価は今でも妥当だったと思っている。




「しかし思ったより反響がでかいんだが」




「そりゃそうよ。だって勇者よ、勇者! 子供なら一度くらいは勇者の仲間になって魔王討伐にいく夢を見るものよ」




「うん、勇者ごっこは定番だった」




 エリーがそう言うとシラーちゃんも頷いて言った。ヒーローごっこかあ。こっちはアニメとか漫画がないし、創作の物語も発展しているとは言いがたい。勢い子供が憧れるヒーロー像は過去の偉人に集中していて、その頂点が――




「そう! 子供の憧れナンバーワン! それが勇者なのよ!」




 エリーも大好きだもんな……


 まあわからないでもない。憧れのヒーローが目の前に出てきたとしたら、そこがヒーローが出てくるような危険な状況なのだろうことは脇に置いといて、大興奮間違いなしだ。




「とりあえず魔力が貯まったら増援を連れてくるとして、その後はどうする?」




 一応もう転移一回分くらいは回復したのだが、ギリギリでまた底をつくのも嫌だし、光魔法を増援組にもかけておきたいから軽く作戦会議をする余裕くらいはある。




「残りの兵士に支援をかけて回ってもかなり余裕ができる。ええっと、一時間の回復量が2160で――」




 鼓舞と加護をここの兵士全員にかけても一〇回かそこらで500か600程度。範囲を広げているから少し消費は多くなっているが、次の支援までに1500近くは余る計算だ。ついでにポイントが足りなくて水魔法と格闘をリセットしたことも説明しておく。




「これが終わったらもう一回修行やっとく?」




「懐かしいわねー」




 エリーとアンが言う。水魔法はこいつらに特訓と称して一日で仕込まれたんだった。適当に練習したらレベル1くらいはすぐ取り戻せるだろうし、もう一回は御免こうむる。




「とにかく次の支援までに転移で三〇〇人、連れてこれるぞ」




 一〇人だと焼け石に水感があるが、さすがにエルフの精鋭が一〇〇人からいれば、戦況に多大な影響があるはずだ。


 経験値も稼ぎたいが、まずは増援を優先するのが正解だろうな。




「それなら前衛がしばらく奮闘するだろうし、三〇〇人全員エルフでいいわね。ルチアーナ、バルバロッサ将軍のほうはどうなの?」




「私の回復分を回せばまだ時間は稼げますが……」




「なら四回目の転移はバルバロッサ将軍に回そう」




 エルド将軍とリゴベルト将軍のところの兵力は十分。東部砦は南方からの増援があるし、北方からの魔物の到達にも時間の余裕がある。北方砦とバルバロッサ将軍のところ以外は当面放置で良さそうだ。




「とりあえず俺は支援をかけ終わったら城壁のほうにいるから何かあったら伝令を出してくれ」




 了解と頷くエリーたち。余裕があったら一発二発くらいは範囲魔法を使って経験値を稼いでおきたい。




「そうそう、ウィル。フランが城壁のほうに来てたぞ」




 城壁で思い出した。




「マジっすか!?」




 そう言ってぱっとエリーのほうを見る。




「んー、まあ余裕があればね?」




 エリーはウィルに甘いなあ。俺から言っといてなんだがそんな場合じゃないだろうに。まあエリーの言う通り、余裕があればその程度はと思うし、ウィルの士気も高まろう。




「あー、あとできれば勇者うんぬんをうまく誤魔化す方法を考案してくれると有り難いんだけど」




 エリーたちは互いに顔を見合わせるが、誰からも何の発言もない。どうも諦めたほうがいいよとでも言いたげだ。ダメだよ、諦めたらそこで試合終了だよ!




「ええっと、マサルのお陰で状況は好転しそうだけど、まだまだ厳しい戦いが続くと思うから油断だけはしないようにね!」




 無言に耐えかねたエリーが話題をそらすかのごとくそう作戦会議を締めくくった。


 誰か勇者なことを誤魔化すナイスアイデアを出してくれないかと思ったがすぐには無理か。俺? 俺ももちろん考えたけど、勇者ジャナイヨと繰り返し強弁するくらいしか思いつかなかった。


 それとも今回無事に乗り切れたらエルフの里にほとぼりが冷めるまで当分の間引きこもってようかな。あそこなら既に英雄扱いだし気心は知れてるし。上げ膳据え膳のニート生活が堪能できる。実に楽しそうだ。




 そのエルフの里へと転移し、鼓舞と加護をかけてまた同じような説明をして同じような騒ぎが起こる。ついでに増援のペースが上がりそうなので、その準備も頼んでおく。そうして一〇〇人の転移をするとティリカが待っていてくれて、そのままドラゴンごと護衛として付いてきてくれることとなった。


 魔法を使うと目立ってハーピーの集中攻撃を食らいそうになるし、兵士たちに支援をかけると勇者勇者と大喜びでどうしても注意が逸れるから非常に助かる。




 そうして戻って最初に支援をかけた集団にシャルレンシアが居たのだが、もっと大騒ぎするかと思ったのだがその反応は薄いものだった。むしろ周りが何度目かのすわ勇者の登場かと騒いで、俺の勇者ジャナイヨとの何度目かの否定といういつものパターン。それで終わるかと思ったのだが珍しく大人しいシャルレンシアが話しだした。




「この御方はエルフの守護者ガーディアンオブエルフ。勇者などと一緒にするのは実に無礼なことなのです」




 そうだそうだ、もっと言ってやってくれ。




「守護者様は勇者など比ぶべくもない、もっともっと遥かに偉大な存在なのです!」




 いやそれもさすがにどうかと思うのだが。ヒラギスでずっとまじめにやっていた弊害か。特にオレンジ隊には加護持ちがまた増えないかといいところを見せようと意識して動いてた部分もあって、エルフからの敬意はもはや信仰といったレベルにまで達している。




「うんまあ、偉大とかは置いといて勇者とは別だってわかってもらえばそれでいいよ……」




 変な否定をしてもどこかで墓穴を掘りそうなのでそれだけ言っておく。何かいい案が出るまで勇者ジャナイヨ説でとりあえずは一点突破だ。だいたい世界を救った実績のある勇者と一国を救うのにひーこら苦労している俺とではそれこそ比べるのも無礼な話だと思うのだ。




 そうして順に砦の外周を回って左翼側、師匠のいる防衛地点。左翼は城壁修復が遅れているから先に回ることにしたのだ。




「ホーネット、しばらくここを見ていろ」




「えっ?」




 待ち構えていた師匠に支援をかけるとホーネットさんにそう言い置き、建造中の城壁の脇を抜けて、魔物の溢れる砦外へと突っ込んでいった。




「ちょっと!」




 いや、俺のせいかもしれないけど俺に言われても。そりゃあ俺が言えば戻ってくれるかもしれないけど。




「最近伸び悩んでたって言ってましたし、一時的とはいえパワーアップしたのが嬉しかったんでしょう。放っておけばそのうち戻ってきますよ」




 老い先短い老人の楽しみだ。多少危険だろうと奪うのは良くない。




「そうだけどー」 




 災難なのはむしろ魔物のほうだな。右翼側の壁が完成間近のいま、師匠のいる左翼側が唯一の侵入路となりつつある。防衛側もそれは重々承知で、左翼に向かう魔物には重点的に攻撃を加えられていて、やっとのことで壁が途切れた地点についたら剣聖がこんにちわである。


 なるべく城壁から離れた位置を移動していた魔物が溶けるようにばたばたと倒れていく。警戒外の方向からの奇襲に魔物は対処のしようもないようだ。まあ警戒しててもどうにもならないと思うが。




 師匠はやっぱつええな。雑魚相手では到底実力の底は測れないが、それでも集団に平然と突っ込んでもなんの危なげもなく殲滅していく動きは美しくさえもあり、いつしか俺やホーネットさんや周囲の者も戦闘の手を止めて観戦していた。




「本気のお師匠様なんて久しぶり……」




 ホーネットさんがそう呟く。名実ともに人類最高峰の剣士の本気だ。滅多にみれるもんじゃないのだろう。俺は三カ月ぶり二度目になるけど。


 サティはあれくらい強くなりたいらしいが、改めて見ると相当人間離れしている。先はまだまだ長そうだぞ、サティ。




 師匠の姿などいつでも見られると支援を続行し、そして最後の集団に軍曹殿や剣士隊がいた。支援をかけると軍曹殿はさすがにちょっと驚いた顔をしたのだが、何がおかしいのかすぐに声を殺して笑い出した。


 まあ初期の頃の俺を知ってれば勇者なんてお笑いなんだろうな。俺もすごくそう思うわ。余裕があればここでそのあたりの愚痴でも聞いてもらいたいところだが、これが終わればいくらでも話す時間は取れる。もはや転移は秘密でもなんでもないんだし、勇者っぽいこともバレた。もうそろそろ色々なことを話してもいいかもしれない。




「さあ、もう少しで城壁が完成する。気を抜くなよ! ブルー、ドラゴンは味方だ。ちょっかいをかけるな!」




 ブルー氏は光魔法よりドラゴンに興味があるようだが、軍曹殿に叱られてしぶしぶ城壁のほうへと向かった。他の剣聖の高弟たちの反応は様々だった。


 調子に乗んなよと威嚇するのはザックだ。こいつと剣の腕はほぼ互角。光魔法の鼓舞があれば勝敗は決定的になるのに気がついたのだろう。まあそうでなくとも俺に対しては大抵威嚇してくるのだが。


 コリンなんかはぽかんと口を開けて俺を目で追っている。


 そしてデランダル・カプランは俺と目が合うとさっと逸した。そうだよな、勇者の使う光魔法なんてどう考えても厄ネタ。面倒事に巻き込まれたくないのだろう。




「じゃあそろそろ二回目の転移に行ってくるけどティリカは……ここで待ってる?」




 光魔法はとにかくピカピカ光るから敵からも丸見えだし、護衛続行はほんと助かる。ここにきてエルフを大量投入してさすがに転移もいつバレるかもわからないし、そうなると今までみたいに護衛がミリアムとエルフ数人じゃ少々心許ない。


 助かる、ティリカにそう言って詠唱を始めた。


 エルフの予備戦力は潤沢だし、砦側の城壁も完成へ向けて加速するだろう。一時は覚悟を決めたものだが……




「どうやらなんとかなりそうだな?」




「ん。でもマサルならなんとかしてくれるって信じてた」


 


 転移する直前のティリカとのやり取り。俺もそれくらい自分のことを信じられたらもう少し楽なんだろうけど。しかしティリカの言葉もあってか、少し胃が楽になった気がした。

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