3-2 森の廃砦の記録

ランシェン子爵領 デゼスポワール砦――




先日、コントラ率いる動死体ゾンビの軍勢にて攻め落とされた砦には、未だ戦いの爪痕が大きく残されていた。

質実剛健であった門は打ち破られ、堡塁の一部は無惨にも砕かれている。

砦の中も悲惨だ、動死体ゾンビが門を突破した後も、兵士らは必死に抵抗した。

調度品の類はバリケードや盾として使われ多くが打ち壊されており、壁や床には武器や鎧が擦れたものや、血や内臓が飛び散った跡が未だ残されている。


この砦に配属されている兵士や、砦主が見ればさぞ嘆いたことだろう。

だが、悲嘆にくれる声は全く聞こえることはなかった。

なぜなら、皆死んでいるのだから。



今この場にいるのは、かつては人でだけに過ぎないものたち。

動死体ゾンビがただただ、犇めいているだけ。



動死体ゾンビは何をするでもなく、その場で立ち尽くしている。

魔術で動く物体であるこれらは、自らの意思や思考などは一切ない。

何の指示もなければ何かをすることもない、ただその場に存在するだけの物体。



「はーい、よーいスタート!」


気の抜けた男の声が響き渡る。

その瞬間、まるで彫像のように微動だにすらしなかった動死体ゾンビたちが一斉に動き始める。

コントラの命に従い、それぞれが自らが受けた命令を実行し始めたのだ。



斧を持った動死体ゾンビの集団が砦の外へ出ていき、近くに生えている木の伐採を始める。

砦の破壊された調度品の破片を運び出す動死体ゾンビたちが、打ち壊された門を直そうと釘や板を打ち付ける。

大きな石を運び出す動死体ゾンビたちが、壊れて崩れた堡塁を補強し始める。

命を失った者たちが、何かを作り出そうとし始めていた。



「うーん、思ったより緩慢だね」


動死体ゾンビたちがせわしなく動き出す中。

コントラは無事だった椅子に腰かけ、机に頬杖をついて、パンを齧りながら眺めている。

彼の隣には金髪の女の動死体ゾンビ……ニルナが立ち、その後ろには短髪で大柄な男の動死体ゾンビと、黒髪で神官の服を纏った女の動死体ゾンビの姿がある。

男と女の動死体ゾンビ……ストルグとフィリアは、腕が四つ存在するニルナと違い、未だ人間の形を保っていた。



「ま、食糧も休憩も安全も要らない労働力なんだ、贅沢は言わないけどさ」


パンを食べ終えると、コントラはニルナ、ストルグ、フィリアを引き連れて砦の奥へと入っていく。

動死体ゾンビにするには損壊が大きすぎた死体を集めておいた場所があるのだ。

鼻歌を歌いながら、コントラは死体の使える組織の選別を始めた。



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死人工場インフェナル・トリビュート

“生きているときに、あらゆるものに対して備えをしてきた。今、死なねばならぬときに、まだなんの備えもしていない――”

屍霊術ネクロマンシー軍勢強化シャドウホスト系の技能スキル

動死体ゾンビの挙動を改善し、技能を必要としない制作や修理などの行動を可能にする。

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