第1章「復活の竜たち」

第1話「暗い続く竜」

 暗い暗い洞窟に、独り眠る棺。


 長い時を経て――この瞬間、”封印は解かれた”。


「…………ん……」



 棺の中の何かが、小さな唸り声を上げる。


 直後、洞窟全体に極度の恐怖プレッシャーが走った。


 しずくしたたるりさえ止まり、ただ”声”のみが響き渡る。


「……ん、ああ…………あぁああ、あ……」



 棺から漏れ出る声はどこか幼い。


 しかし、周囲の空気を圧迫する邪悪な気配。



 その時、棺の内側から強い衝撃が与えられる。


 ゴォンという低音と同時に、辺りに起こった小さな地震。


 棺の蓋がガタッと外れ、中身が起き上がる。


 恐怖に怯える魔物たち。


 ここら一帯はすでに、『彼女』の土地だった――。







 【第1章「復活の竜たち」】







「ふああぁ……、ねむ……」



 棺から出てきたのは、なんと銀髪ロングの人間の少女だった。


 目を擦りながらゆっくりと立ち上がり、棺から出る。


「……だいたい十数年くらい、か……」



 ふと辺りを見回すジト目。


「……なんで寝てたんだっけ……」



 天井を仰ぎ、遠い記憶を蘇らせようとする。


 しかし、如何いかんせん思い出せない。


「……一旦、出よ……」



 少し寝ぼけた少女は、裸足のまま歩き出した。







「住処が随分と荒れてるな……」



 途中何匹かの魔物を蹴り殺し、ようやく目覚めてきたようだ。


「……邪竜とか邪神とか呼ばれてたっけ……?」



 ――そう、彼女こそ史上最凶の人間『邪竜が邪神・アリス』なのだ。


 現代に復活し、世界もついに終末か――。


「……は?」



 洞窟を抜け、アリスは茫然とたたずんだ。



 黒雲に包まれた世界は、”すでに終末だった”。



 変わり果てた世界に、さすがの邪神も戸惑いを隠せない。


「……な、なんで……どうして……」



 世界は魔王によって破壊し尽くされ、数多あまたの人々の希望が奪われた。


「――まだ私暴れてないのに、先やったの誰……?」



 彼女が殺戮者であることを忘れてはいけない。


 毎日のように町を滅ぼし、自分に向かってくる人間も全て殺した。



 破壊楽しみを取られ、居ても立っても居られなくなったアリス。


「許せない……」



 ひたいに浮かび上がった筋をピクピクと動かし、完全に血が上っているようだ。


 黒い空に向けて真っ直ぐ伸びた右手。


「消えろ」









 漆黒の大地に照りつける太陽。


 午前の空はからっぽになり、澄んだ青空がアリスを見下ろしていた。


「少しは晴れたか……心」



 胸を押さえると、興奮した鼓動が感じられる。


「……誰がやったか知らないけど」



 ――強力な魔族がいる。


 それを考えるとどうにも心臓がうずき、欲望が抑えられない。



「――絶対に殺して、取り込んでやる――」



 彼女の動機は、それだけだった。

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腐死偽ノ国のドラゴンアリス イズラ @izura

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