第4話

「おっかさんキャラは好みじゃねぇ」

 俺の趣味嗜好はグラフィッカーに一刀両断され、黒髪中略僧侶からは母性要素が消えてしまった。

 俺自身のモチベも大事だが、絵師のモチベを奪うわけにも……いや仕事なんだからそこは多少妥協してくれないかな? 駄目?

 駄目でした。

 それでもギリギリで黒髪中略僧侶――デフォルトネーム「クロエ」は無事完成し、ついでにアイテム周りのミスも解消して、社長が設定した納期を12時間オーバーしたものの、ゲームは完成した。


「いやーおつかれおつかれ」

「ほんっと疲れたよ、土壇場になって三道が妙なことばっか思いつくから」

「ごめんって。でも良いゲームになった、よな?」

 オフィスのテーブルには寿司やピザ、オードブルといったデリバリー料理と、缶ビールや缶チューハイが並んでいる。すべて社長のおごりだ。

「自信ないのかよ」

「いやー、俺は全力でやったから、あとは人事を尽くして天命を待つってやつ?」

「言ってろ」

 既にゲームは配信サイトで設定しておいた発売日から販売されるようになっている。

 あとは天命という名のユーザー次第であることは事実だ。

「とりあえず明日から一週間は完成記念で休みにするよ」

「よっしゃー」

「わーい」

 俺は酒にはあまり強くない。

 デリバリーの脂っこい食べ物をビールで流し込むうちに、眠ってしまったらしい。




 ゲームは完成し、もうデバッグは必要ないというのに、またあの夢の中にいた。

 今回はクロエがパーティに加わり、地下二階へ降りた直後という状態だ。

 クロエは布の服に棍棒という、最弱ではあるものの、初期装備をしっかり装備していた。

 クロエのレベル上げのために一階へ戻り、全員のレベルが20を超えてから、再び地下二階へ降りた。

 敵からアイテムがドロップするので、階層ごとに装備が充実していく。

 クロエの回復魔法のおかげもあり、何ら苦もなく最下層の最奥――ラスボスの前まで辿り着いた。


 俺は念のために全員の装備とスキルを再確認し、ラスボスの待つ部屋の扉の罠をロロミに解除させ、とうとうラスボスと対峙した。


『ダンジョンの主の攻撃! クリティカル! クロエに1090のダメージ! クロエは死んでしまった!』

 さすがはラスボス、クリティカル一撃で体力満タンだったクロエがやられてしまった。

 しかし、このゲームの開発者たる俺が簡単に終わりはしない。

 ここへ来るまでに隠しアイテムも全て回収してきた。

 その中には、仲間を何度でも復活させられるアイテムもあるのだ。一番体力の高い俺が持っている。


『じょうじは 生命の雫を使った! クロエは生き返った!』


 更に、コンコは転職して「賢者」という職業になり、回復魔法も使えるようになっている。


 ラスボスとの戦いは長時間に渡ったが、ついにその時が来た。


『ロロミの攻撃! ダンジョンの主に2049のダメージ! ダンジョンの主を倒した!』


 やった、やったぞ!

 これで……。



 ピピピピという甲高い電子音で目が覚める。

 見慣れない天井を見つめてから、はっとなる。

 ここは俺の家で、会社ではない。


 ゲームが完成してから、俺たちは約束通り一週間の休みをもらった。

 スマホの時計で今日の日付を確認すれば、休みの初日だ。

 どうやら、いつもの癖でアラームをつけっぱなしにしてあったようだ。


 そういえば、もう8時間は前に例のゲームの配信が始まっているはず。

 どうなったのかとパソコンを起動し、配信サイトへ行ってみる。


 ゲームは無事に購入できるようになっていた。

 そしてなんと、もう既にレビューが付いているではないか。

 ドキドキしながらレビューを読んでみる。


『◯◯◯みたいなゲームがやりたくて買ってみたけど、薄っぺらすぎてがっかりでした』

『最初からいる女の子キャラ、制作者の性癖丸出し感がすごい。』

『地下二階へ降りる階段前の隠し宝箱、ゲームブレイカーすぎでは?』


 ゲームの総合評価は『賛否両論』。


 ま、まぁ酷評は想定内だ。売れ行きさえ良ければ会社的には問題ない。

 俺の心はズタズタだが。



 一週間の休みをだらだら過ごした後、久しぶりに出社した。




 その後ゲームの方は、最初の酷評は何だったのかと思えるくらい、そこそこ売れた。

 手頃な内容に手頃な価格設定だったから、バズったゲームの影響だろう。


 もうあの夢も見なくなった。



「ちょっとジョージ、何ぼーっとしてるのよ」

 グラフィッカーが頑なにバストアップ正面しか描かなかったコンコが、腰に手を当てて俺を叱責する。

「ああ、すまん。ちょっと前のこと思い出してた」

「別世界から来たって話ー? もう聞き飽きたよ」

 生意気なロロミも、全身が生き生きと動いている。

「先程の戦闘でお疲れなのでは? そろそろ休憩いたしましょう」

 労ってくれるのは、つややかな黒ロングヘアーのエルフ、クロエだ。



 ゲームを完成させて暫く経ったある日、俺は会社へ行く途中にトラックにはねられて――この世界へ転生していた。


 俺好みのキャラ、作っといて、よかった!!

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目が覚めたら制作中の3DダンジョンRPGの世界にひとりぼっちだったので、制作者権限で好みの女の子を取り揃えることにした 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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