第3話

 褐色肌中略ロリ盗賊には「生意気」という性格が設定されたが、このゲームには性格が関連してくる要素は一切ないため、些細な問題だ。

 グラフィッカーが「この性格じゃなかったら描かない」と言い張るので、そこだけ妥協しておいた。

 褐色肌中略ロリ盗賊のデフォルトネームは「ロロミ」。

 キャラの新規組み込みプログラムはコンコのものがあるから、ロロミ用に手直しするだけで済んだ。


「よう、やってるか?」


 社員は開発が始まってから家に一度か二度しか帰っていないのに、社長だけは朝10時に重役出勤してきて、就業時間の18時にはきっちり帰っていく。

 帰るといってもマンションの隣の部屋だが。


「お疲れ様。もうほぼ完成してる」

 学生時代の同期だから、砕けた口調で接する。

「おー、よくやってくれたなぁ。テストプレイできるか?」


 前にも軽く言ったが、社長はクリエイターとしての才能はない。

 一応少しだけプログラムはできるらしいが、以前別のゲームでプログラムの一部を担当した際に、とんでもないものを作ってくれたお陰で俺の負担が三倍になってからというもの、制作には一切関わらせないようにしている。


 ただ、ゲームは好きなので、出来上がったゲームを真っ先にテストプレイしてくれるのはちょっと助かる。


「はい、どうぞ」


 俺は社長のパソコンにゲームができる環境をぱぱっとセッティングした。


「……ん? こんなキャラいたか?」


 ゲームを立ち上げて数秒で、社長が首を傾げる。

「それ、こいつが急に捩じ込んできたんだよ」

 グラフィッカーが速攻でチクった。

 しまった、キャラ増加に関しては俺に味方がいない。


「ほー、そっかそっか。可愛いじゃないか」


 社長はご満悦の様子だ。よかった、俺と趣味趣向が似てた。


 ゲームに熱中する社長をよそに、他の社員は全員仕事に戻った。

 と言っても、グラフィッカーとサウンドはもう自分の仕事は終わっており、テストプレイを兼ねてデバッグをしている。

 俺だけが最終調整でちまちまとコードを直していた。




 気がつけば――ってもうこの下りはいい加減しつこいか。

 また例の夢の中だ。

 今度は画面に、俺とコンコ、そしてロロミがいる。

 ゲーム自体は一階のマッピングがほぼ済んでいるところからだ。

 ロロミのレベルがまだ1だったので、俺たちはその辺を適当にうろつき、ロロミのレベル上げをした。

 ロロミのレベルが10になったところで、例の宝箱に挑戦してみる。

 ちなみに俺はレベル14、コンコは13だ。


『宝箱だ! どうする?』


『開ける』

『罠解除』

『リムトラ』


 今回は『罠解除』が使えるようになっている。早速コマンドを選択した。


『罠解除成功!』


『ミスリルロングソードを手に入れた!』

『ミスリルナイフを手に入れた!』

『ミスリルアーマーを手に入れた!』

『ミスリルの腕輪を手に入れた!』


 本来、ミスリル装備は地下3階からでないと敵からドロップしない。

 この時点でこれはもはやチートと言っても過言ではない。

 ソードとアーマーは俺が、ナイフはロロミが、腕輪はコンコが装備した。


 ミスリル装備で身を硬めた俺たちは、意気揚々と二階への階段を降りた。


『敵があらわれた!』


 二階からはオーガという敵が登場する。

 素早さは遅いが攻撃力と体力が高い。

 ロロミのスキル「先制攻撃」もあり、俺たちは先手を取れた。


『じょうじの攻撃! オーガAに25のダメージを与えた!』

『コンコはファイアを唱えた! オーガAに57のダメージを与えた! オーガAを倒した!』

『ロロミの攻撃! オーガBに19のダメージを与えた!』

 一匹倒せたが、まだ二匹残っている。ロロミの攻撃が思ったより通らない。


『オーガBの攻撃! ロロミに72のダメージ! ロロミは死んでしまった!』

 ロロミが! レベル10じゃ足りなかったか!?

『オーガCの攻撃! じょうじに25のダメージ!』

 俺はなんとか耐えられた。ということは装備の問題か? でも、ここまで何も……あっ!?


 敵からのアイテムドロップの設定してない!

 あと俺たち全員、ミスリル装備見つけるまで武器と防具何も持ってない!


 致命的なバグ、というかミスを見つけて、俺は大いに混乱した。

 混乱していても、システムの仕様でオーガたちは動かずに待ってくれている。


 ここは一旦退いて、態勢を整えよう。

 俺は「逃げる」を選択した。


『じょうじたちは逃げた! しかし、回り込まれた!』


『オーガBの攻撃! コンコに68のダメージ! コンコは死んでしまった!』

『オーガAの攻撃! じょうじに30のダメージ! じょうじは死んでしまった!』



「はぐあっ!?」

「おい、大丈夫か?」

 あまりに無様な死に様に、俺は寝起きに間抜けな声を上げてしまった。

 グラフィッカーがゲームパッドを握ったまま、心配そうにこちらを見つめている。

「変な夢見た」

「そっか。そろそろ普通のベッドで寝たいな」

 駄弁っている間にも、寝起きの例の痛みが徐々に引いていく。

 ところで、何か忘れているような……。

「あ、三道起きた?」

 社長の声も聞こえる。どうやら一晩中ゲームしていたようだ。

「起きたよ」

「これさー、敵から一切アイテムドロップせんのだけど。仕様?」


「それだーーーーー!!」


 俺の絶叫に、他の三人がギョッと顔を上げる。


「すいません! ドロップ率の設定忘れてました! あと初期装備も!」

 そしてもう一つ、今回の夢でまた、このゲームに重要な要素が欠けていることに気づいた。


 戦闘中に仲間が倒れても優しく癒やしてくれるような……。


「それから、母性あふれる黒髪おしとやか美人エルフ耳僧侶も追加でオナシャス!!」



 今度は三人からフルボッコにされた。



*納期まで、残り1日*

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