第2話
「頼む! これは俺のモチベの問題なんだよ! 痛い! 頭だけはやめてくれ! 絵は正面バストアップ一枚表情差分ナシでいい! サウンドは使いまわしでいい! 巨乳ケモミミ娘がこのゲームにいてくれたら、俺は今までの百倍のスピードでゲームを完成に導いて見せる! 股間を狙うな! 男ならわかるだろう!?」
俺の必死の懇願――重役出社した社長が止めてくれるまでの間、どれだけ物理的に殴られても、要求を貫き通した――により、グラフィッカーはしぶしぶ新規立ち絵を描き上げてくれた。
俺の希望通りの、巨乳タレ目金髪ロングヘア尻尾ふさふさ魔法使い狐っ娘だ。
「さすが! 完璧! 最高! 神絵師!」
「ありがとよ」
目の下にべっとりと隈を貼り付けたグラフィッカーに翼の生えるドリンクを差し入れて、俺も俺の仕事をやり遂げた。
この会社にはシナリオライターがいない。
制作中のゲームにはこれといったストーリーは無く、全五階層のダンジョンを隅々までマッピングして最奥にいるボスを倒せばクリアという、シンプルな作りだ。
だから俺は、巨乳中略狐っ娘のプロフィールに適当なフレーバーテキストを付けて、初期パーティに組み込んだ。
「やった、できた。あとは……むにゃ……デバッグ……」
『敵があらわれた!』
気がついたら、先日と全く同じ夢の中にいた。
眼の前にはゴブリンが三匹。
そして……画面のパーティ一覧には、俺と狐っ娘の顔が表示されている。
狐っ娘のデフォルトの名前は「コンコ」だ。
先日と違い、俺のコマンドには「魔法」という選択肢が追加されている。
とはいえ、主人公は魔法が使えない。
このゲームは順当にやっていくと、レベルアップによって伸ばすステータスや覚えるスキルを選べるシステムだ。
前回アイテムを持っていなかったのは、デバッグ中だったせいだろう。
……って、今回もデバッグ中に寝落ちした気がするぞ!?
戦闘中だから横を向けない。
夢の中でくらい、コンコちゃんを堪能させてくれよ!
その場で叫びもがきたくても、システム上そんな動きはできない。
とりあえずゴブリンを倒そう。
俺はまた「攻撃」を選び、コンコには「魔法」から「スリープ」を選んだ。
攻撃魔法では魔法力の消耗が激しい上に、現在の最大魔法力では一匹しか倒せない。
しかし、眠らせる魔法である「スリープ」は敵全体に効く上に、相手が眠っている間はこちらの命中率が100%になるという優れものだ。
『コンコ は スリープを唱えた』
『ゴブリンAは眠った』
『ゴブリンBは眠った』
『ゴブリンCは眠った』
よっしゃ!
即座に俺のターン。相変わらず素手だが、攻撃は必ず当たる。
『ゴブリンAに7のダメージ! ゴブリンAを倒した!』
俺の素手攻撃、以外と強かった。まさかワンパンで沈むとは。
次のターンは俺とコンコの攻撃で、ゴブリンBとCも倒した。
ちなみにコンコの素手の攻撃で、ゴブリンBに12のダメージを与えていた。
もしかして俺、弱い?
やはりこの夢は、俺たちが現在進行系で作っているゲームと同じシステムらしい。
舞台はダンジョン内しかなく、最奥のボスを倒すと外へ脱出できてクリア、という設定だ。
つまり失った体力魔法力を回復するには、その場で休息をするか、回復ポーションを入手して使うしかない。
回復ポーションなんて持っていないから、俺たちはその場で休息を選んだ。
夢の中で寝たのに、起きてもまだ夢は続いていた。
しかしコンコ加入のお陰で、先日とは比べ物にならないほどダンジョン探索が捗った。
最初のうちは一戦するたびに休息が必要になっていたが、何度もゴブリンを倒すうちにレベルが上がり、一階のマッピングがほぼ終わる頃には、コンコの魔法なしでも敵をワンパンで沈められるようになっていた。
さて、地下二階へ降りる階段の前には、宝箱が置かれている隠し部屋がある。
恐らく初見プレイでは気づかない、通り抜けられる壁の向こうに、強力な武器防具が入った宝箱を設置しておいたのだ。
二週目以降のボーナスのつもりだが、俺はこのゲームの開発者。早くこの夢を終わらせるために、早速取ることにした。
『宝箱だ! どうする?』
選択肢が出た。
『開ける』
『罠解除』
『リムトラ』
そうだった。宝箱には罠を仕掛けておいたんだ。
罠解除は盗賊にしか行えないから、グレーアウトしている。
リムトラというのは、罠解除の魔法のことだ。覚えるのは司教という職業だけなので、魔法使いのコンコには使えない。こちらもグレーアウトしている。
つまり選択肢は実質一つ、開けるしかない。
『爆発! じょうじは50のダメージ! じょうじは死んでしまった!』
『爆発! コンコは25のダメージ!』
眩しさと煙たさと死の冷たさで脳みそがかき回される。
コンコのほうがダメージ少ないし生き残っているが、俺が死んでしまっては……。
「はっ! あ、痛ぇ……」
前回と全く同じ痛みで目が覚めた。その場でじっとしている間に、痛みは引いていく。
それにしても、俺としたことが大事な要素を忘れていた。
初期パーティにはもうひとり、仲間を増やさねば。
ひとり増えたらふたりも同じだろう。俺はグラフィッカーの席へ赴き、不審そうに俺を見上げるグラフィッカーに宣言した。
「褐色肌健康的ツリ眼ショートカット銀髪ロリ盗賊を初期パーティに入れよう!」
俺はグラフィッカーに胸ぐらをつかまれ、失神するまで褐色肌中略ロリ盗賊の良さについて熱く語り続けた。
*納期まで、残り4日*
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