第9話 署名人
私は、まだ監禁されている。世間的には、『世界連邦政府樹立準備委員会 特別顧問』の肩書きで、準備委員会に勤務していることになっているが、まず仕事はない。外出の許可も出ないし、外部と連絡を取るのにも監視がついてくる。ネットサーフィンも監視されてるだけではない、自分のメンタルにマイナスになりそうな情報は遮断されていた。初めは、かなりきつかった。
接触させてもらえる人間も厳選されている。古い友人が訪ねてきた時、私のところへ来るまでに、かなり根掘り葉掘りやられたらしい。元々薄い人間関係だったが、ますます薄くなった。彼女?確かにできたけど、カウンセラーの資格のある彼女なんて、彼女じゃないだろ。ベットインの最中に『これも仕事だしゃーない。』なんて心の声が聴こてくる様になったから、もうおしまいだ。被害妄想だってのは、頭ではわかってる。本当に彼女が、そう考えていたとしても、『まあ、いいいじゃない。』と考える余裕もなくなてきた。
必要がなければ、だんだん、誰ともあわなくなってきた。正直言うと、もともと引きこもりに近いオタク生活だったんで、なれるとあんまり苦じゃなくなった。そんなわけで、午前中に部屋の中のジムで汗を流し、午後から、本を読んだり、映画を見たり。週に一回は、近くの公園(といっても、敷地内だが)を散歩する。全部護衛付きだし、すれ違う人も皆、世界連邦政府樹立準備委員会の職員だ。護衛の人達を空気みたいに考えるのに、あんまり時間がかからなかった。話しかけても、会話には乗ってこない。食事はご馳走?いや、めっちゃ健康食だ。だから、血液検査の数値は、常にオールグリーンだ。酒は禁止?いや、ちょっぴり適量。健康で文化的な最高の生活だ。でも、いかにも体に悪い、脂ぎった揚げ物を大量のビールで流し込める生活に、早く戻りたかった。
そして、そろそろ決まりそうだといって呼ばれる会議に、心を躍らせて参加してみれば、またはじめから議論が蒸し返されている。何時間も付き合わされて、また元の豪華な『独房?』にもどされる。
そんな生活が、もう30年続いている。
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